センサー内蔵ランニングシューズ「GLIDERIDE」のプロトタイプ。ソール部分の中央に、スポーツテックのベンチャーnnfのセンサーが埋め込まれている。製品化の段階で同様の形態になるのかは未定。2020年中の発売を目指している。
撮影:伊藤有
先週、米ラスベガスで開催されたテクノロジー見本市CES2020に、日本のフットウェアメーカー大手アシックスが初出展した。
センサーを内蔵したスニーカーで、走りの癖やフォームの良さをデータ化するスマートランニングシューズ版「GLIDERIDE」の参考出展は、世界有数の日本のフットウェアメーカーの初出展、さらにスポーツテック参入のニュースとして、現地でも来場者が多数足を止めていた。
このスニーカーのシステムは、スポーツテックベンチャー・nnf(no new folk studio)のIoTセンサーモジュール「ORPHE CORE」を使って開発。nnfは、アシックスの投資子会社からCES開幕にあわせて資金調達の完了をリリースしたばかりだ。
アシックスブースのデモ風景。2つの参考出展の技術を使ってランナーの動きを計測する。1つはセンサーの入ったランニングシューズからの取得データ。もう1つはカメラで走る姿を撮影すると、10秒ほどで一般的なフォームとの違いを解析してくれる。
撮影:伊藤有
アシックスのブース展示のテーマは、同社の中長期目標として意識される「パーソナライズ」だ。
ブースの担当者のひとり、アシックスの牧野田玄太郎さんは、同社がパーソナライズに取り組む理由を次のように説明する。
ブースで説明をしていた一人、牧野田玄太郎さん。普段はロサンゼルスで働いているそう。手に持っているのはGLIDERIDEのソール部分。
撮影:伊藤有
「走るといっても、みんな体のつくりが違うので、走り方は千差万別。1つのソリューションが全員のランナーにあうわけではありません。
人によっては、より気持ちよく、より早く、より楽に走りたいという人も。
(こういう要望への解決策を)高い次元で提供するために、ひとりひとりに合わせたトレーニング(の指南)と(適切な)シューズ、アパレルを提供する(必要があります)。そのために、1つはセンシング、もう1つはAIを使ったフォーム分析を展示しています。(こういう世界観の実現のため)そこに向けた1つのステップとしての展示です」(牧野田さん)
実際に着用して試せるセンサー内蔵版「GLIDERIDE」は、現在はあくまでプロトタイプ。とはいうものの、すでに商品化に向けた開発が進んでおり、正式発表の目標は「2020年中」と、かなり具体的だ。製品化のためのセンサー技術のパートナーも、展示と同じnnfの技術を採用する方向で開発が進んでいる。
センサー内蔵GLIDERIDEをデモ体験した人物の、実際の分析結果。日本語表示にも対応済み。
出典:アシックス
ペースや歩幅、着地の癖など意外に細かいデータが取れていることがわかる。フォーム改善と成果確認に役立ちそうだ。
出典:アシックス
nnfを出展のパートナーとして選んだ理由は、取得したデータを見える化する際の「クリエイティビティー」だったと牧野田さんは言う。
スポーツの成績をセンシングデータ主導で改善するアプローチは、野球やゴルフに採用されるレーダーによる弾道解析などをはじめ、「分析のハイテク化」そのものは進みつつある。
一方で、数字としてデータを取り出せても、それをどう分析するのかが難しい、という声は根強い。プロチームなら、専用の分析担当をつけて解決できるかもしれないが、個人向け製品だとそうはいかない。
こちらはフォーム分析の様子。iPadのアプリで走る姿を撮影。その場で10秒ほどで映像からランナーのボーン(体の骨格)を認識し、一般的なフォームに比べてどれくらい違うのかなどを分析できるという。
撮影:伊藤有
特にアシックスの場合は、ランニングを楽しむ一般消費者に近い人たちも視野に入っている。フィットネスアプリを使うような感覚で使え、直感的で効果的なアドバイスになる「見せ方」を相当工夫する必要がある、と考えている。
老舗大企業×スタートアップの協業で、新たなスポーツテック製品が誕生する事例になるかどうか。五輪というスポーツの祭典で盛り上がる2020年の日本メーカーの動きは注目しておいて良さそうだ。
(文・伊藤有)