大学入試センター試験初日。Twitterには受験生を痴漢被害から守ろうと、キーホルダーやネクタイなど黄色い物を身につけて朝から電車内を“パトロール”する人たちの報告があふれた。東京・渋谷では「まじで痴漢やめろ」と書かれたプラカードを掲げて抗議する人たちも。「痴漢は女性問題じゃなく男性問題」「世代関係なく『痴漢を許さない』という思いは一緒」。男性から中高生まで、広がりつつある連帯の現場を取材した。
黄色い物を身につけて、見守り乗車
電車内パトロールを終え、東京・渋谷で行われた「センター試験痴漢」への抗議アクションに駆けつけた人も多かった。
撮影:竹下郁子
大学入試センター試験初日の1月18日、Twitterには「#withyellow」のハッシュタグや黄色い小物、服装の写真と共に、「センター試験痴漢」から受験生を守るために電車に乗る人たちのツイートが、数多く投稿された。
「自分が受験生だったとき、町に溢れる『がんばれ受験生』『絶対合格』なんて文句を見るたびに、全員が合格することはあり得ないのに無責任なことを言うものだと思っていました。 全員が合格することはできないけど、全員に公平に試験を受けてほしいと思うから、今から見回り行きます」
「受験生を見守る黄色のアイテムをつけて、最寄りの電車に乗りました」
「以前のフラワーデモ で善意の方が配ってくれていた、痴漢にNOの姿勢を示す黄色い安全ピン。今日は一緒に参加しました」
「見守り活動開始しています。平日朝のような混み方はしていませんが、空いている電車でも痴漢する人はいるので、油断せず見守りします!」
「黄色忘れてた!と思って足元見たら靴!小田急線見回ります」
男性の参加者も多数
東京・渋谷の集会に参加した男性。「運動を広げたい」と話す。
撮影:竹下郁子
男性からの投稿も。
「乗りました。受験生の皆さん試験頑張って。黄色の物を身につけてる人結構いる。偶然ですかね、そんなに混んでない車両で3人も。全員男性。もっと広がれ!」
「黄色持ってないので、金色で代用してます。これから少しだけど参加してきます」
「本日は黄色コーデ」
普段は見えない景色が見えた
大学入試センター試験初日、東京は雪が降るなど悪天候だった。
撮影:竹下郁子
今日のために電車の1日乗車券を買った人、恋人と一緒にパトロールした人、また、同じように黄色い物を身につけた人を見かけた人も多かった。見守り活動をしたことで、痴漢の暴力性を改めて感じた人もいた。
「受験生と見られる学生は、私服の子も制服の子もいるね。そわそわした様子の受験生を実際に見ると、改めてこんな学生たちを狙うって宣言する痴漢の卑劣さに腹立ってくるな」
「私が見てる中では大丈夫だったけど、見てないところでもしかしたら……って思ったら歯痒い。 もっともっと、痴漢許さないっていう風潮が広がれば」
「電車の中を注意して見てると、普段は見えない景色が見えるもんだね。 スカートを履いている女の子の隣に、周りガラガラなのにわざわざ来て、足を眺めてる男性とかね。 それ以上のことはしなかったから黙ってたけど、もし盗撮とか触るとかしたら声かけてたわ」(Twitterより)
「#withyellow」は痴漢被害をワンクリックで報告、情報共有できるアプリ「痴漢レーダー」のメンバーが立ち上げたプロジェクトだ。同アプリでは同じ車両に乗っている人など、近くにいる人からの被害報告通知を受け取れる機能をセンター試験日に合わせて追加。黄色い物を身につけて電車に乗り、もしもの時は助けようと呼びかけていた。
SNSやインターネットの掲示板には、センター試験日を狙って痴漢をすることをほのめかしたり、誘導するような卑劣な投稿が数多くあったことが、同プロジェクトのきっかけだ。
痴漢は犯罪、軽視しないで
雪が降る中、道行く人に「#withyellow」の説明をするプロジェクトスタッフ(東京・渋谷)。
撮影:竹下郁子
同日、午前中の見守り活動を終えた人や同プロジェクトに賛同する人が東京・渋谷に集まり、気温2度、雪の降る中、「まじで痴漢やめろ」「周りが関心を持てばチカンは無くせる」などのプラカードを掲げた。
29歳の女性は、午前7時からセンター試験会場の大学近くの駅などを見守り乗車した後で駆けつけたと話す。プロジェクトに参加しようと思ったのは、友人が深刻な痴漢被害にあったこと、また自身が過去に性被害を警察に相談した際、「だから?」と言われたことが今も忘れられないからだ。
「日本は性犯罪を軽視する人が多過ぎる。社会の意識を変えるために、まずは私が動こうと思いました」
黄色いチェーンは子どものおもちゃ用に購入したものだそう。
撮影:竹下郁子
3歳の娘がいるという女性は、子ども用のおもちゃだという黄色のチェーンを鞄につけて参加した。「センター試験が痴漢の狙い目」だとネットで話題になっているのを知ったのは、数年前。
「当時も『気持ち悪い』と思ったものの、何も行動できなかった。子どもたちに今より少しでも良い未来を生きて欲しいから、いま声を上げます」
黄色のスカート、腕章、キーホルダーで見守り乗車した女性。他の参加者もマフラーや手袋など、ファッションに黄色を取り入れる人は多かった。
撮影:竹下郁子
黄色いスカートで午前6時半から3時間以上、見守り乗車をしてきた女性(23)は、「通知が来なかったことに少し安堵した」と話す。自身も幼い頃から繰り返し痴漢被害にあってきた。
「当時は幼な過ぎて、後になって『あれは痴漢だった』と気づいたこともあります。性被害の傷は一生残る。同じような思いを誰にもして欲しくないんです」
電車が怖い女子中学生。男性も当事者意識を
高校生(左)中学生(右)の参加者も。彼女たちにどんな未来を見せられるか、大人が果たすべき役割は大きい。
撮影:竹下郁子
参加者には、これからセンター試験を受ける中学生、高校生もいた。「痴漢をしているあなたをみんな見ています」というプラカードを掲げていた中学3年生の女子は言う。
「『センター試験の日に痴漢をしよう』なんて考える人がいると知った時は、驚きました。知ったからには、行動しないわけにはいかない。友達の中には、何度も痴漢被害にあって電車に乗ることが怖くなった子もいます。絶対に許せません」
一緒に参加していた高校1年生の女子も
「痴漢を許さないという思いに、世代は関係ない。みんなで1つになれると思っています」
と話した。
幼少期に痴漢被害にあったという男性。痴漢は「女性問題」ではなく「男性問題」だという。
撮影:竹下郁子
参加者には男性も多かった。黄色の腕章と手袋をつけ、午前8時から11時まで見守り乗車をしていたという男性(49)は、自身も幼稚園時代に男性用トイレで成人男性から痴漢被害にあったという。
「今もトラウマに苦しんでいます。性被害の影響は、幼少期の楽しい記憶も全て塗りつぶすほど大きい。センター試験痴漢の問題やこの活動を知ったとき、他人事じゃないと思いました。
これは『女性問題』ではなく『男性問題』です。男性も当事者意識を持つべきだと思います」
(文・竹下郁子)