「続けられる」「成果が出る」教育インフラへ。スタディサプリの次なる挑戦

机に座って勉強する女性

Shutterstock/Jacob Lund

「教育環境格差をなくしたい」──。こうした問題意識から、リクルートが2012年10月に立ち上げた新規事業が「スタディサプリ」だ。地域格差や経済格差を超えて、子どもたちに良質な学習コンテンツをリーズナブルな価格で届けようというオンライン学習サービスだ。スタートから8年、2019年3月末時点で、国内の累計有料会員は84万人を超えている。

そのスタディサプリが2020年2月、小学~大学受験講座のベーシックコースについて、サービス料金を月額1980円に値上げする。思い切った値上げの意図は。そしてこの先何を目指すのか。スタディサプリの企画責任者を務める笹部和幸氏に話を聞いた。

「神授業、見放題」月額980円のサブスクで人気に

笹部氏

リクルートマーケティングパートナーズ まなび事業統括本部 オンラインラーニング事業推進室 プロダクト企画1部部長、笹部和幸氏。

スタディサプリが展開する個人向けのサービスには「スタディサプリ」小学講座・中学講座・高校講座・大学受験講座と、「スタディサプリENGLISH」という大学生・社会人向け英語学習の2つがある。

小学~大学受験講座(ベーシックコース)は月額一定料金で講義動画が見放題。中学生向けの「個別指導コース」、大学受験生向けの「合格特訓コース」は、マンツーマンでオンラインコーチがつき、学習法や学習計画について包括的にサポートするというもの。一方、「スタディサプリENGLISH」は、学習目的に応じた日常英会話・ビジネス英語・TOEIC試験対策などのサービスを展開している。

生徒一人ひとりの学習進捗を一括で把握・管理できる学校向けサービス「スタディサプリfor TEACHERS」も提供している。

スタディサプリの進化

スタディサプリは2012年10月にサービスを開始。小中高校生を対象にした動画コンテンツは、2019年末時点で約4万本に増えている。

2019年末時点で動画の本数はすでに4万本を超え、ユーザー数も順調に獲得して成長してきたスタディサプリだが、1科目5000円の売り切りモデルだった2012年の立ち上げ当初は苦戦した。笹部氏は言う。

「正直なところ全然売れませんでした」

数百人に事前インタビューをしたところ「5000円なら購入したい」という感想が多く集まった。だが、蓋を開けてみるとユーザー数は増えない。そこで2013年3月、料金体系を見直し、サブスクリプションモデルを導入することにした。

「なぜ売れないかを考えたとき、ユーザーは塾や予備校ではなく他のインターネットサービスと値段を比較しているのではないかと思い当たりました。そこで、人気のある動画配信サービスなどと同価格帯の月額980円に設定し直しました」

データから見えた「三日坊主」にさせない方法

教壇で教える女性

講義動画撮影風景。動画のログデータを秒単位で解析し、より質の高いコンテンツに向けたアップデートを繰り返している。

提供:リクルート

リクルートにとっての“本流”は、クライアントとユーザーを結ぶ「マッチングビジネス」。スタディサプリのようなB2Cのコンテンツビジネスへの参入に、難しさはなかったのか。

「素晴らしい先生と出会えたことで、コンテンツ作りはそこまで苦戦しませんでした。難しかったのはコンテンツ作りよりも、ユーザーの継続率を高めること。勉強は一般的に楽しんで積極的にしてもらえる分野ではないので、継続的に取り組んでもらう難易度が高い。もはや永遠のテーマなのではないかと思うくらいです」

学習者の“途中離脱”を防ぐために、スタディサプリはさまざまな工夫をしている。1つは、マンツーマンのオンラインコーチがつくサービスだ。コーチが日々、チャットを通じて学習者と会話したり、モチベーションが上がる声がけをする。

「実際に、『コーチがいたから続けられた』という声を多くいただいています」(笹部氏)

機能拡充にも努めている。例えば、動画の中で講師が発した“声”に基づいてキーワード検索できる機能や、一人ひとりの学習の進捗状況に合わせて、復習すべき単元を順に表示する機能をつけたところ、意外にも学習時間が伸びて継続につながった。

一見、学習継続と結びつかないような機能であっても、使い勝手が良くなることで長く使っていただけるようになることもあります」(笹部氏)

