ビジネス環境は大きな変化の過渡期。トレンドを見誤ると痛い目に遭う。
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- 起業家と経営者の視点は、投資家と同じではない。
- 複数の分野にまたがるトレンドは、業界や地理的な条件を超えてビジネスに大きな影響を与えるかもしれない。
- あらゆる分野のブートストラッパーとイノベーターのために、2020年から先の未来を方向づける20のテーマとアイデアを紹介する。
起業家やスモールビジネスの関心と優先順位は、投資家や上場企業とは異なる。
もちろん重なるところもあるが、ウォール・ストリート(大企業)で歓迎されるアイデアが、必ずしもメイン・ストリート(中小企業)でも通用するとは限らない。
これからのアメリカ経済を牽引するブートストラッパー(=自力・低予算でビジネスを立ち上げる人)とイノベーターにとって、2020年以降の展開を方向づけるトレンドがすでにいくつか見えてきている。
業界の垣根を越えた総体的な視点から、起業家と経営者にとって最も重要で興味深いと思われる「20のトレンド」を選んだ(順不同)。
1. ヘルス&ウェルネス
【例】
フィットネス、理学療法、メンタルヘルス、在宅介護、女性向け製品
【傾向】
以前の記事「100万ドルのビジネスを生み出したい起業家が選ぶべき10の業界」(英語)でも書いたように、「人々により良い、より健康的な毎日を送ってもらうためには、必ずしも医者になる必要はない」。
ヘルス&ウェルネス業界は成長している。アメリカの医療(保険)支出は2027年に6兆ドル(約650兆円)までふくれ上がり、ウェルネス市場は世界全体で4.5兆ドル(約495兆円)に達するだろう。
ジムの開設、在宅介護、女性の健康に革命をもたらす製品の開発など、ビジネスの可能性は多岐にわたる。規模感があって、なおかつ景況に左右されにくいトレンドになりそうだ。
2. 医療サービスと福利厚生
歯科医は最も儲かるスモールビジネスのひとつ。
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【例】内科医、歯科医、臨床医、福利厚生サービス
【傾向】
内科診療と臨床サービスへの支出は、全米で年平均5.4%増えている。需要を牽引しているのは高齢者だ。
ヘルスケア分野のスタートアップは、どの町にもいるような開業医や歯科医だけでなく、従来型の医療保険モデルまで破壊しようとしている。
また、企業や経営者は、売り手優位の労働市場で競争するために、従業員向けの福利厚生サービスの充実が必要だと考えている。
3. ストイックな健康食品
【例】
ビーガン、ラクトース(乳糖)フリー食品、ノンアルコール
【傾向】
健康意識が高まり、消費者は体内に摂取するものにかつてないほど敏感になっている。プラントベース・ダイエット(植物由来の食事)もいまや主流になった。
世界全体で3人に2人は乳糖不耐症(=牛乳などに含まれる乳糖を分解する酵素が欠損し、消化できない病気)といわれる。アメリカでも増えており、乳製品の代替品の市場が成長している。
乳糖やアルコール抜きの代替品とはいえ、同じくらいのおいしさが求められる。店頭にはようやく、満足できる新たな商品が並び始めた。
4. 肉離れ(筋肉の損傷ではなく)
【例】
植物性タンパク質、人工肉
【傾向】
個人の健康志向だけでなく、エコに敏感な消費者が、より持続可能なプロテイン(タンパク質)を求めるブームを後押ししている。
「代替肉」の市場は、英銀大手バークレイズによると、2029年には1400億ドル(約15兆円)規模まで成長する見込み。うち、Z世代が牽引する植物由来の代替肉の売り上げは、2020年中にも世界全体で52億ドル(約5700億円)を超えるだろう。
インポッシブル・フーズやビヨンド・ミートのようなブランドはウォール街の関心をとらえているが、市場は飽和状態にはほど遠い。バーガーキングやダンキンのようなチェーン店も植物由来の代替肉に注目しているから、個人店のオーナーはグリル料理のメニューを増やそう。
5. 大麻
大企業は大麻には手を出しにくい。合法化されている地域では、スモールビジネスにチャンスがありそうだ。
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【例】
合法大麻、ヘンプ(麻)、CBD(カンナビジオール)
【傾向】
2019年、大麻業界は投資ブームに沸いたものの、米政府の規制は続いており、大企業は二の足を踏んでいる。
