レバノンで開かれた記者会見で、ゴーン被告は日本からの出国方法について語らなかった。
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「日本からどのように脱出したかについては話すつもりはない」
日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告は、1月8日午後10時(日本時間)にレバノンの首都ベイルートで開いた記者会見で、日本からどう出国したのかについて、一切語らなかった。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルなど一部報道によると、ゴーン被告は箱の中に身を隠し、プライベートジェットでレバノンに逃亡したという。保釈中の被告が、他国に逃れるという前代未聞の事態によって、日本の危機管理の甘さが露呈する結果となった。
半年後には東京五輪が開催され、多くの外国人観光客を迎えることになるが、日本の安全は守れるのか。3人の専門家に日本の課題を聞いた。
プライベートジェット「日本遅れている」
日本のプライベートジェットの保安確認はこれまで機長に任されていた(写真はイメージです)。
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「日本はプライベートジェットの発着数が少なく、体制が整っていると言えない。ゴーン被告は今回そこを突いてきた。東京五輪では多くのプライベートジェットを受け入れることになるが、保安確認の徹底など受け入れ体制を早急に整える必要がある」
航空政策に詳しい桜美林大学の戸崎肇教授はそう指摘する。
戸崎教授によると、欧米では時間を節約する観点から、プライベートジェットはビジネスツールとして普及しているが、日本では贅沢とみられがちで普及は進んでいない。そのためプライベートジェットの保安検査などに専属のスタッフはおらず、普段は通常の運航便を担当するスタッフが利用時に対応しているのが現状という。
国土交通省によると、これまでプライベートジェットの保安確認は、機長の判断で行われていた。同省ではゴーン被告の逃亡劇を受け今後、プライベートジェットの機内に持ち込む大きな荷物はすべて保安検査を義務化する通達を出した。
戸崎教授は「検査を厳重にするためには、人手を確保する必要があるが、検査に関わる業種の離職率は高く、経験を積んだ職員が不足している」と話す。
利便性とのバランスが大事
東京五輪では多くの外国人がプライベートジェットで来日するとみられている。
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一方で防犯を重視し検査を厳しくするだけではなく、経済効果の面からプライベートジェットの利便性も考慮する必要性があると戸崎教授は指摘する。
「プライベートジェットを利用するVIPや富裕層は、飛行機を降りてから国内への経済効果が大きい人たちだ。東京五輪にとどまらず、将来的に日本に来てもらうためにも、安全性と利便性のバランスを考えないといけない」(戸崎教授)
地方も狙われる可能性
撮影:今村拓馬
「日本が狙われると考えた時、東京や空港を思い浮かべがちだが、それだけではない。例えばフェリーで北海道とサハリン、大阪と中国がつながっている。今回のように東京に限らず、保安チェックが手薄なルートが狙われる可能性を考えないといけない」
テロ対策を研究している清和大学講師の和田大樹氏は話す。一部の報道では、ゴーン氏の逃亡のため、ゴーン氏の協力者が20回以上来日し、日本の空港などを下見したとされている。
「イラクとアメリカの応報が激化し、今後、テロの懸念が世界的に高まる可能性がある。ゴーン氏の協力者が全国を調べていたとされるように、地方であっても危機感を持った方がいい」(和田氏)
日本人による犯行リスクも
京都アニメーションの放火事件では36人が死亡した。
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テロ対策に詳しい日本大学危機管理学部の福田充教授は、空港での水際対策だけでなく、一人ひとりが防犯意識を持つことも大事だという。
「2001年の米同時多発テロ以降、世界で進んだ出入国管理の厳格化は効果を上げている。
一方で日本国内では、日本人による無差別殺傷事件が何件も起き、最近では京都アニメーション放火事件などもあった。いくら水際での対策を強化しても、ゼロリスクは不可能だ。
東京五輪を標的にして、外国人によるテロの恐れはもちろん、日本人による犯罪が起きる危険性もある。
例えば怪しい行動を見た時や、危険物を発見した時、一人ひとりが危機意識をもっていれば行動は変わってくる」
東京五輪まであと200日を切った。ゴーン被告の逃亡という痛い失態から、日本の弱点を見直す必要があるだろう。
(文・横山耕太郎)