蔡総統が圧勝、中台関係緊張へ。中国「敵対」法に「武力統一」論や報復の可能性

蔡英文圧勝

1月11日に台湾で投開票された総統選挙では、民進党の蔡英文氏が過去最多の票を獲得し圧勝、再選した。

Getty Images / Carl Court

中国の「一国二制度」による台湾統一の是非が最大の争点となった台湾総統選挙は、民主進歩党(民進党)の蔡英文氏が、過去最多の817万票(得票率57.1%)を獲得し圧勝し、再選を果たした。

第二期となる蔡政権の中台関係は、改善するどころか米中対立の激化をもろに受け、緊張が激化しそうだ。特に蔡政権が選挙直前に成立させた、中国の浸透を防ぐ「反浸透法」に対し、中国側が「倍返し」の報復をする恐れもある。

「一国二制度」への拒否

「勝利は習近平国家主席のおかげでは?」

勝利宣言直後の会見で、英BBC記者が皮肉たっぷりにこう問うと、蔡氏は苦笑しながら「選挙結果は、習氏の一国二制度への拒否です」と応じた。

このやりとりは、選挙の争点を的確に表現している。香港での抗議活動を追い風に、蔡氏が「今日の香港は明日の台湾」と、「一国二制度」への有権者の反発と警戒を喚起したことが、圧勝につながったからである。

「一国二制度」による台湾との平和統一方針は、習近平国家主席がちょうど1年前、包括的な台湾政策「習5点」の中で改めて提起したばかり。それだけに、これを否定する結果となった今回の選挙を受け、北京がいったい台湾にどう対応するかが焦点だ。

中台関係のこう着続く

香港デモ

2019年夏前から続く香港デモ。台湾の国民、特に若い世代はこの香港のデモとそれに対する香港政府、中国の態度に不安を募らせ、民進党支持に動いたと言われる。

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まず北京の公式反応。台湾政策を所管する国務院台湾事務弁公室は1月11日の声明で、

「平和統一と一国二制度の基本方針を堅持する。いかなる台湾独立の陰謀・行動にも断固反対」

と、一国二制度方針を再確認し、蔡政権による台湾独立の動きをけん制した。型通りの反応と言えるが、北京は一歩も譲歩する気はない。蔡政権下で「こう着状態」が打開される見通しは全くない。

反応で付け加えれば、中国外務省は12日、茂木敏充外相やポンペオ米国務長官が蔡再選に祝意談話を発表したことに対し、「『一つの中国』原則に違反しており、強烈な不満と断固とした反対を表明する」と猛反発するコメントを出した。再選は日米の後押しによるもの、という不快感の表明だ。

「2021年に」統一主張する学者も

習近平

蔡氏圧勝を受けて中国では、「台湾を武力統一すべき」と主張する声も出始めている。

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一方、中国のSNSでは、蔡圧勝について「もう平和統一の可能性はない。武力統一を」という強硬論を主張する「書き込み」が急増している。

このところ中国では、武力統一を主張する声が研究者やメディアからも出始めている。これらの多くは「文攻武嚇」(言葉の攻撃と武力威嚇)やアドバルーンの域を出るわけではない。しかし、有力な中国学者が武力行使の時期として「最も早ければ2021年」としているのは不気味である。

中台関係を少し振り返って見よう。

2000年の総統選挙で誕生した民進党の陳水扁政権は、台湾名での国連加盟を目指すなど、露骨な台湾独立政策を打ち出し、アメリカや日本から見放され自壊した。

一方、2008年からの国民党・馬英九政権は、対中関係改善を進めながら、「統一せず独立せず」という現状維持路線を打ち出した。そして蔡氏もまた「現状維持」を選挙公約にして当選。2016年の第一期スタート時は、中国を刺激しない「低姿勢」に撤した。

台湾では「現状維持」が最大公約数と言っていい。

中国を敵視し言論規制も

蔡英文 サポーター

今回再選した蔡氏を支持する民進党サポーターは、党のシンボルカラーである緑を身にまとい集会に参列。若い世代が目立つ。

REUTERS / Tyrone Siu

ところが今回の選挙直前、気になる動きが出てきた。民進党政権は2019年の大晦日、野党の反対を押し切って、中国による選挙介入や内政干渉を防ぐための法律を可決・成立させたのである。それが「反浸透法」だ。

