アマゾンは2020年を飛躍の年にできるか。
David Ryder/Getty Images
- アマゾンにとって2020年は重要な年になるだろう。
- クラウドビジネスから当日配達サービスまで、期待の高まりと同時に競合との争いもし烈さを増してきている。
- 2020年にウォッチしておくべき観点をまとめて紹介しよう。
アマゾンにとって2019年はなかなか厳しい年だった。
投資家たちは、配送サービスの迅速化やアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)に巨額をつぎ込むアマゾンを見て不安を感じていたはずだ。反トラスト法(独占禁止法)をめぐる厳しい規制環境や競争の激化も、投資家たちの気持ちをくじいたに違いない。
結果的にアマゾンの株価は2019年に23%上昇したものの、この3年間では最悪の数字だし、S&P500(=全米主要500社から構成される株価指数あるいはその構成企業)のリターンを2014年以来初めて下回った。
逆に、アップルやFacebook、アルファベット、マイクロソフトのようなメガテックは軒並みアマゾンのパフォーマンスを上回った。
ウォール街のアナリストたちに、2020年のアマゾンの展望を聞いてみると、ほとんどのアナリストが「上昇基調」と答えたものの、配送サービスやクラウドビジネス、ハードウエアへの投資のより具体的な成果を見たいとの声が相次いだ。
また、他社との競争が激化するクラウド事業でアマゾンはどう動くのか、あるいは広告事業のような新たな収益分野の成長は続くのか、投資家からの注目が集まっていることがわかった。
劇的な成長を続けてきたアマゾンだが、2019年は伸び悩んだ。それでも、アマゾンをウォッチしてきたほとんどのアナリストが、2020年もアマゾン株は「買い」と評価する。
アマゾンの株価の推移(2015年以降)。
Market Insider
2019年、アマゾン株の足かせになったのは、当日配送サービスやAWSへの巨額投資だ。投資家というのは、投資した分が何かしらの形で返ってくるまでは総じて疑う人種だから仕方がない。
それでも、ウォール街のアナリストたちの間では、アマゾンはこれまでにないような成長を遂げるとの見方には変化はない。実際、アナリスト49人中47人は昨年来、アマゾン株に「買い推奨」を出したままで、S&P500企業のなかで最も強い支持を受けている。
スイス金融大手UBSのマネージングディレクター、エリック・シェリダン氏によると、2019年のアマゾンは理解に苦しむほど多くの額を投資につぎ込んだ。しかし、もはやそうした動きに対する不安は解消され、アマゾン株はその上振れのポテンシャルを考えると過小評価と言えるほどだという。
「リスクリワード(損失と利益の割合)はきわめて好ましい状態だ」というシェリダン氏の評価はもちろん買い推奨で、相場は2100ドルと想定している。
ただ、すべての投資家が納得しているわけではない。米調査会社ループ・ベンチャーズのアナリスト、アンドリュー・マーフィー氏によれば、アマゾンの投資額に不安を感じている投資家は多いものの、現在の水準については「適切な評価」だという。
「アマゾンの小売り部門にまったくスキはないものの、(大規模な投資の)関連コストや利益へのインパクトは2020年の株価に影響をおよぼすだろう」(マーフィー氏)
アマゾンの当日配達戦略とその財務上のインパクトには、2020年も投資家の監視の目が浴びせられる。しかしアナリストたちの多くは、そうした投資が長期的な成長につながる正しいものであると考えている。
アマゾンの配送コストは売上高を上回るペースで上昇を続けている。
SEC filings; Andy Kiersz/Business Insider
アマゾンは当日配達をプライム会員向けのデフォルトサービスとするため、配送時間の短縮化におよそ30億ドルを投じた。純利益を押し下げる投資規模の大きさに衝撃を受けた投資家もいた。
しかし、多くの投資家はこの動きを長期的な成功のための正しい投資と評価している。
実際、当日配達サービスの開始後、アマゾンサイトでの売り上げが伸びたことが直近の決算発表で明らかにされているし、2019年12月の年末期間限定セール(サイバーマンデー)は過去最高の売り上げを記録し、株価は5%上昇している。
米資産運用会社ニューバーガー・バーマンのアナリスト、ハリ・シュリニヴァサン氏はBusiness Insiderの取材に対し、「配送部門への巨額投資はアマゾンの収益性に大きな影響をもたらし、株価低迷の主因にもなったが、判断それ自体は正しく、すでに売上増というかたちで投資回収も始まっている」と応じている。
