ベトナム・ホーチミンでオープンした日系カプセルホテル「J-ESPACE1(ジェイ・エスパス・ワン)」。
撮影:大塚淳史
スシ、マンガ、カラオケと日本発の文化やビジネスが、外国人にウケて世界に広がっていったものが多くあるが、カプセルホテル(海外ではポッドホテルとも言われている)もそのひとつになりつつある。
人ひとり分が横になって寝られるほどの個室スペースを宿泊用に提供するカプセルホテルは、大阪で1970年代末頃に始まったとされる。今では都市部の駅前であれば大体見つけることができ、終電に乗りそこねたビジネスマンらの強い味方でもある。
最近ではインバウンドブームで日本を訪れた外国人たちがその独特の空間を面白がるようにもなっている。その“評判”のおかげか、カプセルホテルは海外にも進出。既に欧米圏や中国などアジア圏でも日本式カプセルホテルが広がっている。
「カプセルホテルならチャンスがあるかも」
ベトナム・ホーチミンでオープンした日系カプセルホテル「J-ESPACE1(ジェイ・エスパス・ワン)」。
撮影:大塚淳史
筆者が訪れたベトナム・ホーチミンでは、日系のホテル運営会社「HERITAGE VIETNAM HOTEL JSC」が、12月15日にカプセルホテル「J-ESPACE1(ジェイ・エスパス・ワン)」をプレオープンしていた。1月9日には本格オープンする。
同社の社長は関東圏でリゾートホテルを複数展開する経営者でもある。2018年9月にホーチミンを訪れた際、その熱気に驚き、この地にホテル建設をとなり、個人で出資してホテル運営会社を設立したという。ただ、すでにリゾートホテルやビジネスホテルは飽和状態だった。
ジェネラルマネジャーとして現地でオープンに奔走した阿部征樹さんは、こう話す。
「日本式の安全、安心、清潔を提供できるようなホテルで、ここで他がやっていない、カプセルホテルだったらチャンスがあるのではないかと。空間は小さいですが、日本品質で値段はリーズナブルでハイグレードなものをやろうとなりました」
「J-ESPACE1(ジェイ・エスパス・ワン)」から徒歩10分ほどにある観光地「サイゴン大聖堂」。
撮影:大塚淳史
ジェイ・エスパス・ワンが開業するカプセルホテルは、ホーチミン中心部の1区、有名観光地のサイゴン大聖堂から徒歩圏内。スタンダートカプセルは69室(男性46室、女性23室)、2人宿泊できる大きさのプレミアカプセルは8室ある。シャワールームも備え、屋上にはルーフトップカフェがあり、軽食やドリンクなどを提供する。
スタンダードのカプセルホテル。扉には鍵があり、内部には小型金庫もある。
撮影:大塚淳史
プレミアムでは2人が寝られるスペースがある。もちろんひとりで宿泊可能だ。
撮影:大塚淳史
価格は日本円に換算すると、スタンダードで約3000円、プレミアムで約4000円。日本の深夜発、ホーチミン早朝着の便が多いことから、3時間約1000円の時間貸しも提供する。
ホーチミンではバックパッカーなど旅行客が利用するゲストハウスのドミトリー部屋なら1泊1000円前後で泊まれる。三つ星のビジネスホテルでも3000円〜6000円で泊まれるホテルがそこら中にある。
阿部さんは、こう話す。
「ホーチミンのゲストハウスは安いですが、もう少し清潔さや静かさ、プライベートな空間を求めている旅行客がいるというのは、リサーチでわかりました。我々は狭いながらも快適さやプライベートな空間が確保されるという新しい価値観を提供したい」
監視カメラが設置してある。
撮影:大塚淳史
各フロアの扉は鍵をかざして開ける。
撮影:大塚淳史
シャワールームのロッカーも部屋の鍵をかざして開く。
撮影:大塚淳史
ゲストハウスは基本的には同じ部屋に二段ベッドが3つ、4つ並び、カーテンで遮る形が大半。ジェイ・エスパス・ワンが提供するカプセルホテルは個室には鍵があり、その鍵でシャワールームやロッカーを開ける。さらにシャワールーム以外には監視カメラが設置され、安全を担保している。
実際に、スタンダードとプレミアムにそれぞれ1泊した。やはり、鍵を掛けられるというのは安心できた。特にプレミアムはカプセルホテルとはいえ、空間が広いので居心地が良かった。
カプセルホテルは成長産業
プレミアムのあるフロアはシャワールームもある(スタンダードは別フロアになる)。
撮影:大塚淳史
海外で広がっているカプセルホテル産業について、こんなデータがある。
調査会社「Global Marketers 」が2019年3月に発表したレポート「Global Capsule Hotels Market 2019 by Company, Regions, Type and Application, Forecast to 2024」の概要によると、世界のカプセルホテル市場は、2018年に1億6000万米ドルとされ、2024年末までに2億1000万米ドルに達すると見られる。また、2019年から2024年の間に年平均6.2%増で成長すると予測されている。
ゼネラルマネジャーの阿部征樹さん(写真中央)とホテルスタッフ。日本語、英語、ベトナム語に対応する。
撮影:大塚淳史
日本式カプセルホテルが海外で広がるっていく背景を阿部さんはこう指摘する。
「日本に限らず今の若い人たちは旅行でも出張でも狭くても自分の落ち着ける空間があればいい。できるだけ宿泊に使うお金は抑えて、残りのお金で、例えば美味しいものに費やしたいのです」
安くてもある程度の安全、安心、清潔が保てるならオッケー。飛行機でいうLCC(格安航空)にも似ている。世界のホテル業界にもLCC化が進んできているのかもしれない。
ホテル屋上にあるルーフトップ。
撮影:大塚淳史
ルーフトップで提供された朝食セット。バンミー(サンドイッチ)とベトナムコーヒーを味わった。
撮影:大塚淳史
(文、写真・大塚淳史)