しかし、医療用・嗜好用ともに合法化されたカリフォルニア州のように、各地で合法化が進み始め、かつてはブラックマーケットだった大麻が、いまやスモールビジネスにとって大きなチャンスになっている。
具体的な数字を算出するのは難しいが、CBD市場は2025年までにアメリカだけで160億ドル(約1兆7600億円)規模に達すると、投資銀行コーウェンは分析している。
大麻のトレンドの行方は不透明で、認可や資本の規制は依然として厳しいが、業界は地方の市場とオーガニック(有機栽培)に注目している。
6. 代替エネルギー
太陽光発電分野の雇用は今後10年間で6割増という予測も。
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【例】
太陽光発電、風力発電、電池
【傾向】
代替エネルギーの単価は化石燃料と同じかそれ以下になり、オンサイト型の独自設備を導入する家庭や企業が増えている。
太陽光・風力発電分野での雇用は、今後10年間でそれぞれ63%、57%増える見込み。化石燃料が享受しているような連邦政府の補助金(=アメリカの補助支出額はOECD加盟国中トップ)がなくても、代替エネルギー産業は拡大している。
新しいエネルギーへの移行は、蓄電技術が大きなカギを握る。太陽と風はいつでもどこでも利用できるわけではなく、地域によって異なる環境に合わせた技術が必要だ。
7. 新たなエリアへの進出
AOLの共同創業者で元CEOのスティーブ・ケースは、知名度の低い地域に注目した投資戦略を展開している。
Revolution
【例】イノベーション拠点づくり、ベンチャーキャピタル、米中部地域の都市
【傾向】
家賃や生活費が高騰し、通勤時間は長くなり、ニューヨークやサンフランシスコのような大都市は暮らしにくく、働きにくくなった。沿岸部を去る企業や個人が増え、そうした移住者たちを呼び込もうと、"ボーナス"を支給する州や自治体もある。
スタートアップ投資の大多数はいまのところひと握りの都市に集中しているが、(沿岸部からの移転企業が増える)中部地域に特化した新しい投資戦略も生まれている。
大学の研究施設や大企業など拠点となる組織を迎えた小規模な都市が、アメリカ経済のイノベーションのハブとなり、中流階級の成長のエンジンになりつつある。
8. オポチュニティゾーン
【例】
税法、経済特区、地域再投資法
【傾向】
2017年12月の税制改革法成立を受けて始まった「オポチュニティ・ゾーン」プログラムは、アメリカ国内の低所得地域への投資を促す不動産税優遇策で、積年の課題だった地方開発に取り組むものだ。
超党派による今回のプログラムはかつてない規模で、全米で9000カ所以上の対象地域にシリコンバレー流の投資哲学を持ち込み、地域社会の再建に挑戦することになる。
9. 事業構造の見直し
【例】
パートナーシップ、S法人、B法人、ネットワーク
S法人……小規模なパートナーシップ形態で事業を行う場合、このS法人の設立を選択すれば、個人事業形態と同様に法人税を課されず、株主が所得税の適用を受けるだけになり、税務上有利になる。
B法人……米非営利団体「B Lab」から5つの指標(ガバナンス、従業員、コミュニティ、環境、カスタマー)で基準をクリアして認証を受けた法人。
【傾向】
2017年の税制改革のもう1つの目玉は、企業の形態ごとに新しいルールを導入したことだ。経営者は現行法を早めに確認しておくべきだろう。
また、(ライドシェア大手)ウーバーやリフトのようなビジネスに規制当局が目を光らせていて、独立請負業者の定義が変わりそうだ。広い意味でその影響を受ける人やビジネスも多いだろう。
10. 新しい働き方への対応
ステファニー・ナディ・オルソンはリモートワークで業務を行うマーケター人材のネットワークをつくり上げた。
Courtesy We Are Rosie
【例】
ギグエコノミー、フリーランサーのネットワーク、リモートワーク
ギグエコノミー……企業に雇用されず、インターネット経由などで単発の仕事を請け負う働き方。
【傾向】
安定した給料をもらえる仕事を離れ、収入が減ってもいいからより柔軟に時間を使える仕事を選ぶことで、ワーク・ライフ・バランスを向上させたいと考える人が増えている。
フリーランサーやリモートワーカーを歓迎する企業は、9時から5時までの物理的な勤務を強いる企業より、幅広い人材にアクセスできる。デロイトの調査では、ミレニアル世代とZ世代の回答者の約50%が、チャンスが訪れれば2年以内にいまの仕事を辞めると答えた。2017年調査の38%から大幅に増えている。