学習者の視聴状況がデータで見えることは、「途中で離脱されない」コンテンツやサービスの開発にどう生きているのか。笹部氏は言う。

「離脱してしまう理由は人それぞれで、これさえ解決すればいいというような”一般的な法則”はありません。そのうえでデータを見ながら数えきれないほどのトライアンドエラーを繰り返しています」

例えば視聴者がどこで動画視聴を止めてしまったかを、動画のログデータを秒単位で解析し、その理由について仮説を立てながら講義動画を撮り直してアップデートを図っている。

その一例が、先生が解説する際の「板書」だ。先生が何も言わず書き続けるのと、何か言いながら書き続けるのとでは違うし、最初から板書が書かれた状態から動画をスタートすることでも視聴のされ方が変わる。

画面イメージ

提供:リクルート

また、学習を継続する上で、どういう人が学習継続できていてどういう人ができていないのか、データからパターンを把握することも可能。最初の3日間しっかり学習している人の中で、その後も継続できている人、反対に三日坊主になる人を比較・分析し、使い始め3日間のコミュニケーションの仕方を改善することで継続されやすくなることも分かってきた。

どのタイミングでどういう声かけをしているコーチがより学習を継続させているのかもデータとして見えるため、その成功事例をサービス改善に生かしている。

その結果、スタディサプリでは学習継続率が伸びただけでなく、第一志望の大学に合格した人の数も着実に伸ばしている(同社実施のアンケートより)。

「特に、オンラインコーチとのマンツーマンでのやり取りする個別指導コースや合格特訓コースの受講者からのリアルな反響を聞くと、学習成果につながるサービスへ進化していることの大きな手応えを感じます」(笹部氏)

2020年以降、激変する教育環境に対応し機能を拡充

価格改定の概要

サブスクリプションモデルにしてから、2020年2月に初めての値上げ。従来の月額980円から約2倍へと値上げする背景には、どのような構想があるのか。

「これまで以上に質の高い学習コンテンツに、誰もがアクセスできる環境をつくることが、より本質的な教育環境格差の解消につながる。そうした考えから、決断しました」(笹部氏)

価格設定については、社内でもさまざまな議論があったが、利用者に対する調査では「それでもまだリーズナブル」との声が多かったことも、背中を押した。

一方で、教育費の捻出が難しい子供たちに対しては、学校や自治体と連携しながら様々な取り組みを行っており、こうした支援は今後も変わらず継続していく考えだ。

スタディサプリは海外でも

リクルートが2015年に買収したQuipperは「教育環境格差の解消」というスタディサプリと共通のビジョンを持つ。現在、日本のほかフィリピン、インドネシア、メキシコの3カ国でサービスを展開。『世界の果てまで最高のまなびを届けよう』というコンセプトはこれからも変わらない。

提供:リクルート

「能動的に学ぶ」を助けるサービスを作る

2020年以降、新学習指導要領の導入や大学入試改革など教育環境は大きく変わっていく。さらに、これからの時代は教育を受ける中でも、社会に出てからも、思考力や判断力、表現力といった能動性が求められるようになる。スタディサプリが目指すのは、オンラインでありながら、子どもたちが知識を得るだけでなく、主体的に学ぶことができる仕組み作りだ。そのために今後は、今までになかったような機能開発や、インプットだけでなくアウトプットする演習系の機能追加を計画している。

「大学受験生向けでは、個々の学力レベルや志望校に応じておすすめの受講プランが提示されるようなプランニング機能の開発を計画しています。『演習問題をより充実させてほしい』という要望も多く、英語を中心に演習機能やコンテンツの強化をしようと考えています」(笹部氏)

まずは、今後の大学入試で予定されているリーディングとリスニング強化に対応するために、音声を聴いて端末上で書き取りするディクテーションや、聴いた音声を発音するシャドーイングなどの機能実装を計画している。

スタディサプリには「学習法や勉強の悩みに答えてほしい」という要望も多く届いている。塾や予備校のような対面のサービスでは、そうした悩みを先生に相談することができるが、スタディサプリのベーシックコースにはそういう場がない。そこで、今後は学習者から寄せられた悩みに対し、ライブ配信で先生に答えてもらったり、学習法をしっかり伝えてもらったりという機会も作っていく考え。

動画を視聴するだけの閉じたサービスではなく、学習者の要望ベースと時代の変化にあわせコンテンツを拡充していきたいと思っています」(笹部氏)


スタディサプリについて、詳しくはこちら。

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