1月21日、突如「モバイルPASMO」が発表された。
出典:パスモ
鉄道・バス事業者などが出資する株式会社パスモは、首都圏共通ICカード「PASMO」のスマートフォン向けサービス「モバイルPASMO」の提供を2020年春にもスタートする。
1月21日の発表では、2020年3月初旬に詳細を公開するとしており、サービス開始時期や詳細については不明だが、以下の特徴について明らかにしている。
- スマートフォン版も、カード版同様に電車やバスの乗り降り、買い物などが可能。
- クレジットカードからのチャージや定期券の購入できる。
- 故障・紛失時などに窓口に行かなくても再発行が可能。
- おサイフケータイ搭載のAndroid端末向けに提供される。
モバイルSuicaでは、「JR東日本以外の路線のみ」の定期券は取り扱えない。
出典:JR東日本
とくに首都圏の地下鉄や私鉄・バスの定期券購入者にとって、「モバイルPASMO」の登場は非常に大きな出来事だ。
モバイル向け交通系サービスと言えば、「モバイルSuica」が一般的だが、モバイルSuicaはJR東日本のサービスのため、JR東日本以外の路線の定期券は発行できなかった(乗り降りする駅にJR東日本の駅が含まれれば発行可能)。
モバイルPASMOで定期券を発行できる事業者はすでに公表されているが、対象の地下鉄や私鉄、バスだけを通勤や通学などに使う人は、PASMOを「モバイル化」できるというわけだ。
「iPhone」には非対応
「モバイルPASMO」が利用できない端末の代表例として、iPhoneがある。
撮影:小林優多郎
ただし、すべての「地下鉄や私鉄、バス利用者」がこの便利さを享受できるかと言えば違う。それは「モバイルPASMO」がおサイフケータイ対応のAndroid端末のみに対応するからだ。
日本で多くの人が持つiPhoneおよびおサイフケータイ非搭載のAndroid端末では利用できない。パスモは詳細について公表していないが、PASMOもほかの交通系ICカードもFeliCa技術をベースに開発されており、FeliCaチップを持つおサイフケータイ対応Androidスマートフォンに限定されるのは技術的に理解できる。
しかし、iPhoneも2016年発売の「iPhone 7」以降、FeliCaチップを搭載しており、Suicaや「iD」「QUICPay+」がApple Payを通して利用できる。ハードウェア要件としては、PASMOも十分にiPhoneで利用できると思われる。
ただし、肝は「Apple Payを通して」という点だ。Apple Payを経由するには、アップルが独自に定めるセキュリティや技術要件をクリアーする必要がある。
楽天ペイが発表した「Suica対応」も当初はAndroidのみ(写真は2019年6月撮影)。
撮影:小林優多郎
前例で言えば、2019年6月に楽天が「楽天ペイ」アプリからSuicaの発行、チャージ、決済に対応すると話しているが(実施時期は2020年春以降)、こちらもまた現状は「おサイフケータイ対応のAndroidのみ」となっている。
ハードウェア的にFeliCaが載っているとしても、Apple Payへのサービス提供は簡単ではないということだろう。
「モバイル化」だけでも評価したいが
「モバイルPASMO」の商標登録そのものは2017年9月13日に行われている。
出典:J-PlatPat
モバイルPASMOの登場は、以前からもうわさになっていた。2017年9月には、「モバイルPASMO」の商標が登録され、話題になっていた。地下鉄・私鉄・バス利用者の一部にとっては「なぜSuicaができているのに、PASMOもモバイル化できないのか」という不満があった。
しかし、アプリを作るとひとことで言っても、開発や更新、サーバーの増強などにかかる金銭および人的コストは膨大だ。
PASMOの意思決定をしているのは、株式会社パスモではなく、PASMO協議会だ。
出典:パスモ
さらに、パスモは27の鉄道事業者および33のバス事業者が加盟する「PASMO協議会」からPASMOの運営開発を委託されている会社であり、あくまでPASMOの意思決定は、このPASMO協議会によるものだ。
予想の範囲になるが、規模や業態の違う会社がそろう協議会で、アプリ開発に伴うコスト負担や手数料の調整に時間がかかることは想像に難くない。
なお、PASMO協議会の広報担当者はBusiness Insider Japanの取材に対し、あらためて「現状ではAndroidのみの対応。iOSについては未定」と回答している。
キャッシュレスを取材する一記者として、スタートこそiPhone非対応という形になったものの、利便性の高まる今回の施策は大いに期待が高まる。今後の動向に注目したい。
(文、撮影・小林優多郎)