働き手が足りない経営者にとっても、優秀なフリーランスを集めて独創的なサービスを提供したい起業家にとっても、大きなチャンスだ。
11. 法人向けサービス
【例】
B2B、政府機関との契約
【傾向】
圧倒的に大きな成功を収めながら、知名度は低く、クライアントが数えるほどしかいない企業もある。
でも、その数少ないクライアントが、政府やフォーチュン500社のように大規模な機関や企業だとすれば、イベントの企画運営やグラフィックデザインなど、特定のサービスに強いだけでも十分成功できるかもしれない。
規模の経済を追求して稼ぐサービスもあるが、より詳細にカスタマイズされた小規模なサービスのほうが、クライアントのニーズに機敏に反応できて強みを発揮できることもある。
12. 個人向けサービス
こんまりこと近藤麻理恵は「片づけ」という新たな個人向けビジネスを生み出した。
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【例】
個人授業、保育、ペットケア、パーソナルショッピング
【傾向】
労働力不足で苦しんでいるのは企業だけではない。個人も家族も、忙しい日常生活の手助けを必要としている。子どもや高齢者の世話をしたり、ペットの面倒をみたり、食事を作ったり……どれもこれも、個人を相手にする仕事だ。
そして、新しいビジネスの発想というのは、えてして個人の情熱から生まれるものだ。ほんの数年前まで、自宅の整理整とんに専門家が必要だとはだれも思っていなかった。しかし、近藤麻理恵(こんまり)が「片づけ」という新しい業界を生んだ。
13. リセール市場
イーサン"ムース"リードは、スニーカーのリセールで2019年に22万5000ドル(約2500万円)の利益をあげた。
Moose Read
【例】
スニーカー、アップサイクリング(創造的再利用)、ヴィンテージ
【傾向】
市場に大量の新品が次々と投入される時代だからこそ、セカンダリー市場が興味深い。靴マニアの熱狂ぶりは、個人の趣味をビジネスに発展させた。スニーカーはさながら「現代の金(ゴールド)」だ。
株のように時価でスニーカーを売買するオンライン取引所の「ストックX」や、フリマアプリの「ポッシュマーク」のような売買プラットフォームの盛況をみればわかるように、実店舗を離れることは、リセール(再販)市場で成功する長い道のりの第一歩にすぎない。
14. 小売り改革
オンラインとリアル店舗の戦略を融合させるアプローチが求められている。
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【例】
実店舗、eコマース、顧客体験
【傾向】
2019年は小売業にとって厳しい1年だった。9300店舗以上が閉店した。一方で、アマゾンやアリババ、ショッピファイ(Shopify)、フェア(Faire)などのオンライン通販サイトは、小売業者が独自の商品をより多くの顧客に届けられるツールを次々に提供している。
eコマースの世界はにぎやかだが、それでもなお小売りの大半はリアル店舗で取り引きが行われている現実がある。ネットで選んだ商品を対面で受け取る人も増えている。
よりパーソナライズされた買い物体験を消費者は求めている。オンライン通販とリアル店舗の戦略を融合させるアプローチが効果的だろう。
15. 居住空間とホスピタリティ
エアビー(Airbnb)は2019年11月時点で世界10万都市に700万以上の物件を提供。ホストが得た収益は約8兆8,000億円という。
Screenshot of Airbnb website
【例】
住宅、ホテル、共有スペース
【傾向】
安らぎの場所を求めることは、人間の基本的な欲求だ。既存の住宅市場は急激な変化の最中にあるものの、私たち人間には、休息して充電する場所、歓迎されていると感じられる場所が必要であることに変わりはない。
郊外の広い家は、もはやその場所ではないのだろう。自宅とホテルの境界線は曖昧になり、狭小住宅や共有リビングのある集合住宅が人気を集め、旅でもエアビーやワンダーステイなど新しい選択肢が増えている。
16. 人とモノのモビリティ
【例】
ラストワンマイルの移動手段、代替モデル、デリバリーサービス
【傾向】
人は落ち着く場所が必要なだけでなく、その場所に自分(と自分のモノ)を運ぶ手段も必要だ。モビリティ(移動)のあり方を国家規模で変えるのは、基本的に大企業の仕事だが、地方の小規模なプロジェクトが埋める隙間もたくさんある。
