2019年1月にGoogle Cloudの最高経営責任者(CEO)に就任したトーマス・クリアン。オラクル流の改革でアマゾンとマイクロソフトを逆転できるか。
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- 米RBCキャピタル・マーケッツによると、グーグルがセールスフォース・ドットコムを買収する可能性があるという。
- RBCは、グーグルがクラウド事業を本体からスピンアウトさせ、独立会社を立ち上げるとも予測している。
- セールスフォースを買収すれば、グーグルはクラウド事業でアマゾンに次ぐ第2位に浮上する。つまり、マイクロソフトを追い越すことになる。
RBCキャピタル・マーケッツのアナリストは、クラウド事業で先行するアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)とマイクロソフトのアジュール(Azure)に追いつくため、グーグルが「大胆な方法を取る」との予測を発表した。
ただし、グーグルがRBCの予測を現実のものとするためには、天文学的資金が必要となることに留意すべきだろう。
アマゾンとマイクロソフトを抜くために
ニューヨークのセールスフォース・タワー前。
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RBCキャピタル・マーケッツは株価分析が専門。2020年のソフトウェア産業の展望レポートでは、「グーグルはセールスフォースを買収することでマイクロソフトを抜き、クラウド分野で第2位に躍進することを狙っている」としている。
買収価格は、現在の株価(180ドル、時価総額は約1600億ドル)に対して約70%のプレミアムを上乗せし、最大2500億ドル(約27兆3700億円)と見込んでいる。
もし実行するなら、グーグルは買収先(セールスフォース)の株式を担保に資金を借り入れる「レバレッジド・バイアウト(LBO)」の手法を取る必要があるという。
RBCはまた、グーグルはハイブリッド・クラウド(※)事業を加速するため、同分野で有力視される米ニュータニクスを買収する可能性についても触れている。こちらの買収価格は最大101億ドル(約1兆1000億円)と見込まれていて、現在の時価総額63億ドル(約6900億円)を大きく上回る。
※ハイブリッド・クラウド……AWSやAzureのような一般環境を利用する「パブリック・クラウド」、専用環境を利用する「プライベート・クラウド」、自社設備内で運用する「オンプレミス」を組み合わせて最適なITインフラを構築すること。
オラクルから引き抜いたクリアンCEOの思惑
米メディアThe Informationによれば、Google Cloudは撤退も選択肢に入れて事業のあり方を見直した結果、集中投資でアマゾンやマイクロソフトを逆転する方針を決めたという。
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RBCキャピタル・マーケッツによるこうした予測は、米ゴールドマン・サックスが「Global 2000」(=米フォーブス誌が毎年発表している世界の上位2000社ランキング)のテクノロジー担当の経営幹部100人を対象に行った調査によって、Google Cloudのユーザーがわずかに減少していることが明らかになった直後、発表された。
調査会社ガートナーによると、世界のクラウド市場におけるアマゾンのシェアは47.8%。マイクロソフトが15.5%で続き、グーグルは4%(いずれも2018年)。グーグルは上位からかなり引き離された第3位だ。
しかし、RBCのアナリストは、グーグルが(オラクルの上級副社長だった)トーマス・クリアンをクラウド事業のトップに据えたことで、ポテンシャルが大きく高まったとみている。最新のレポートにはこうある。
「グーグルにとって問題の核心は、パブリック・クラウド市場における世界売上高で、アマゾンはもちろんのこと、マイクロソフトからも大きく引き離され、第3位の地位に甘んじていること。グーグルはこのところ、人材やテクノロジー獲得のための業務提携やM&Aを、きわめて積極的に推し進めてきた」
セールスフォース買収は実現する?
2019年8月にBusiness Insiderが得た情報によれば、Google Cloudのトーマス・クリアンCEOは社員に対し、「5年以内にクラウド市場で少なくとも第2位になるのが目標」と語っている。
「内発的発展でこの目標を達成する方法は考えにくい。しかし、セールスフォースを買収すれば、グーグルは即座にナンバーツーになれる」(RBCキャピタル・マーケッツ)
クリアンCEOは2019年1月の就任時、すでにクラウド市場を制するような巨大買収を考えていたはず、という観測も出ている。
米ウェドブッシュ・セキュリティーズのアナリスト、ダン・アイブスはBusiness Insiderの取材に対し、次のように語った。
「クリアンCEOは大型買収を狙っていて、候補として4社の名前があがっている。財務・人事クラウド管理のワークデイ(時価総額370億ドル)」、サイバーセキュリティのパロアルト・ネットワークス(同230億ドル)、クラウド・ソフトウェアのサービスナウ(同53億ドル)、データ分析プラットフォームのスプランク(同230億ドル)がそれだ」
クラウド事業を独立させる?
クラウド市場でずば抜けた存在感を誇るアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)。2019年の年間総売上は350億ドル(約3兆8000億円)に達するとみられる。
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RBCキャピタル・マーケッツはまた、グーグルが2020年上半期にもクラウド事業を本体から切り離し、評価額が最大2260億ドル(約24兆7400億円)となる独立会社を立ち上げる可能性を指摘している。
RBCによると、クリアンCEOをクラウド事業のトップに据えたのは、明確なビジョンとウォールストリートの人脈を兼ね備えた、指導力のあるリーダーを必要としていた証拠だという。RBCのレポートは、クリアンCEOが20年にわたってオラクルの経営幹部として活躍したことを特記している。
RBCはまた、グーグルがクラウド事業のスピンアウトを検討する別の理由として、同社に反トラスト法(独占禁止法)を適用するための調査が厳しさを増していることをあげている。
さらに、グーグルの親会社アルファベットのトップが交代し、グーグルのスンダー・ピチャイCEOが後任に抜擢されたことについて、RBCは「同人事はそれぞれの事業部を通じて運営の最適化、効率化を図ろうとする意欲の表れ」と指摘している。
アマゾンのAWS事業にもスピンアウトの噂が出ているが、RBCによれば、「グーグルがクラウド事業をスピンアウトさせるほうが可能性が高い」という。
ただし、Business Insiderの取材に対してアマゾンは1月7日、AWS事業の最高財務責任者(CFO)が交代したことを認めている。AWSがアマゾン本体からスピンアウトすることになれば、CFOはきわめて重要なポジションとなる。
(翻訳:滑川海彦、編集:川村力)