完全新設計の15.6インチモバイル「LAVIE VEGA」。有機ELの4Kディスプレイ、インテルのCorei7-9750Hの高速CPU、アルミボディー。硬質で衝撃に強いゴリラガラス天板も採用。価格は2099.99ドル(約23万円)で3月発売予定。日本向けも後日登場する。
撮影:伊藤有
NECパーソナルコンピュータ(以下、NEC PC)は、CES2020で米国市場向けに完全新設計のノートPCを含む、ノートPC2製品、オールインワンPC1製品の計3つの新製品を発表した。
これをもってNEC PCは、実に5年ぶりの2020年3月に、米国市場へ「再参入」する。
一度は実質撤退した米国市場がいまどう変化し、再参入の勝機とは何なのか、NECPCのデビット・ベネット社長に聞いた。
アメリカの市場が変わってきた
NECPCのデビット・ベネット社長。手前のPCは米国再参入製品の1つで、日本では既発表の13.3インチ、重さ約837gの軽量モバイル「LAVIE Pro Mobile」。米国では3月発売、価格1599.99ドル(約17万5000円)。
撮影:伊藤有
いま、NEC PCは国内で絶好調だ。GfKジャパンの調べによると、国内シェア(金額ベース)は2018年22.5%→2019年24.9%と、国内トップを維持しながら、シェアそのものも拡大。NEC PC広報によると、出荷台数ベースでも、2018年→2019年の伸び率は17.6%で、GfK調べの市場平均の6.6%を大きく上回る。
売上高も順調に推移している。1481億円(2016年度)→1545億円(2017年度)→1700億円(2018年度)と伸び続けている。3月決算のため2019年度の着地はまだ見えないが、Windows7サポート終了を受けた「特需」で、国内PC市場全体の出荷台数増という背景から、2018年度を上回ってくる可能性は高い。
アメリカ市場再参入を決めた理由を、ベネット氏は「以前と違って軽量PCを求めるという傾向が日米で同じになりはじめているからだ」という。
小型軽量(しかし価格も高い)のモバイルPCが日本メーカーのお家芸だったのはもう過去の話だ。いまや薄型でスタイリッシュなモダンPCは、デルをはじめとする海外メーカーが、世界の先頭に立っている。
「LAVIE HOME All-in-One」。液晶を振動させることで画面から直接、ステレオのサウンドが聞こえるLGディスプレイの技術を採用。3月発売で1799.99ドル(約19万7000円)。日本向けにも後日登場。
撮影:伊藤有
こうしたモデルは、高度な製造技術や素材を使うため高価格になりがちで、「世界的にPCの価格帯は上昇傾向にある」(ベネット氏)。結果的に、モバイルノートPCで良い素材と技術(コンポーネント)にこだわってきた日本メーカーの価格帯とほとんど変わらなくなってきた。
加えて、自身がいつも持ち歩いている約837gのノートPC「LAVIE Pro Mobile」を海外の関係者などに見せた際に、「いいね、これは売れる」と言われる機会が増加してきたことを肌身に感じて、NEC PCは今回の再参入を決めたとベネット氏は語った。
「何にでも使えるではなく、ユーザーを徹底的にセグメント化する」
スマートフォンの画面に使われるゴリラガラスを天板に採用。美しさと耐久性を両立。ブースでは鉄球を持ち上げて落とすデモも見せていた。
撮影:伊藤有
よく見ると、日本語配列ベースで、刻印のみ英語仕様。とはいえ、配列についての質問はほとんどなかったという。
撮影:伊藤有
世界最大級のテクノロジー展示会CES2020には、流通関係者もやってくる。
販路は当初、市場のニーズをはかる意味で米国レノボの直販サイトを通じて行う予定としていたが、展示を見た複数の小売り関係者からの「取り扱いたい」という声があがり、会期中にレノボ直販サイト以外の取り扱いも検討することに急きょ、変わった。
ベネット氏は当初、LAVIE Pro Mobileが一番人気が出ると考えていたが、CES2020が開幕してみると、完全新設計・4K有機ELのディスプレイやガラス天板採用などデザイン性と技術的注目点の多いクリエイターPC「LAVIE VEGA」に、高評価が集中することになった。
「パソコンはコモディティ(どれを買っても同じ)じゃない」
ベネット氏は、何度かこの言葉をプレスの質問に答えながら言ったのは印象深い。
LAVIE VEGAも、想定ユーザーを明確に絞りこんだ製品で、写真、イラストレーション、グラフィックデザインをするようなユーザーが求める性能と、こだわりを盛り込んでいる。実際、なかなかカッコいいモデルだ。
「LAVIE Pro Mobile」。約837gと非常に軽いが、「世界最軽量」をただ目指すのではなく、堅牢で軽くデザインもいいというバランスをねらった設計。
撮影:伊藤有
特にハイエンドスマートフォンでは当たり前になった、非常に鮮やかで明暗表現に優れた有機ELディスプレイの採用は、技術的な注目度が高い。また、そういった性能に詳しくない人が見ても「なんだかこの画面はすごい」と一目でわかる個性がある。
Windows7サポート終了「特需」の次の一手か
米国市場再参入は、NEC PCとしてはまずはパイロット販売の位置づけで、市場ニーズがあるのかどうかを探る段階。
「何台くらい売るつもりなのか」という質問に苦笑しつつも、公表できないが内部目標は当然あり、「簡単にクリアできるものではない」(ベネット氏)と答えた。これは、ハードルを低く設定してるわけではない、という意味だろう。
まずはこの3機種を2020年末にかけて売り切る。そして、米国市場のニーズがあることが確認できたら、本格的に米国向けの商品企画ということも考えられる段階になる。
NEC PCにとって、米国市場への再チャレンジの成功は、「Windows7サポート終了」の買い替え特需がなくなる2020年度以降の成長維持のために、重要な意味を持っている。
いまや数少なくなった日本ブランドのPCが、再び世界に通用するのか。2020年のPCメーカーの動きは興味深い。
(文、写真・伊藤有)