バクテリア、砂、ゼラチンでできた新たな建築材料は、さまざまな形に成形できる。
University of Colorado Boulder | College of Engineering and Applied Science
- コロラド大学ボルダー校のエンジニアチームは、生きた微生物を使った建築材料を開発した。
- この素材は、3世代にわたって増殖させることができる。
- 火星で居住地を作るとしたら、理想的な建築材料になるだろう。
コロラド大学ボルダー校のエンジニアチームは最近、まるで子どもの科学プロジェクトのような実験を行った。砂とゼラチンを混ぜたものに、バクテリアのコロニーを加えたのだ。すると、生きて呼吸をする新たな建築材料が誕生した。生物なので繁殖することもできる。
このブロック状の建築材料の元となっているのはシアノバクテリア。二酸化炭素を取り込み、光合成を行って、粉末状の炭酸カルシウムを生成する。これはセメントの主原料であり、材料をさらに強固にする。
「ライス・クリスピー(rice crispy treats)を作るのによく似ている。固い素材を加えることで、マシュマロがしっかりと固まる」と、プロジェクトを率いる構造エンジニアのウィル・スルーバー(Wil Srubar)氏はCU Boulder Todayに語った。
「このブロックは踏んでも壊れないほど強い」
バクテリアを加えることで、砂やゼラチンは命を吹き込まれたようになる。バクテリアのコロニーは急激な速さで成長し、2倍の大きさになったブロックを半分にカットすると、それらがさらに3世代にわたって増殖を繰り返す。つまり、1個のブロックが8個に増えるということだ。
フランケンシュタインのような材料
ゼラチンは、砂粒をくっつけ、ブロックの構造を安定させる。そこにバクテリアを加えることで、今日の建築でブロックや石の接着などに用いられるモルタルのように強固な材料となる。
だが、バクテリアが成長するには、高い湿度が必要だ。
この生きたブロックの寿命を調べるために、材料をシューズボックスほどのサイズの容器に入れ、乾燥した室温の環境に置いた。数日後にはバクテリアが死に始め、1カ月後には9%から14%のコロニーしか生き残らなかった。しかし、室温と湿度を上げると、再び成長し始めた。
ひし形の型に入れられた「フランケンシュタイン・ブロック」の材料。
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このプロセスは、研究者らにフランケンシュタインを思い起こさせた。
「シアノバクテリアは実際に緑色で、まさにフランケンシュタインのような材料だ」と、スルーバー氏はCU Engineeringに語った。
この材料で火星に居住地が作れるかもしれない
世界の二酸化炭素排出量の40%近くは、建築部門から排出されている。
シアノバクテリアは二酸化炭素を取り込むので、この生きたブロックの利用によって二酸化炭素削減につながる可能性がある。さらに、このブロックには増殖能力があるため、建設現場で建築材料を「育てる」ことができ、建築材料の製造や輸送の際に発生する二酸化炭素の削減につながる可能性がある。
ウィル・スルーバー氏(左)。
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この材料を乾燥にも耐えられるものにできれば、月や火星でも建物が建設しやすくなるかもしれない。宇宙船で運ばなくてはならない建築材料が少なくて済むからだ。
だが研究チームはまず、より現実的な利用法について検討している。例えば、このバクテリアの再生能力を活かし、地震などの自然災害による建築物のひび割れを、自力で修復するといったことだ。
「木材などの生物素材が、すでに建築材料として使われてはいるが、それは生きているわけではない」とスルーバー氏はCU Boulder Todayに語った。
「我々が研究しているのは、なぜこれらを生かし続けて、生物的な特性を有効利用できないか、ということだ」
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)