ニューヨーク・タイムズはなぜ“女性大統領”に将来を託すのか。米大統領選の民主党候補者選び

US2020

ジョー・バイデン前副大統領、エイミー・クロブチャー上院議員、エリザベス・ウォーレン上院議員らを含む、民主党予備選挙の候補たち。2020年1月20日、マルチン・ルーサー・キング牧師の生誕記念式典に、そろって登場した。

Reuters

アメリカの民主党は、果たして2020年大統領選挙でトランプ大統領・共和党候補を敗ることができるのだろうか。

ニューヨーク・タイムズは民主党予備選挙に先立ち、1人に絞り込む有力候補として、2人の女性候補を推奨し、現在の最有力候補ジョー・バイデン前副大統領をスルーした。

このタイムズの“選択”に有権者は当惑したに違いない。

民主党候補を決める予備選挙の第1弾となるアイオワ州党員集会は2月3日に迫っているが、他のメディアも含め勝者の予測は、二転三転している。そのこと自体、民主党内とその支持者の「分断」を示しているのではないか。

中道派と進歩派、異なるイデオロギーの2人

1月20日、ニューヨーク・タイムズ論説の見出しはこうだ。

「慣習を破って、論説委員会は民主党の大統領候補に、2人の候補者を支持することを選択した」

タイムズが選んだ民主党の大統領候補者は、エイミー・クロブチャー上院議員(ミネソタ州)と、エリザベス・ウォーレン上院議員(マサチューセッツ州)の女性2人。2019年から安定して支持率でトップを走っているバイデン氏を完全に無視した。

アメリカの新聞の論説委員会は大統領や首長選挙の際、特定の候補者を支持し、読者に投票を推奨する。委員会の候補者インタビューは、編集局の担当記者も入れず、報道とは独立して推奨の決断を下す。

推奨を他社に先駆けたタイムズが、今のところは「勝てそう」と思われているバイデン氏ではなく、一度も大統領になっていない女性に白羽の矢を立て、将来を託した。1人は中道派、もう1人は進歩派という党内で異なるイデオロギーを主張する2人だ。それはなぜか。

ニューヨーク・タイムズによる両候補者の評価は以下だ。

エリザベス・ウォーレン氏

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エリザベス・ウォーレン氏。

Reuters

政治や経済について大胆な改革を主張しているが、政策を実現するための具体的な、そして真剣な道のりを明確にしている。過激に左寄りな政策には懸念があるものの、自分は進歩派という有権者と社会の不平等や腐敗などを懸念する中道派の有権者の両方にアピールできる。

エイミー・クロブチャー氏

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エイミー・クロブチャー氏。

Mike Blake/Reutrers

気候変動、子どもの貧困、銃規制など彼女の主張は、問題を抱える、特に中部の有権者の生活と密着している。中西部ミネソタ州選出の上院議員として、2016年のヒラリー・クリントン前大統領候補よりも、圧倒的に多くの選挙区で勝利している。上院議員としても超党派の法案を誰よりも多く成立させた実績がある。

つまり、2人ともアメリカが抱える問題に具体的で現実的な政策アプローチを示したという。バイデン氏を含め、他の候補者をなぜ推奨しなかったのかも見てみよう。

ジョー・バイデン氏

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ジョー・バイデン氏。

Reuters

世論調査の支持率でリードしているのは、知名度によるものだろう。アメリカを、トランプ時代の前の状態に再生するとしているが、それだけでアメリカを回復させるのは無理だろう。77歳でもあり、新しい世代にバトンタッチする時が来た。

バーニー・サンダース氏

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バーニー・サンダース氏。

Reuters/Shannon Stapleton

当選すれば79歳で大統領就任となり、健康上の懸念がある。2019年秋に心臓発作も起こした。トランプ政権の後に、過激な約束をして、分断を呼ぶような人物と取り替えるメリットはほとんどない。

ピート・ブティジェッジ前インディアナ州サウスベンド市長

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ピート・ブティジェッジ氏。

Associated Press

38歳で素晴らしいキャリアがあり、初の同性愛者候補だ。予備選挙の予想から見ても、政治家としての将来に期待できる。

マイケル・ブルームバーグ前ニューヨーク市長

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マイケル・ブルームバーグ氏。

Associated Press

実際に苦労が多い選挙戦を展開するよりも、これまでに2億1700万ドルの自己資金を費やした(注:ほとんどはテレビなどの政治広告に使われている)。(創業した)ブルームバーグ通信に自分についての調査報道をさせていない。(セクハラを告発しようとした)女性らが証言しようとしたのを拒否した。

というわけで、OKだ

ニューヨーク・タイムズの異例の決断は、論説のコメント欄やツイッターなどで論議を呼んだ。

「すごくがっかりした。気持ちが定まらない有権者にとって重要なのは、過激派と現実派のどちらに投票すべきかということだ」(読者コメント)

「自分が推奨するなら、(1)きちんとした経験があって(2)70代半ば以上ではなく(3)現在、実質的に全力で選挙戦を戦っている人に絞りたい。というわけで、OKだ」(ブルームバーグ通信オピニオン記者 ジョナサン・バーンステイン)

一般人が勝つと思っているのはトランプ

民主党大統領候補の争いは、すでに1年以上続いてきた。当初28人もいた候補者がいたが、テレビ討論会を7回も開き、ふるいにかけてきた。現在、残った候補12人からたった1人の大統領候補を選ぶ予備選挙のプロセスが、2月3日のアイオワ州党員集会を皮切りに7月の党大会での指名まで続く。11月の投開票日まではさらに3カ月以上ある。

こうした中、現時点で、有力紙の推奨がどれほどの影響があるのかは不透明だ。ニューヨーク・タイムズは2016年本選挙でクリントン候補を推奨し、トランプ氏が勝利した。

こうした状況を反映してか、トランプ氏が勝利するという予測も出ている。オンライン賭けサイト「PredictIt(プレディクトイット)」では、トランプ氏への掛け金が49セントなのに対し、2位のバイデン氏は22セント、3位のサンダース氏は18セントだ(米東部時間1月21日現在)。

これは得票率の予測ではなく、一般人が勝つと思う党、あるいは候補者に賭けるという仕組みだ。

アイオワ州党員集会の支持率は、11月にウォーレン氏がトップを切っていたが、12月にブティジェッジ氏、続いてサンダース氏が急浮上し、現在はバイデン氏がややリードしている状況だ(調査機関リアルクリアポリティクスによる)。

こうした状況は、「打倒トランプ」を3年間待っていた民主党支持者を不安にさせるに十分だ。「あと4年トランプとなったら、どこに移住したらいいのか」と話題にする市民さえ少なくない。

しかし、アイオワ州やニューハンプシャー州など前半の予備選挙で、民主党候補が1人に絞られるのかどうかは、今のところ疑問視されている。

(文・津山恵子)

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