小さな会社が巨大企業と手を組んで、より効果的なロジスティクス戦略と移動手段を開発し、高まる需要に対して洗練された解決策を導くこともできるだろう。
17. ビッグデータを使いこなす
新たなデバイスが技術に強い起業家に新しいチャンスをもたらす。
Reuters/Yves Herman
【例】
AI(人工知能)、VR(仮想現実)、データ解析
【傾向】
センサーや追跡システムなどによるデータ収集が当たり前になり、2025年までに175ゼタバイトのデータが蓄積される見込みだ(調査会社IDC調べ)。
IT業界の巨人たちが最先端の計算ツールを提供し、それを使って企業や個人がビッグデータを使いこなす手助けをするというスキームは、きわめて有望だ。
18. 未来のマネー
伝統的な金融機関に代わる「オルタナティブ・ファイナンス」が急成長している
REUTERS/Fabrizio Bensch
【例】
フィンテック、オルタナティブ・ファイナンス、仮想通貨
【傾向】
従来モデルの融資や信用取引は、多くの個人やスモールビジネスにとって不十分なものだった。キャッシュフローの問題は中小企業が行き詰まる一番の原因で、そこに新たなソリューションを提供する(伝統的金融システムに代わる)「オルタナティブ・ファイナンス」が急成長している。
金融機関とIT企業(例えばPayPalやStripe、Shopify)はいま、有望なスモールビジネスに無担保ローンを提供しようと躍起になっている。ブロックチェーンや仮想通貨などの新しい試みに注目していることは言うまでもない。
こうした資金調達ソースを確保しておくことは、企業にとってキャッシュが逼迫したときのライフラインとなる。
ただし注意せねばならないのは、当局によるオルタナティブ・ファイナンスへの規制あるいは保護は、伝統的な金融業界に対して行われているほどしっかりしたものではない。融資を受ける際は、細則にきちんと目を通した上で、慎重に。
19. オーガニック成長(内部資源の活用)
元バンカーのケイト・ルツィオは、内部金融を使って、キャリア女性向けのコワーキングスペースとイベントを運営するビジネスを立ち上げた
Dominick Reuter/Business Insider
【例】
ブートストラッピング、セルフファイナンス(内部金融)、デットファイナンス(借入金融)
内部金融……事業収益の一部を内部に留保して、必要資金に充当すること。
借入金融……社債発行や銀行借入れなどで資金を調達すること。
【傾向】
2019年はIPO(新規株式公開)の「当たり年」になるはずだった。ベンチャーキャピタルの盛況に乗って、WeWorkなど有望なユニコーン(=評価額10億ドル超のスタートアップ)が上場を目指したが、投資家たちの期待どおりには行かなかった。
パフォーマンスに精彩を欠くスタートアップが続出したことを考えると、事業の基本要件や持続可能な成長という視点がもっと重視されるべきだろう。
株式投資家はこれまで以上に、右肩上がりの成長をうたう(スタートアップの)ピッチに疑念の目を向けるようになる。そうなれば、起業家は自社株を売却して資金を調達するより、あまり金をかけずに自己資金の範囲で事業を立ち上げるようになるのではないか。
20. ダイバーシティの促進
女性起業家の向き合う課題などをまとめたバンク・オブ・アメリカのレポート。
出典:Bank of America "Beyond the Bucks Growth - strategies of successful women entrepreneurs "
【例】
インクルージョン、資源へのアクセス、昇進の機会
【傾向】
連邦準備制度理事会(FRB)の調査によると、機会の平等が保障された地域に拠点を置く企業ほど、利益を生みだしやすい。
別の調査レポートによれば、マイノリティが経営者の企業、あるいは女性が経営者の企業(への評価)は、経済全体の健全性の重要な指標になる。また、女性のほうが市場のニーズを見極めて起業に成功しやすいという。
ダイバーシティは、人種とジェンダーに限らない。さまざまなレポートが指摘しているように、発達障害を抱える人の仕事のパフォーマンスは、(神経学的に)正常な人とほぼ同等であり、ときにそれをしのぐ場合もあることが明らかになっている。
ダイバーシティを理解できない企業は、チャンスを逃すだけだ。
(翻訳:矢羽野薫、編集:川村力)