会社の「どうせ言っても無駄」文化はなぜなくならない?異常事態の“当たり前”をなくすために

グレタ・トゥーンベリ

写真は16歳にして環境活動化として声を上げたグレタ・トゥーンベリさん。2019年、日本でも#KuToo運動など、当事者が声を上げる動きが目立った。

写真:shutterstock

2019年は、当事者が声を上げる動きが目立った。

国外では、弱冠16歳にして環境活動家としてその名を轟かせたグレタ・トゥーンベリさんの登場が、日本国内にも大きな影響を与えた。日本でも、重度障害者とALS患者の国会進出や、#MeToo運動に続き#KuToo運動など、当事者が声を上げていく動きが目立った。

当事者にならないと気付けない問題はたくさんある。それを気付かせてくれる存在はとても貴重であり、声がかき消されずにこうして運動となってムーブメントを起こして行くことが、多様性を認め合うよりよい社会へ二歩も三歩も近づくことになるだろう。

しかし、現実社会はどうだっただろうか。

社員が会社でパワハラを受け自殺したというニュースや、就活の上下関係を悪用し社会人が学生にセクハラをしたというニュースなど、当事者の声が世に届くことなく、最悪な事態を招いた事件も数多くあった。これらのニュースはもはや珍しい話ではなく、「またか」と思うほどだった。

キャリアコンサルタントとして働く筆者の身の回りを見ても、理不尽な異動で精神的ダメージを受けている友人の話や、上司からの過剰な業務量の押し付けにより倒れて入院した友人の話など、当たり前のことのように耳に入ってくる。

この労働の過酷さ、異常さは、幼き頃に学んだ『あぁ野麦峠』(製糸工場の女工だった明治生まれの女性たちに聞き取り調査したルポタージュ)を彷彿とさせる。あの時、「仕事が理由で死ぬなんて、あぁ恐ろしい」と思ったことが、現実世界で起きている。

結局、飛び込む先が湖から電車になっただけではないか、と。筆者自身、うつ状態に陥り休職した経験があることから、身を投げ出したくなるような当事者の辛さがよく分かる。

「どうせ言っても無駄」

相談

企業の中には相談窓口を設置するところもあるが……(写真はイメージです)。

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こうした声を拾うべく、企業の中には社員向けの相談窓口を設置するところもある。そうした窓口がなくても、人事が定期的に面談を行い、社員の声を聞こうとする取り組みがなされている企業もある。

しかし、キャリアコンサルタントとして働いていると、一見環境の整った会社で働く人からも、労働環境の悪さや、パワハラに近い上司の嫌がらせなどの相談を受けることがある。

その人たちに、「それを人事に相談しましたか?」と聞くと、「どうせ言っても無駄」という反応がよく返ってくるのだ。まだ相談もしていない段階で、「どうせ言っても無駄」と結論づけるのは、一体なぜなのか。

社内に相談窓口がある会社に務めていた頃、誰がその窓口を担当しているのかは社内で知れ渡っていた。私は知った時あ然とした。なぜその人なのか、と。普段から横柄な態度で、社員からは怖い存在として認識されていた人物が、相談窓口の担当だった。

一度精神的に参り、体調を崩す日も多くなり、わずかな望みをかけてその担当者に相談したことがあった。結論は「まぁ頑張れ」だったが、大して驚かなかった。相談業務に不向きな人材を配置している時点で、会社が相談窓口を軽視する組織文化であることは伺えたからだ。

パワハラ・セクハラが「当たり前の文化」という絶望

パワハラやセクハラが日常的に起こり、もはやそれらが社内では“普通のこと”として認知されていると、相談窓口や人事に訴えたところで、特段珍しいことではないのでスルーされる。

こうした“異常事態が当たり前の光景”になっている組織の状態も、社員が声をあげられない原因ではないだろうか。日常的に上司から「お前なんか雇わなければよかった」などと嫌味を言われてきた男性会社員に、「人事か誰かに相談したか」と尋ねると、「社内ではこれが当たり前の文化になっていてどうにもならない」と言っていた。

社内には、上記のようなパワハラやセクハラが許されて来たような文化もあれば、誰しもが日常で感じる小さな違和感もある。

夏服・冬服の時期を指定はなぜ?

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会社に夏服・冬服の時期が指定されるルールは未だに変わらない。

撮影:今村拓馬

例えば、会社に夏服・冬服の時期が指定され、夏服の時期に半袖を解禁する慣例だ。会社の指定する時期に関係なく、暑ければ半袖で、寒ければ長袖を着ていいはずである。体感温度は人それぞれなのだから、自分が快適に仕事できる袖の長さを選んだ方が、業務の効率も上がるだろう。そもそも服装くらい判断できる大人に、なぜ袖の長さを指定してくるのだろうか。

こうした違和感についても、何十年もルールが変わることなく続けられている会社があることに、疑問を持たずにはいられない。誰しもが変だと気付きながら、もの言えない空気に圧倒され、口をつぐむのは、組織にとっても損であることに、組織は早く気付くべきである。

現場で起きている理不尽なことは、組織が大きくなるほどいろいろな社員がいるため、防ぐのは難しいだろう。ただ、だからと言って、今まで続いてきた違和感やおかしい文化も、社員全員でダンマリを決め込んでいたら、誰でも「おかしい」と言い出しにくいだろう。

当事者の声はヒントの宝の山

その上で、相談窓口や人事が社員をがっかりさせるような真似をしてはいけない。当事者が声をあげて伝える内容には、会社をよくするヒントがたくさん詰まっている。テレビで見てきたような“声を上げる人”が、職場や学校など現実世界に現れた時、周囲が声を拾えば、どれだけの気付きがあり、どれだけの改善が見られることだろう。

2020年、「言っても無駄」と言われた組織が「言ったら変わった」と言われる組織へ、どれだけの企業が変われるか。声を聞かない組織に、前進はない。

(文・境野今日子)


境野今日子:1992年生まれ。株式会社bitgrit人事部長、株式会社地方のミカタのキャリアコンサルタントなどの職場で働くパラレルワーカー。新卒でNTT東日本に入社、その後、帝人を経て現職。就活や日系大企業での経験を通じて抱いた違和感をTwitterで発信し、共感を呼ぶ。

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