イーロン・マスク率いるスペースXが計画中の「スターシップ」イメージ図。
SpaceX/YouTube
- 宇宙ベンチャー時代の「夜明け」がやって来た。
- ベンチャーキャピタルのスペース・エンジェルズが発表した、宇宙開発投資に関する2019年第4四半期のレポートによると、宇宙ベンチャーに対する民間投資額は2009年からの10年間で累計257億ドルに達した。
- 2019年は宇宙ベンチャーによる資金調達ラウンドの件数、金額とも、最高記録を大きく塗り替えた。
新しいビジネスプラン、破壊的なテクノロジーの成熟、投資ハードルの低下によって、近い将来さらなる成長が期待できる。
「スペースX」「イーロン・マスク」という言葉を聞くと、バーやピザ店が立ち並ぶ火星の街を思い浮かべるのも無理はない。マスクがくり返し語ってきた火星移住計画には、バーもピザ店もあるのだから。
SFのような話はさておき、スペースXの素顔はいたって真面目な宇宙開発ベンチャーだ。2009年に商用ペイロード(通信機器などの積み荷)の打ち上げと軌道投入に初めて成功したスペースXは、宇宙産業を取り囲む高い壁を打ち壊し、大量のアイデアと資金を注ぎ込んでいる。
宇宙開発への民間投資額は、1月14日にスペース・エンジェルズが発表した2019年第4四半期のレポート「スペース・インベストメント・クオータリー」によると、2009年からの10年間でほぼゼロから257億ドル(約2兆8000億円)まで増えた。
2019年、過去最高の投資を集めた宇宙開発
「この10年は転換期で、成長はこれからも続く。2019年は記録的な年だった」
スペース・エンジェルズのチャド・アンダーソンCEOは、Business Insiderにそう語った。
上記のレポートによると、宇宙開発への総投資額は2017年に記録した約7億5000万ドル(約820億円)が過去最高だったが、2019年はそこからさらに77%増という驚異的な記録更新となった。
2019年の宇宙開発ビジネスへの投資額、資金調達のステージごとの割合。
出典:Space Angels "Space Investment Quarterly"
民間宇宙ベンチャーが2019年に実施した資金調達の投資ラウンドは198件。総額58億ドル(約6300億円)を調達した。そのうち7割超を占める143件、6億8600万ドル(約750億円)がアーリーステージだった。
宇宙ロケットをまるごと3Dプリンターで(しかもわずか数日で)製造するリラティビティ・スペースもアーリーの1億4000万ドル(約150億円)を調達。『ダラス・バイヤーズクラブ』『スーサイド・スクワット』の俳優ジャレッド・レトも出資している。
「前途有望だ。成長している会社を支える資金がたくさんあって、新しいアイデアが次々に生まれている。健全なパイプライン、健全な初期段階のファネル(顧客しぼり込み)ができている」(アンダーソンCEO)
宇宙ベンチャー時代の「夜明け」
出典:Space Angels "Space Investment Quarterly"
スペース・エンジェルズのレポートの最初に登場する上のグラフは、2009〜19年の間に宇宙産業に投じられたプライベート・エクイティ(=未上場株式)投資の総計。著しい成長だ。同社はこのグラフに「宇宙ベンチャー時代の夜明け」というタイトルをつけている。
アンダーソンCEOは、「宇宙ベンチャー時代の到来にスペースXの果たした役割は大きい」と指摘する(なお、スペース・エンジェルズもスペースXに出資している)。
「スペースXが出てくる前には何もなかった。宇宙ビジネスに進出したい起業家がいても、どこから投資を受けたらいいのか、シードステージの資金をどうやって調達したらいいのか、わからなかった。なぜなら、ロケットを打ち上げて軌道に乗せるのにいくらかかるのか、知る手段がなかったからだ」
そこにスペースXが登場した。同社はロケットの打ち上げ費用をネットで公表しただけでなく(それだけでも宇宙産業の大手プレイヤーを動揺させたが)、その数字は競合より数千万ドルも安かった。
「2009年までは、防衛関連事業の請負契約ではカルテルが結ばれていた。衛星か何かを軌道に打ち上げるためには、経営陣が総出で国防総省に計画を説明しに行った。ペイロード1回の打ち上げはだいたい、9000万〜1億ドルの間に落ち着いた」
それが、スペースXのロケット「ファルコン9」の打ち上げ費用は現在6200万ドル(約68億円)。しかも同社は、小規模なペイロードのライドシェア方式により費用を按分するプログラムも提供している。
「いまや誰でも事業計画を考え、宇宙起業家になれる」(アンダーソンCEO)
さらに、初期に宇宙産業に乗り出したベンチャーが成熟したことで、億万長者でなくても投資できるようになった、とアンダーソンは評価する。例えば、2019年10月にヴァージン・ギャラクティックが宇宙旅行企業として初めて株式上場。実際に、誰でも同社の有人宇宙旅行計画に投資できるようになった。
「2020年には、ベンチャーキャピタルの支援を受けた民間宇宙企業が初めて上場するだろう」
アンダーソンCEOはそう予言する。彼の口からトップバッター候補の具体的な名前は出なかったものの、未上場のベンチャーは創業後3~5年で買収されることが多いため、「6~8年をかけて上場する」企業となると、数がそもそも限られてくる。
上場前の宇宙開発企業に就職するチャンスも広がった。アンダーソンCEOによると、宇宙産業で働き、ストックオプションを受けとって取り引きする人も増えた。
宇宙の可能性は無限
スペースXの宇宙船「スターシップ」の試作機(マーク1)。全長は約50メートル。
SpaceX
民間宇宙産業が今後どこまで成長を遂げるか分からないが、いまの勢いはしばらく続きそうだ。
衛星通信ベンチャーのワンウェブ、スペースX、アマゾン、さらにはアップルなどが、世界中にインターネット環境を張りめぐらせるために、数千機単位で人工衛星を打ち上げようと競い合っている。より小規模で低コストの衛星を使った新しいサービスも登場している。
さらに重要なのは、ロケットの打ち上げ費用が今後数年間でまだまだ安くなる見込みがあるということだ。
アマゾンのジェフ・ベゾスが設立したブルー・オリジンは、再利用型の大型ロケット「ニューグレン」を開発中で、スペースXの新しいライバルになりそうだ。
中国も部分的に再利用可能なロケットの開発を進めているし、ロケット打ち上げサービスの米大手ユナイテッド・ローンチ・アライアンスや、フランスの航空宇宙産業大手アリアングループも同様だ。
しかし結局のところは、スペースXの一人勝ちになるかもしれない。
イーロン・マスクによると、同社が開発している完全再利用型の次世代宇宙船「スターシップ」は、全長約118メートルの2段式ロケットで、その打ち上げコストはわずか200万ドル(約2億2000万円)になるという。これはNASAが開発中のスペース・ローンチ・システム(SLS)より99%安い。
「とんでもない数字だ。ほかのロケットは対抗できそうにない」(アンダーソンCEO)
(翻訳:矢羽野薫、編集:川村力)