中国を事実上「海外敵対勢力」として扱い、法律に違反した場合は5年以下の懲役と1000万台湾元(約3600万円)以下の罰金も科している。「反浸透法」を拡大解釈すれば、大陸との統一を主張する野党政治家やメディア報道も、摘発の対象になる恐れがある。

自由と民主の価値観を売り物に、「独裁国家中国」と対峙する台湾が、自ら言論に制約を加え弾圧しかねない内容。「現状維持」を逸脱する法律でもある。

中国側は成立したその日の夜、「緑色(民進党のシンボルカラー)テロを煽り、敵意と対立を作り出すもので、自ら報いを受けるだろう」(国務院台湾事務弁公室)と、報復を示唆する声明を出した。

スパイ摘発の応酬も

ホンハイ

台湾の有力企業である鴻海(ホンハイ)など中国との関係が深い台湾企業は多い。今後、中国は台湾や台湾企業に対してどのような態度で臨むのだろうか。

REUTERS / Tyrone Siu

今回の選挙では、国会に当たる立法院でも民進党が過半数の議席を維持し、反浸透法は蔡総統が近く署名し発効する。かなり無理筋な法律を成立させた理由について、「中国に対する恐怖感を煽って、選挙利用するのが目的」という受け止め方が多い。

しかし、中台関係が専門の趙春山・台湾淡江大名誉教授は、台湾メディアに対し、「選挙のためと言うなら、圧勝したのだからその理由は消えたはず。もし蔡政権が強力にこの法律を推し進めれば、台湾社会に大きな分裂と傷をもたらし、中台交流にも悪影響が及ぶ」と述べ、蔡政権に慎重な対応を求めている。

法が実際に適用されれば、中国は躊躇なく「倍返し」どころか、大報復に出るだろう。

想定されるのは第1に、国家安全法や反スパイ法に基づき、中国で商売をする民進党系ビジネスマンを摘発、中台間でスパイ摘発合戦が展開される恐れがある。さらに、台湾資本への規制強化など、経済締め付けに出るかもしれない。中国観光客の台湾への訪問規制も復活するだろう。

台湾海峡の「内海化」の試みも

中国空母

中国の空母「遼寧」などを含む中国艦隊が、今後頻繁に台湾海峡を通過するなどの軍事的威嚇も考えられる。中台関係の雲行きは怪しい。

Getty Images / Keith Tsuji

第2は、空母を含む中国艦隊の台湾海峡通過を頻繁に行うなどの軍事的威嚇。中国戦闘機の中間線越境の頻度も高まり、台湾海峡の「内海化」を図る試みを次から次に打ち出す可能性がある。

第3は、蔡政権スタート以来、7カ国の国交国を失った台湾を、さらに外交孤立に追い込むことだ。

国際政治学者のイアン・ブレマー氏が2020年のリスクの3番目に挙げた「台湾・香港をめぐる米中対立」シナリオが現実化する。

中台関係は、米中関係の従属変数である。2020年からの10年間、米中関係はさらに動揺するだろう。蔡氏は「アメリカとの関係は過去最高」と誇り、2期目にアメリカとの事実上の「同盟」関係強化を鮮明にする可能性がある。中国はアメリカが台湾カードを切るたびに、報復の矛先をアメリカに対してではなく、台湾に向けてきた。

米中貿易戦争は、大陸に進出した台湾企業が回帰するなどプラスの副次効果をもたらした。しかし、それでも台湾の対中輸出依存度は4割にのぼる。

台湾の経済命脈を握る中国は、蔡政権への圧力は決して緩めないはずだ。中台関係の一層の悪化が経済に波及すれば、蔡政権のレームダック化は予想以上に早く訪れるだろう。


岡田充:共同通信客員論説委員、桜美林大非常勤講師。共同通信時代、香港、モスクワ、台北各支局長などを歴任。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。

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