“奨学金を肩代わり”就活サービス「Crono Job」。大学生の2人に1人が「借金」している現状変える

腕組み

求職者の奨学金返済を肩代わりする求人プラットフォーム「Crono Job」創業者の高瀛龍さん(31)。企業の人材不足、そして重くのしかかる学生たちの奨学金 、その社会課題同士を「マッチング」するサービスである。

撮影:一本麻衣

止まらない企業の人材不足、そして重くのしかかる学生たちの奨学金 —— そんな社会課題を「マッチング」する企業が生まれた。

求職者の奨学金返済を肩代わりする求人プラットフォーム「Crono Job」は、同名の求人サイトの掲載企業に就職が決まると、借り入れ中の奨学金を企業が代わりに返済してくれるサービスだ。貸与型奨学金・民間教育ローンの利用者であれば誰でも登録でき、新卒・中途は問わない。

企業による返済は、入社後に一括で肩代わりするか勤続年数や評価に応じて段階的に行うかが、企業によって決められている。すでにDMM、ドリコム、CAMPFIRE‎など8社が契約しており、約100名の求職者が登録している。

これまでも企業が独自に奨学金の返済支援制度を設けているケースは存在したが、プラットフォームとして展開する取り組みは国内初となると、運営会社のCronoはいう。

大学生の2人に1人が「借金」

落ち込む若者

現在、大学生の50%程度が貸与型の奨学金を受給。返済できず、そのまま自己破産に至るケースも。

撮影:今村拓馬

日本学生支援機構によると、現在大学生の約半数が貸与型の奨学金を受給しており、奨学金を返済できず自己破産に至った件数は2016年までの過去5年間で1万5338人に上る。

Crono創業者の高瀛龍さん(31)は「奨学金に関して差し迫った悩みをもつ方は想像以上に多い」と語る。

高さんがこのサービスを立ち上げた背景にも、自身が奨学金を借りていたために留学を断念した経験がある。

2009年、慶應義塾大学への進学時に800万円の奨学金を借りた高さんは、在学中にファイナンスの勉強をするべくニューヨーク大学への留学を希望した。しかし、さらに250万円が必要になる現実を知り、「これ以上借金が膨らむことは避けたい」と留学を断念した。

「一番不安だったのは、就職活動のときです。入社後は奨学金を毎月6万円のペースで返済しなくてはならないことがわかっていたので、決まるまで心配で仕方ありませんでした」

新卒ではアクセンチュアに入社し、金融系のクライアントを中心に戦略コンサルタントとして経験を積んだ。その後フリーランスに転身し、CAMPFIRE‎の展開するクラウドファンディングの事業に携わる中、起業への想いは高まった。

Cronoの取締役にも名を連ねるCAMPFIRE‎代表の家入一真氏に相談しながら、海外サービスを参考に準備を進め、2019年5月にはSEAソーシャルベンチャーファンドからの資金調達を実現した。

「肩代わりしてでも採用したい」企業のホンネ

写真一番目

「優秀な人材を獲得するためであれば、奨学金の肩代わりも検討したい。」Crono Jobの創業者、高さんの元にはそんな企業からの相談が”頻繁に”寄せられるという。

高さんによると、理系や海外といった学費の高い大学に通いつつ奨学金を借りている人には、優秀な人材が多い。そのため、企業は優秀な人材を獲得する目的でCrono Jobの利用を検討するケースが多く、大企業からの引き合いもあるという。

企業側のニーズも大きい。今まで通りの総合職採用では、もはや優秀なエンジニアやデータサイエンティストは採用できない。古い企業というイメージを変え、優秀な人材を獲得するためであれば、奨学金の肩代わりも検討したい —— 高さんの元には、そんな相談が頻繁に寄せられるという。

このほか長期勤続のインセンティブやCSR対策として導入を検討している企業が多いそう。

一方、学生側の事情も切実だ。学⽣アドボカシー・グループ「⾼等教育無償化プロジェクト」が7449人を対象に行った調査では、3割以上が将来の進路を考える上で学費や奨学金の返済による影響があったとしている。

特に身動きが取れなくなっているのは、奨学金を借りて海外大に通う学生だ。

「海外大に通っている学生は、日本で就職した場合に新卒の年収が低く、奨学金を返済しながら生活していけるイメージが湧きません。かといって現地でのビザ取得は難しく、海外での就労も見込めないという話を聞きました」

「そんな状況では、学問にも集中できません」と高さん。「彼らは優秀で、将来日本をよくしたいという強い思いを持っています。国や企業が彼らのような人材をもっと支援していけば、未来はより良いものになると強く思います」とその課題の大きさを強調する。

Crono Jobは2019年11月にサービス開始。2020年夏までに登録企業数100社、登録者数200人を目指している。

“機会の平等”への道のり

希望

たとえ奨学金の肩代わりを前提に採用したとしても、その人材が退職する可能性はある。

撮影:今村拓馬

Crono Jobの掲載企業は現在8社。数としては少ないが、従来は奨学金を肩代わりしてくれる企業を選択できるプラットフォーム自体が存在しなかった。求職者にとっては入社する企業の選択肢が増えたと見ることもできる。

在学中は返済猶予期間のため借入残高は減らないものの、こうしたサービスがあると知っているだけで精神的な負担はいくらか軽くなるかもしれない。

しかし懸念すべきは、これだけ人材が流動化している今、たとえ奨学金の肩代わりを前提に採用したとしても、その人材が退職する可能性はある。その場合、再び奨学金を肩代わりしてくれる企業を見つけることはできるのか? また、企業が肩代わりしてきたことを理由に、辞めようとする社員に圧力をかける懸念はないか?

そういった懸念に対し、Cronoとしては現状、公開情報をもとに判断しているほか、社内の実情を退職者や社員にヒアリングすることで対策を取っているという。

学生が親の所得や環境に将来を左右されない“機会の平等”を真に実現するためには、プラットフォームの拡大とともに企業の倫理的な対応が求められる。

(文・一本麻衣)


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