封印された?あの映画のラストシーンの一言

演説では随所に東京オリンピック・パラリンピックに関する話題が散りばめられていた。

演説では随所に東京オリンピック・パラリンピックに関する話題が散りばめられていた。

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通常国会が1月20日に召集され、安倍晋三首相が今年の政府方針を述べる施政方針演説があった。時間にして約40分。演説の随所には、東京オリンピック・パラリンピックに関する話題が散りばめられていた。

戦後復興の象徴となった1964年大会と、東日本大震災からの「復興五輪」を掲げる2020年大会を重ね合わせつつ、政府方針と五輪ムードを結びつけることで、政権の実行力や政策アピールを演出したいという思いがにじむ内容だった。

一方で、公文書管理のあり方が問われている「桜を見る会」や、自民党の秋元司衆院議員が逮捕されたIR汚職事件、前回の参院選で河井克行前法相・河合案里参院議員が公職選挙法違反の疑いで事務所の家宅捜索を受けた件などには一切触れなかった。

「半世紀ぶりに、あの感動が我が国に」と自信

1964年の東京オリンピックは、日本が平和国家として生まれ変わったことを世界にアピールする大会となった。

1964年の東京オリンピックは、日本が平和国家として生まれ変わったことを世界にアピールする大会となった。

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まず演説の冒頭、安倍首相は1964年の東京オリンピックの開会式に言及。その意義について語った。

その上で、今夏に開催される東京オリンピック・パラリンピックで「日本全体が力を合わせて世界中に感動を与える」「国民一丸となって新しい時代へ」など、国民への協力を求める言葉を並べた。

五輪史上初の衛星生中継。世界が見守る中、聖火を手に、国立競技場に入ってきたのは、最終ランナーの坂井義則さんでした。


8月6日広島生まれ。19歳となった若者の堂々たる走りは、我が国が戦後の焼け野原から復興を成し遂げ、自信と誇りを持って、高度成長の新しい時代へと踏み出していく。そのことを世界に力強く発信するものでありました。


「日本オリンピック」。坂井さんがこう表現した64年大会は、まさに国民が一丸となって成し遂げました。未来への躍動感あふれる日本の姿に、世界の目はくぎ付けとなった。


半世紀ぶりに、あの感動が、再び我が国にやってきます。本年のオリンピック・パラリンピックもまた、日本全体が力を合わせて、世界中に感動を与える最高の大会とする。そして、そこから、国民一丸となって、新しい時代へと、皆さん、共に、踏み出していこうではありませんか。

これ以外にも、東京オリンピック・パラリンピックに絡んだ言葉が随所に散りばめられた。

例えば、地方創生に関する部分では「全体で500近い市町村が今回ホストタウンとなります。これは全国津々浦々、地域の魅力を世界に発信する絶好の機会」と訴えた。

また、今春から金融機関の「二重取り」(中小企業の経営者が交替する時、先代・次代の経営者両方から個人保証を取ること)を禁止すると表明した部分では「(1964年に)『東洋の魔女』が活躍したバレーボール。そのボールを生み出したのは、広島の小さな町工場です」と紹介した。

「オリンピック開催の本年、戦後外交を総決算する」

「戦後外交の総決算」を掲げたが、その実現可能性は…?

「戦後外交の総決算」を掲げたが、その実現可能性は…?

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外交政策でも、オリンピックを絡めることに余念がなかった。

2019年のNHK大河ドラマ『いだてん』に登場した嘉納治五郎の言葉に触れつつ「オリンピック・パラリンピックが開催される本年、我が国は積極的平和主義の旗の下、戦後外交を総決算」すると胸を張った。

日本が、初めてオリンピック精神と出会ったのは、明治の時代であります。その時の興奮を、嘉納治五郎はこう記しています。


「世界各国民の思想感情を融和し以て世界の文明と平和とを助くる」


オリンピック・パラリンピックが開催される本年、我が国は、積極的平和主義の旗の下、戦後外交を総決算し、新しい時代の日本外交を確立する。その正念場となる一年であります。

