テスラ創業者のイーロン・マスクCEO。
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- 2020年1月、テスラが時価総額で世界自動車産業のトップに立った。
- 同社の2019年の売上高はわずか7000万ドル(約77億円)で、販売台数はフォードやゼネラルモーターズ(GM)に遠くおよばないし、広告費もまったく使っていない。
- Business Insiderはテスラ社内向けのマーケティング資料を入手。それを読むと、テスラの謎に包まれた実体が少し見えてきた。
テスラの時価総額は2020年1月に過去最高を記録した。フォードとGMの時価総額を足しても追いつかない数字(約920億ドル、1月17日時点)だ。
カリフォルニア州パロアルトに本拠を置くテスラは、従来型の広告戦略をとらない。操業体制が謎に包まれていることでも知られる。
Business Insiderは、販売代理店がテスラ社内向けに作成したブランドポジショニング(位置づけ)資料を独自に入手。それによると、テスラは高品質の製品を生み出すライフスタイルブランドを目指していることが分かった。
同社にコメントを求めたが、返答はなかった。
「最高に安全で速い車」以上のライフスタイルブランド
テスラが中国・上海に完成させ、2019年12月に初出荷を迎えた「ギガファクトリー」。
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2018年上半期の日付が入ったこの内部資料によると、電気自動車からスマホ向けワイヤレス充電器や太陽光パネル、サーフボードまで、テスラ製品のエコシステムは「ユーザーのライフスタイルにパワー(動力)を供給するワンストップ・ショップ」と位置づけられている。
資料には、ユーザーによるエネルギー消費のマネジメントを「エンパワー(=力を与える)」したいというテスラの熱意が示されている。しかし、「企業の目的」や、世界の持続可能なエネルギーへの移行を後押しするといった「ミッション」を無理やり引き合いに出すような記述は見当たらない。
その代わり資料では、テスラ製品の品質や独自性、あるいは電気製品に切り替えることによるコスト削減の可能性が、「あなたの経済的利益を最大化する」といったフレーズを使って強調されている。
テスラのマーケティングの中心テーマは、「世界最高のプロダクト」をつくり出し、エネルギー自給の強化を通じて「これまでにない最高の体験」の提供を目指すことだ。資料には「われわれの車は路上で最も安全で、最も速い」というフレーズで表現されている。
ちなみに、このマーケティング資料が作成されたのは、テスラ車の安全性に関するイーロン・マスクCEOの(ツイッターやプレスリリースを通じた)主張が真実なのかどうか、米国家運輸安全委員会などが疑念を抱いている時期だった。
そのためか、資料はテスラの美学へのこだわりに言及し、言葉遊びの広告表現を弄することのないよう注意を促すことで、ブランドの真摯さを強調している。
テスラは有料広告を使わない
スクリーンに投影されたテスラ「モデル3」。テスラとマスクCEOは従業員たちにとって、一種の「神話」だと証言する者もいる。
REUTERS/Aly Song
マスクCEOは2019年に投稿したツイートで、広告よりプロダクトの品質向上に資金を投じたいと書いている。
だが実際は、テスラが米証券取引委員会(SEC)に提出した2018年の決算報告書を読むと、同社は「マーケティング、プロモーションおよび広告費用」に7000万ドル(約77億円)を充てたと書いてある。
テスラのマーケティング戦略は、顧客に直接あるいはメールを通じて、オンライン購入を呼びかけるのが主体となっている。
他の大手自動車メーカーのようにリスティング広告に予算をかけたりせず、ソーシャルメディアを通じてメッセージを発信している。そうしたことができるのは、テスラのプロダクトや株価、マスクCEOの発言をこまめにフォローする熱狂的ファンのおかげだ。
テスラとデジタルマーケティングやデザインプロジェクトで協業するベンダーのあるスタッフに言わせれば、テスラがファンからの高い評価に支えられ、(SNSのような)無料メディアに情報を集中させる戦略をとれるのは、従業員たちが自らのミッションを深く信じているからにほかならないという。
「テスラとイーロン・マスクCEOは一種の神話であり、同社にとって何より価値のある存在。だからこそ、無料メディア上でつくり出されるストーリーをしっかりコントロールしているわけです」
(翻訳・編集:川村力)