『ブッダの仕事場』の著者で、データサイエンティストのダン・ジグモンド。
Courtesy of Dan Zigmond
- ダン・ジグモンドは仏教徒。グーグルやFacebook、YouTubeといったテック大手を渡り歩いてきたデータサイエンティストでもある。
- 著書『Buddha's Office(ブッダの仕事場)』で彼は、ブッダの教えにもとづいて、バランスをとり生産性を向上させる手法を論じている。
ジグモンドは大学を出たあと、出家して(仏僧になり)残りの人生をアジアの僻地にあるような寺院で過ごそうと考えていた。
ところが、人生とはわからないものだ。彼は恋に落ち、生まれくる子どもたちのために稼ぎが必要な立場になった。
その後、ジグモンドはグーグルやFacebook、あるいはその子会社であるインスタグラムやYouTubeのデータサイエンティストとして頭角を現し、わずか数年で成功の階段を駆けあがる。
近著『ブッダの仕事場』には、彼が仕事で成果を収めるうえで仏教の教義がどう役立ったのか、詳しく書かれている。特に大事にしてきたのはどんな教えなのか、直接聞いてみた。
1.「考える時間をつくる」こと
むやみにタイピングしても成果は出ない。
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ソフトウェア・エンジニアとして働きはじめて間もないころ、ジグモンドはデスクの前に座ったままキーボードにも触れずにいて、当時の上司によく怒られたという。
難解なコーディングの問題に頭を悩ませたり、ソフトウェアを設計したりするのに頭を悩ませていたのです、と説明したものの、上司には理解されなかったそうだ。
彼は著書でこう書いている。
「もしあなたの仕事がまだ自動化されていないなら、それはたぶん、真剣に頭を悩ませる必要のある仕事だからです」
そのために、コンピューターを離れて考える時間をつくることをジグモンドは勧める。
2.「歩きながら話す」こと
ジグモンドはYouTubeで働いていたとき、古いオフィスビルの空きフロアをぐるぐる歩き回りながら、同僚との打ち合わせやレポートの指示を出したりしていた。
彼によれば、そうすることには2つの理由がある。1つは単純で、歩きながら打ち合わせすると良い運動になるから。
もう1つは、人は体を動かしているときのほうが、無駄な力が抜けて気楽に話をできるようになるから。会議室での打ち合わせは取り調べみたいになりがちだ。
3.「自分が呼ばれないのは大した会議ではない」と考える
自分が呼ばれない会議で何か大きな成果が生まれるとは考えないことだ。
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社内の大事な打ち合わせに呼ばれないとショックを受けるものだ。
しかし、ジグモンドは違う。彼は、自分が最も重要だと思う打ち合わせに参加しようと考えることをやめた。代わりに、自分の発言が本当に必要とされる会議にだけ参加しようと考えることにしたのだ。
なぜか?必要な能力を持ち合わせた管理職なら、打ち合わせに参加できなくても、決定権をもつしかるべき社内の人間に直接レポートを送って自分の意見を表明できるはずだからだ。
ジグモンドは著書に「自分が呼ばれない打ち合わせは大した内容ではない」と書いている。
ただ、そうした発想の転換ができたのは、彼が管理職になってからの話だ。
FacebookのザッカーバーグCEOが創設した慈善団体「チャン・ザッカーバーグ・イニシアチブ」で、データサイエンス部門のトップに就任したジグモンドは、それまで経験を積み重ねて得た自信のおかげで、重要な打ち合わせに呼ばれずとも動じずにいられるのだという。
4.「本当の意味での昼休み」をとること
ジグモンドは昼休みの時間をランチを食べるだけに費やすことはほとんどない。デスクを離れて誰か友だちを探し、ピザやインド料理を食べながら仕事とは関係ない雑談にふける。そうでないときは、娘にメッセージを送ったり、予定を確認したり、私的な用事を済ませたりする。
「休むことはなまけることではなく、必要なこと。私たちのクリエイティビティは形になるまでどうしても時間がかかるのです。また、そもそも私たちの身体は休まず働くようにはつくられていません。回復する時間が必要な私たちは、休むしか方法がないのです」
5.「生活と仕事のバランス」を突き詰めて考える
家族や生活のために仕事を切り上げることを恐れてはいけない。
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ジグモンドは、社会人になってからのほとんどすべての時間を仕事と家族に使ってきた。
早くから、仕事に使う時間は1日8時間と決めてやってきたのは、そうすることで子どもたちを朝学校まで送り届けて、夕食を自宅でとることができるからだ。
彼は、子どもたちの学芸祭やクラスの誕生会に参加するために仕事を切り上げることに、良心の呵責(かしゃく)を感じたりはしない。
そうした選択は、彼にとってプロとして仕事をするための「真のコスト」なのだ。重要な会議でも、必要ならパスする。仕事量を抑える日もある。
ジグモンドは著書でこう書いている。
「自分が選んだトレードオフ(=不可欠な複数の何かを割り切って両立させること)は、大枠自分にとってこれでよかったと思っています。もしオフィスで働く時間をもっと長くとっていたら、物質的にもっと大きな成功を得ていたかもしれませんが、自分なりに十分な成功を得たと感じているからいいんです」
(翻訳・編集:川村力)