Allbirdsの創業者、ジョーイ・ズウィリンガー氏。ゴールドマン・サックスやデロイトなどを経て同社を創業。
撮影:西山里緒
サンフランシスコ発のシューズブランド「Allbirds(オールバーズ)」が1月10日、ついに日本に上陸する。
2016年に創業した同社はタイム誌が選んだ「世界一履き心地の良い靴」にも選ばれ、ウォール・ストリート・ジャーナルなどによると、企業価値は14億ドル(約1500億円)以上とも報じられている。「まったく新しい」靴ブランド成功のカギはどこにあったのか。
共同創業者であるジョーイ・ズウィリンガー氏にBusiness Insider Japanは単独インタビューした。
シューズ産業は同じ戦いをしている
旗艦モデル「Wool Runners(ウールランナー)」。素材はメリノ種の羊のウールを使っている。
靴下なしで履けるシューズ、その履き心地は、ふわりと雲の上を歩くよう —— 。2016年の創業からわずか2年で100万足以上を売り上げたオールバーズは、その快適さでシューズ業界に革命をもたらした。
その枕詞ともなっているのが、20代から30代の「ミレニアル世代」からの熱い支持だ。
「創業当時、シューズブランドはみな同じ戦いをしていた」(ズウィリンガー氏)
広告にお金をかけた大々的なプロモーション。小売店に卸した結果、中抜きが行われたり、安売り合戦に巻き込まれてしまうメーカーたち。季節ごとに新しいデザインの靴を投入し、次のシーズンにはまた新たなモデルが大量生産・消費されていくというビジネスモデル。
シューズ業界のこうした慣習に疑問を感じていた創業者の2人が立ち上げたのが、「オンラインでのみ販売」「季節ごとのモデル入れ替えはしない」「小売店には卸さない」というポリシーを掲げた靴のブランドだった。
口コミから口コミへ、評判は広まった。つねにSNSで自分の服装や考え方をシェアし、エコでエシカルなブランドを求めるといわれるミレニアル世代に特にその思想は刺さった、とズウィリンガー氏は振り返る。
インスタグラムやFacebookで消費者と直接コミュニケーションをとり、自社が運営するオンラインストアで販売する、「D2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)」と呼ばれるビジネスモデルの成功例としても、オールバーズはもてはやされた。「タイミングはものすごく良かった」と同氏も運の良さを隠さない。
俳優のエマ・ワトソンやレオナルド・ディカプリオ、さらにグーグル創業者のラリー・ペイジなどのテック人材までもが、次々とオールバーズの愛用者を表明した。
日本の美学から影響受けた
オールバーズの店舗は、原宿の竹下通りから徒歩1分のところに位置する。
2人の創業者の経歴もユニークだ。
ニュージーランドの元プロサッカー選手だったティム・ブラウン氏は、大きなロゴと派手な色のスニーカーが苦手だったという。引退後、自らシンプルなデザインのシューズを作ろうと考えていた。
一方のズウィリンガー氏は、ゴールドマン・サックスやデロイトなどを経て再生可能エネルギーに関するスタートアップで働いていた。2人はひょんなきっかけから出会い、意気投合。生まれたのがニュージーランド産の高級メリノウールを活用した靴「オールバーズ」だったというわけだ。
SNSと口コミによって成功したブランドの代表格として知られるオールバーズだが、意外にもその成功に関して「秘密のトリックのようなものはない」(ズウィリンガー氏)という。
「小売や広告にお金をかけず、消費者に還元することに向き合ってきた」と同氏は強調する通り、人気の理由はやはりエコで高級な素材、サステナブルな製造プロセス、そして95ドル(日本円では1万2500円から)という価格設定だ。
さらに特筆すべきがそのデザインだ。「ムダな装飾を取り去り、機能性に集中する」というデザイン哲学は、日本的な美学からも影響を受けていると同氏は明言する。
2020年は全世界20店舗をオープン
オンラインで靴を買う、という体験はまだ多くの人にとって馴染みが薄い。だからこそ30日間「どれだけ履いても返品可能」というポリシーを貫く。
2019年頃からは、リアル店舗にも力を入れる。オンラインではできない“体験”こそがD2Cブランドの次の成長のカギなのか —— と問うと「アメリカでは8割がまだ店で靴を買っているからね。その場所に行かなくちゃ(笑)」と意外にもあっさりと同氏は答えた。
現在アメリカを中心に14店舗を展開し、2020年には日本と中国を含む全世界にさらに20店舗をオープンする予定だという。
「製品の売り方、価格、体験まで、ぼくたちはコントロールできている(からここまで受け入れられた)。小売業が激変している今、それができないブランドは苦しむと思う」(ズウィリンガー氏氏)
テッククランチなどによると、オールバーズはすでに7700万ドル(約86億円)を調達している。現在、シューズアイテムにとどまらない「サステナビリティ」をテーマにした新しい商品ラインナップも準備していると、ズウィリンガー氏はインタビューで明らかにした。
(文・写真、西山里緒)