ゴーン会見で明かされなかった「ずるい黒子」の正体。新生日産にもちらつく経産省の影

ゴーン会見

1月8日にレバノンで行われたカルロス・ゴーン被告の記者会見で、最大の関心とされた「日本政府関係者」の名前は明かされなかった。

REUTERS / Mohamed Azakir

中東レバノンで開かれた日産自動車元会長、カルロス・ゴーン被告の記者会見は見事に肩透かしで終わった。

世界中のメディアにとって最大の関心は逃亡方法だったのだろうが、ゴーン被告は「あなた方が興味を持っているのはわかるが、日本からどうやって出国できたか語るためにここにいるのではない」と一蹴。“大脱走”の方法について本人の口から語られることはなかった。

外の“クーデター”関係者とは?

もっとも、これは大した問題ではないような気がする。当初、日本のメディアは「クリスマスパーティのために自宅へやってきた楽団が用意した楽器に隠れてゴーン被告は出国した」というレバノンメディアの報道を伝えてきたが、その後、日本の当局が六本木ヒルズ周辺を歩く監視カメラの映像などを公開。

さらにウォール・ストリート・ジャーナルなどが具体的な逃亡方法などを報じたため、ゴーン被告がどのように出国したのかはほぼ判明しているからだ。

問題にしたいのは、ゴーン被告が会見を前に米メディアに対して「自分を追い落とした日本政府関係者の実名を話す用意がある」と発言しておきながら、結局のところ語らずじまいだったことだ。

記者会見でゴーン被告が挙げたのは西川廣人前社長兼最高経営責任者、川口均元副社長、ハリ・ナダ専務執行役員、今津英敏元監査役、大沼敏明元秘書室長、豊田正和社外取締役の6人。一連の日産の動きに関心を持っている人なら、いずれも驚くに当たらない名前だ。知りたいのは日産の外にいる“クーデター”の関係者である。

2018年に日産と仏ルノーの経営統合問題が表面化して以降、筆者は「これは両社の問題ではなく、日本とフランス政府の問題である」と指摘してきた。

経産省の動きは謎のまま

日産・ルノー

日産との経営統合を持ちかけたルノーの後ろにはフランス政府が存在すると見られている。

REUTERS / Christian Hartmann

確かにルノーは日産に経営統合を持ちかけた。

しかし、それはルノーの意思というより、ルノーの筆頭株主で、高い失業率に悩む仏政府の意向が強い。それに対して日産は猛烈に抵抗したが、ルノーからの提案には日産の監督官庁である経済産業省も強く反応し、裏で日産にあれやこれやと指図をした。

だから政府間の問題だと指摘したわけだが、経産省の思惑や動向は大手メディアの取材が十分でないこともあり、いまだに杳として知れない。

ゴーン被告の会見は、安倍政権下で財務省を差し置いて最強官庁となった経産省が、「仏自動車大手の日産自動車」阻止に向けてどう動いたのかを知る手がかりとなるはずだったが、それは今も謎として残ることになってしまった。

新生日産にもちらつく「影響力」

内田誠社長就任会見

2019年12月3日に行われた新生日産の社長就任会見での内田誠氏。

REUTERS / Kim Kyung-Hoon

そもそもの震源地である日産では、ゴーン被告を追い落とした西川氏自身も不透明な手法で多額の報酬を得ていたことが判明。もともとの人望のなさも加わって最高経営責任者の立場を追われ、後任に専務執行役員だった内田誠氏が社長に昇格した。

この内田氏を、日産とアライアンスを組む三菱自動車の最高執行責任者(COO)であるアシュワニ・グプタ氏と、日産の専務執行役員だった関潤氏が支える三頭体制が誕生したが、西川氏の後任として有力視されていた関氏は社長含みで日本電産へ転出。新生日産は早くも混乱が生じている。

日産関係者はこう言う。

「もともと日産の指名委員会で西川氏の後任として最も票を集めたのは関氏だったが、社外取締役の豊田氏が画策して関氏の社長就任を阻止した。それに怒った関氏は日産を辞め、日本電産に移ることを決意した」

豊田氏は経産省出身。内田氏を後任に据えようと動いたのは、「豊田氏と気脈が通じている西川氏に『内田氏が後任であれば院政が敷ける』と言う思惑があり、それに乗った」(日産関係者)という解説があるが、西川氏との友情だけで動いたとは考えにくい。その背後には経産省の思惑もあったことだろう。

経産省の思惑が透けて見えることはあっても、決して表面化することはまずない。仮に後任人事に失敗しても責任を取る必要がないから表に出ないのだろう。ゴーン被告の会見は、この「ずるい黒子」の実態を世間が知る格好の機会だったはずだが、結局のところ謎として残ってしまった。

「日本の司法制度の問題を世界に知らしめた点で大きな意味があった」

ゴーン会見について、メディアにはそんな評価がある。それはゴーン被告の勾留期間が長期に及んだ時にも指摘された話で、いまさら感がある。

それよりも「黒子の実相」が明るみにならなかったことの方を悔やむべきではないのか。


悠木亮平:ジャーナリスト。新聞社や出版社で政官財の広範囲にまたがって長く経済分野を取材している。

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