総決算の一つとして、安倍首相はロシアとの領土問題(北方領土問題)の解決に言及した。

1956年宣言を基礎として交渉を加速させ、領土問題を解決して、平和条約を締結する。この方針に、全く揺らぎはありません。私と大統領の手で、成し遂げる決意です。

しかし、これは先行き不透明だ。これまで日本政府は歯舞群島、色丹島、国後島、択捉島の「4島返還」を基本方針にしていた。

ところが2018年、安倍首相はプーチン大統領と「1956年の日ソ共同宣言を基礎に平和条約交渉を加速させる」と合意した。

演説の中の「1956年宣言」とは「日ソ共同宣言」のこと。日本とソ連(現ロシア)が、平和条約の締結後に歯舞群島・色丹島を日本に引き渡すことで同意したものだ。

つまり安倍首相は「4島返還」ではなく日ソ共同宣言で合意した「2島返還」を持ち出すことで、ロシア側の譲歩を引き出そうとし、かつ北方領土への経済協力も推進した。

ところが、プーチン大統領は北方領土問題で妥協は見せていない。とくに返還後に米軍が展開することを警戒しており、道筋は前途多難だ。

オリンピックを「憲法改正」にも絡めた

傑作と名高い記録映画「東京オリンピック」。そこに込められたのは「人類の夢」だったが…

傑作と名高い記録映画「東京オリンピック」。そこに込められたのは「人類の夢」だったが…

撮影:吉川慧

演説の締めくくりで、安倍首相は市川崑監督が手掛けた1964年の東京オリンピックの記録映画を紹介した。

ラストシーンの言葉を引用しつつ、安倍首相は「令和の新しい時代が始まり、オリンピック・パラリンピックを控え、未来への躍動感にあふれた今こそ実行の時」「先送りでは次の世代への責任を果たすことはできません」と前置きした上で、自身の念願である「憲法改正」の話題へと紐付けた。

「人類は4年ごとに夢をみる」


1964年の記録映画は、この言葉で締めくくられています。新しい時代をどのような時代としていくのか。その夢の実現は、今を生きる私たちの行動にかかっています。


社会保障をはじめ、国のかたちに関わる大改革を進めていく。令和の新しい時代が始まり、オリンピック・パラリンピックを控え、未来への躍動感にあふれた今こそ、実行の時です。先送りでは、次の世代への責任を果たすことはできません。


国のかたちを語るもの。それは憲法です。未来に向かってどのような国を目指すのか。その案を示すのは、私たち国会議員の責任ではないでしょうか。


新たな時代を迎えた今こそ、未来を見つめ、歴史的な使命を果たすため、憲法審査会の場で、共に、その責任を果たしていこうではありませんか。

演説の中で安倍首相は、1964年の記録映画は「人類は4年ごとに夢をみる」という言葉で締めくくられていると述べたが、実はこの言葉には続きがある。

実際のラストシーンに映し出される言葉はこうだ。

聖火は太陽へ帰った

人類は4年ごとに夢を見る

この創られた平和を夢で終わらせていいのであろうか

果たして、安倍首相の「夢」と、人類・国民の「夢」は一致しているのだろうか。

演説を単語レベルで分析すると…

Business Insider Japanでは、テキストマイニングの手法で安倍首相の施政方針演説を分析した。

※「テキストマイニング」とは、単語レベルで文章を分解し「ワードクラウド」や単語の出現頻度などを分析するもの。分析には「ユーザーローカル」のツールを用いた。

「ワードクラウド」では文章中でスコアが高い単語を複数選び出し、その値に応じた大きさで示される。頻出しているものが大きい、使用回数が少ないものが小さいとは限らない。品詞の種類で色分けされ、青は名詞、赤は動詞、緑は形容詞を表す。

「ワードクラウド」では文章中でスコアが高い単語を複数選び出し、その値に応じた大きさで示される。頻出しているものが大きい、使用回数が少ないものが小さいとは限らない。品詞の種類で色分けされ、青は名詞、赤は動詞、緑は形容詞を表す。

extmining.userlocal.jp

一年の政府方針を語る「施政方針演説」ため、動詞では「まいる(〜してまいる)」「創る」「取り組む」などの言葉が目立つ。「新しい時代」は、昨年の改元を意識した文脈で登場した。

5回以上登場した名詞は…


施政方針演説に登場した言葉は?

施政方針演説に登場した言葉は?

Business Insider Japan

最多は聴衆への呼びかけに用いた「皆さん」で21回。東京オリンピック関連の言葉も計19回と登場が多かった(「オリンピック」8回、「パラリンピック」8回、「五輪」3回)。改元後の空気を表現する「新しい時代」は10回だった。

(文・吉川慧)

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