「短期的には利益が押し下げられるだろうが、長期的に期待できる見返りはきわめて魅力的なものだ」(シュリニヴァサン氏)
アマゾンのもう1つの懸念は、クラウド事業(AWS)の成長が鈍化していることだ。マイクロソフトやグーグルとの競争激化が原因とみるアナリストも多い。
アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)売上高の成長率の推移(2014年以降)。
Ruobing Su/Business Insider
AWSクラウド事業はアマゾンの収益の柱の1つで、最も急速に成長している部門の1つでもあるが、その成長率は近ごろ明らかに鈍化しており、2019年には初めて40%を割っている。
減速の原因はマイクロソフト(Azure)やグーグル(Google Cloud)との競争激化とみるアナリストも多い。
米ウェドブッシュ・セキュリティーズのアナリスト、ダン・アイブス氏によると、両社と業界1位であるアマゾンの「差は間違いなく縮まって」いて、クラウド分野でのシェア争いで、2020年は「大きな分岐点になる」と予測する。
一方、減速は規模なりのものと分析するアナリストもいる。AWSの年間売上高はすでに350億ドル(約3兆8000億円)を超え、そのくらいの規模感になれば、成長率が40%台を下回るのは当然のことだ、とニューバーガー・バーマンのシュリニヴァサン氏は指摘する。
「2020年の成長率は30〜35%といったところに落ち着くだろう。そうなれば、投資家たちもいまよりずっとポジティブな評価をするようになると思う」(シュリニヴァサン氏)
規制環境は2020年もリスク要因であり続ける。しかし、アマゾンに大きな影響はないとアナリストたちは予想する。
自らアマゾン批判の急先鋒として知られるトランプ米大統領。
REUTERS/ Tom Brenner
アマゾンは近年、他の大手ITと同様に過去にない厳しい規制の目にさらされている。大統領候補から欧州議会までありとあらゆる当局者が、アマゾンの市場への影響力とその動きを見張っている。トランプ米大統領はアマゾン批判の第一人者であり続けてきた。
とはいえ、そうした政治的圧力がアマゾンのビジネスに実害をおよぼしたことはまだない。売上高は拡大を続けているし、eコマースでもクラウドビジネスでも市場シェアトップの座を守り続けている。
米調査会社ベアード・エクイティ・リサーチのアナリスト、コリン・セバスティアン氏は2019年12月に発表したレポートで、法的規制リスクを取るに足らないものとした上で、当局の監視が厳しくなることで「経営リソースが分散したり、イノベーションが鈍化することのほうがより大きなリスクだ」と指摘している。
また、UBSのシェリダン氏によれば、アマゾンは他の大手ITに比べて規制の目にさらされておらず、2019年初頭に比べれば、規制リスクに対する投資家たちの関心も高くないという。
アマゾンは食料雑貨ビジネスを拡大するため、リアル店舗の出店を加速する。
レジなし店舗「アマゾン・ゴー(Amazon Go)」は店舗数の拡大を続けている。
Shutterstock/PeterVandenbelt
アマゾンがリアル店舗数を増やしたいと考えていることには疑いの余地がない。
同社は2017年に買収したホールフーズ・マーケットの店舗に加えて、リアル書店やレジなし店舗「アマゾン・ゴー(Amazon Go)」、アマゾンサイトで星4つ以上のベストセラー商品を集めた「フォー・スター(4-star)」など多様な店舗を運営している。さらに、ホールフーズとは別に新たな形態の食品雑貨チェーンのオープンも検討している。
アナリストたちは、2020年もこうしたリアル店舗の拡大が続くと予測する。
前出のループ・ベンチャーズのマーフィー氏は、2019年にアマゾンが小売り店舗を倍増させた事実を強調する。ホールフーズは2018年に27店舗だったが、2019年末までに54店舗へと倍増。アマゾン・ゴーは同時期に24店舗へと3倍増を果たし、「2020年には30店舗以上をオープンさせ、より大規模なレジなし店舗を展開する可能性がある」(マーフィー氏)という。
RBCキャピタル・マーケッツのアナリスト、マーク・マヘイニー氏は最近公表したレポートにこう書いている。
「2020年にアマゾン・ゴーをより迅速に拡大展開できれば、食品雑貨をはじめとする売上高はもっと伸びる」
投資家たちは、アマゾンがアレクサのエコシステムをどうマネタイズするか、注視している。
