ウクライナ機の墜落について、撃墜の可能性を発表したカナダのトルドー首相。
REUTERS
イランの首都テヘランで1月8日、離陸直後にウクライナ国際航空の旅客機(ボーイング737-800)が墜落した問題で、カナダのトルドー首相が「旅客機がイランの地対空ミサイルによって撃墜された」との見解を発表した。
CBSなどアメリカのメディアも、米政府当局者が「イランが撃墜した可能性がある」と話していると、一斉に報じている。
何が起こったのか?
墜落したウクライナ国際航空の旅客機。
REUTERS
事故が発生したのは1月8日、イランがアメリカへの報復としてイラク国内の米軍基地を攻撃した5時間後だった。
搭乗していた乗員・乗客176人は全員死亡。このうち82人がイラン、63人がカナダ、11人がウクライナ国籍だった。
当時イラン上空は、アメリカからの攻撃に備えて防空警戒が敷かれていたという。
ロイターは米当局者からの情報として撃墜説を報道。当局が「イランが誤って撃墜した公算が大きいとの考えを示した」と伝えた。
CBSも米当局者の話として「旅客機が墜落する直前、イランの地対空ミサイル2発が発射された兆候をアメリカの衛星が捕捉した」と報じた。
テヘランのウクライナ大使館は当初、事故原因をエンジントラブルだと説明していたが、のちに声明を撤回した。
トランプ大統領「私は疑いを持っているが……」
アメリカのトランプ大統領も……。
REUTERS
カナダのトルドー首相は「私たちは、同盟国や私たちの情報当局を含む複数の情報源から得た証拠を得ている。旅客機がイランの地対空ミサイルによって撃墜されたと示している」と話した。
一方でトルドー首相は、「撃墜は意図的ではない」とも言及。現時点で結論を出すのは時期尚早だとし、証拠に関する詳細な説明は控えた上で、「徹底的な調査が必要だ」とした。
トランプ大統領は9日のイベントの会見で、「私は疑いを持っているが、それについては言いたくはない」「悲劇的なことだ。しかし、誰かが反対側で、間違いを起こした可能性がある。飛行機は荒れた地域を飛んでいた」と述べた。
イランは撃墜説を否定
ウクライナ国際航空機の墜落現場(イラン・テヘラン)。乗客、乗員176人全員が死亡した。
REUTERS
イランの民間航空局は、事故の初期調査報告書を公表。旅客機が墜落直前に炎上していたと指摘し、撃墜説を否定した。あくまで「技術的な問題」だったとしている。イランの民間航空局のトップは「アメリカ人と航空機メーカーに、ブラックボックスは渡さない」とコメント。イランとウクライナで事故を調査するとしている。
ただ、旅客機の墜落事故の調査には複数の国や政府当局、専門家、企業が協力する必要がある。正確な原因を特定するには数カ月を要することもある。ロイターは「24時間以内に最初のレポートを発行することは極めて異例」としている。
イラン政府の報道官も「アメリカによる、イランに対する心理的な戦争だ」と声明を発表した。
今後のイラン情勢は
ウクライナ・キエフの空港に設けられた献花台
REUTERS
アメリカ軍が1月3日、イランの革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害したと発表して以降、イラン側のミサイルによる報復攻撃があり、情勢は一気に緊迫化していた。だが、9日のトランプ大統領の演説で事態は沈静化に向かうと思われている。
トランプ大統領は「アメリカは平和を希求する全ての人と平和を受け入れる準備ができている」と述べ、イランとの軍事衝突を望まない姿勢を示したからだ。
ウクライナ当局は、ミサイルによる撃墜のほか、衝突、エンジントラブル、テロの4つの可能性について調査する方針だ。
(文・吉川慧)