「J-Startup」のパビリオンは昨年同様、エムテドの田子學氏がデザインコンセプトを担当。日本テレビのアンドロイドアナウンサー「アオイ エリカ」がアイコンを務めている。
撮影:太田百合子
2020年のCESでは、例年になく日本の企業が目立っている。
ソニーの自動運転車や、トヨタのスマートシティー構想が注目を集める一方で、存在感を増しているのが日本のスタートアップ企業だ。
彼らの出展を後押しするのはJETRO(日本貿易振興機構)。今や世界最大級の「スタートアップ企業の祭典」になった、CESのスタートアップエリア・Eureka Park(エウレカパーク)に、J-Startupとして29社を集めて出展した。
また、多くのメディアが集まる併催イベント「Showstoppers」にも日本エリアを展開。CESでのスタートアップ企業の露出を強力にサポートしている。
JETROはCESの併催イベント「Showstoppers」にも、日本のスタートアップブースを集めたパビリオンを出展した。
撮影:太田百合子
「J-Startup」は2018年にスタート。CES2019の出展活動の成功を受けて、CES2020では会場の中央寄りの好立地に、前年比2倍近いスペースを確保。7月にキックオフイベントを開催するなどして参加企業を募り、スタートアップ29社を集めた。
「CESは世界最大規模のテックイベントであるだけでなく、スタートアップ企業が海外メディアにアピールできる場としても、非常に大きなイベントになっている」
JETROでスタートアップ支援事業を統括する曽根一朗氏はそう語る。
JETROでスタートアップ企業支援を統括する理事の曽根一朗氏。
撮影:太田百合子
海外メディアでの露出が増えれば、CESを訪れるディストリビューターやベンチャーキャピタル、大企業などの目に止まり、ビジネスにつながる可能性も高くなる。
「エウレカパークを見てもらえばわかるように、最近では国と国との大きな競争のようになってきている。日本として単に出展するだけでなく、併設イベントなども活用して海外メディアとの接点を増やし、ビジネスにつなげていきたい」(同)
キャラクター召喚装置「Gatebox」、海外展開向けの壁マウント型を参考展示
Gateboxはキャラクターを「召喚」できる通常版のほか、壁に設置できるB2B版を参考出展。外観は似ているが、タブレットを組み込んで実現するなど、仕組みも、サービスも海外向けの別物を検討しているという。
撮影:太田百合子
ワコムとコラボで「ペンで落書きできる」木製IoTデバイス
2019年も出展していたmui Lab。木製の素材を情報ディスプレイに使う技術を応用し、CES2020ではワコムとのコラボで「落書きできる柱」を展示。
撮影:太田百合子
抹茶をコーヒーメーカーのように嗜む「Cuzen Matcha」
初出展で「CES 2020 Innovation Awards」を受賞したWorld Matchaの「Cuzen Matcha」は、会期前のメディア向けイベント「CES Unveiled」にもブースを出展し、注目を集めていた。
撮影:太田百合子
ラズベリーパイでディープラーニングを動かす「Actcast」
安価な開発ボードラズベリーパイ上でディープラーニングを使った画像認識を実用レベルで動作させる技術をもつIdeinのプラットフォーム。安価なハードを使ってペット検出や年齢性別判定、ナンバープレート認識が可能。
動作に使うラズベリーパイのコスト。
撮影:伊藤有
ラズベリーパイ上で人物認識が動作している様子。通常の学習データをそのままActcast上に持ってこられることが技術的なポイント(動作に特殊な処理が必要ない)だという。
撮影:伊藤有
料理を「冷やして保管」→「食べたいときに自動的に温める」家電
パナソニックの子会社Shiftallは、料理を冷やして保管し、スマホからセットした好みの時間に温めて食べられる家電「Cook’Keep」を参考展示。プロトタイプではあるが、実際に動作するもの。
撮影:太田百合子
国別パビリオン化するCES
エウレカパークではここ数年、カントリーパビリオンと呼ばれる国ごとの出展が増加傾向にある。
同エリアの出展要件には、コンシューマーテクノロジー関連で、発表(ローンチ)前または発表1年未満のプロダクト、かつプロトタイプやモックアップの展示が可能など、厳しめの関門を設定している。
一方、カントリーパビリオンに対してはCTA(CESの運営団体)が要件を一部緩和するなどの優遇措置を設けていることも、パビリオン化の傾向を後押ししているようだ。
フレンチテックの一団。通路の先が見えないほど奥まで、すべてフランスのスタートアップ企業で埋め尽くされている。
撮影:太田百合子
こちらはイスラエル勢のパビリオン。
撮影:太田百合子
イタリア勢のパビリオン。
撮影:太田百合子
韓国勢のパビリオン。
撮影:太田百合子
出展しているスタートアップ企業の数で、先陣を切ってカントリーパビリオン化を推進してきたフランス勢(フレンチテック)は今年も一大勢力になっていた。
今年はフランス貿易投資庁が後押しする「Business France」の20社をはじめ、「La French Tech」ブランドで300社以上が出展。フランスではリヨン、ボルドーなどの地方都市でも、官民学一体となってスタートアップ企業を支援するエコシステムが確立されており、ここ数年は地方ごとの出展も目立つ。
フランスのこうした取り組みが、日本を含む各国に大きな影響を与えていることは間違いない。
フレンチテック勢に追いつくための課題
2019年に比べてスペースが2倍近く広がったため、各社のブースも広く落ち着いて話せる雰囲気に。昨年は展示がメインだったGROOVE Xの「LOVOT」も広いスペースでのデモが可能になった。J-Startupのなかでもとりわけ取材が集中したブースの1つだった。
撮影:太田百合子
日本がフランスに追いつくための課題は何か。
JETROの担当者によればエウレカパークへの出展については、やはり厳しい要件がネックになっているという。質で対抗するためにも、新たなスタートアップの応募を増やしていかなければならない。
そのためには「都市部だけでなく、地方の企業を育てていくことも必要」(曽根氏)だ。
アドバイザーとして「J-Startup」の出展をサポートする、Shiftall代表取締役CEOの岩佐琢磨氏は「日本のスタートアップ企業は、まず日本でビジネスをやることを考えるし、日本で成功してから海外と考えがち」だと指摘する。そのため「せっかく海外メディアに取り上げられ、現地のディストリビューターやリセーラーと接点を持てても、そこから話が進まない」のが課題だという。
EUに進出しやすいフレンチテックに比べると、技術規格や輸出入など法的な壁もある。「ただ、これまではそもそも、海外メディアに取り上げられることさえ難しかった。それが2019年、2020年とJ-Startupとして取り組んで、話題をとれるところまではきたと思う。次はそれをどうビジネスにつなげられるかですね」(岩佐氏)。
(文、写真・太田百合子)