四半期ごとのスマートスピーカー出荷台数の推移。グラフ最下層がトップシェアのアマゾン。上層に向かって、アリババ、バイドゥ、グーグル。
Canalys/BI Intelligence
「アマゾン・エコー(Echo)」や音声アシスタント「アレクサ(Alexa)」の成功を受けて、アマゾンはハードウェアにも多くの資源を投じ、スマートスピーカー市場ではトップシェアの獲得に成功した。
しかしループ・ベンチャーズのマーフィー氏は、アマゾンはいま、成長した(音声アシスタントをめぐる)エコシステムをどうやってお金に変えるのかを問われていると指摘する。
アマゾンはハードウエア部門について参考になる売り上げの数字を示しておらず、そのため投資家たちは、ハードウェアへの投資が本当に利益を生み出すのか証拠を探しはじめているという。
そしてさらに大きな問題は、拡大するスマホ市場あるいは空間でアマゾンがほとんど存在感を示せていないことで、それゆえにアップルやグーグルと真っ向から競うのは難しいと、マーフィー氏は語る。
「アマゾンは、防犯監視カメラの『リング(Ring)』、メッシュWi-Fiルーターの『イーロ(eero)』、アレクサ搭載の一連のデバイスなどから成るエコシステムをマネタイズできることを示さなくてはならない」
広告や配送のような新たな部門の成長は続く。
アマゾンはすでに(グーグル、Facebookに続く)全米第3位のデジタル広告企業。
Ruobing Su/Business Insider
アマゾンの売り上げを牽引するのは小売り部門やクラウド部門だが、投資家たちは広告や社内配送といった新たな事業領域にも同じくらい注目している。
ベアードのセバスティアン氏によると、配送、広告、グローバル・マーケットプレイスのようなアマゾンの新分野には「大きな成長の可能性がある」という。
投資家がとくに注目しているのは広告部門だ。RBCキャピタル・マーケッツのマヘイニー氏は2019年12月のレポートで、検索や動画ストリーミング端末「ファイアTV」のプラットフォームを活用することにより、アマゾンの2020年の広告部門売り上げは300億ドル(約3兆3000億円)に達するとの見通しを明らかにしている。
過去のデータに従えば、アマゾンの2020年業績は再び大きな伸びを示すことが予想される。
アマゾンのeコマース売上高の推移(2016年以降)。2020年予想は2570億ドル(約28兆3000億円)。
Ruobing Su/Business Insider
過去のデータを信じるなら、アマゾンは2020年、市場平均を超える成長率を叩き出すことになる。
米投資銀行サントラスト・ロビンソン・ハンフリーのアナリスト、ユーセフ・スクワリ氏によると、アマゾンの株価上昇率はおよそ20年間、2年連続で市場平均を下回ったことがない。唯一の例外が、ドットコム・バブルのはじけた2000年と2001年だ。
「過去の株価パフォーマンスは将来の結果を保証するものではもちろんないが、2019年に市場平均を下回ったことは、2020年が回復の年になることを意味していると考えている」(スクワリ氏)
スクワリ氏はまた、過去のデータに従えば、当日配達サービスの導入によってアマゾンの売上高は2020年に再加速するとも指摘する。
というのも、2005年に翌日配達サービスが始まったとき、(2005年の成長率は前年比22%だったのが)その後5年の年平均成長率で32%を記録し、もし(リーマンショックを契機とした)グレート・リセッションがなければ、アマゾンの成長はもっと早かったと推測されるからだ。
何より重要なのは、ウォール街のアナリストたちは過去の実績から、ジェフ・ベゾスCEOと彼が率いるチームが正しい長期投資を行うと信じていることだ。
アマゾンのジェフ・ベゾスCEO。1月12日が56歳の誕生日だった。
Clodagh Kilcoyne/Reuters
アマゾンを支える最も強い力は、ウォール街からジェフ・ベゾスCEOとそのチームに寄せられる信頼だ。アマゾンはほとんどの事業領域で厚い利益をあげられていない。それでも、ベゾスCEOらは長期的な成功のために正しい投資を行うに違いないと考える投資家たちが、株価の上昇を支えてきた。
ニューバーガー・バーマンのシュリニヴァサン氏によれば、アマゾンの投資サイクルには歴とした意味があり、海のものとも山のものともつかない壮大なプロジェクトに金をつぎ込んでいるわけではない。明確にユーザーの利益となる戦略的投資を行っており、成果もすでに具体化しはじめているという。
「ベゾス氏は間違いなく、現在のテクノロジー市場において最も先見の明のあるアントレプレナーです」(シュリニヴァサン氏)
(翻訳・編集:川村力)