「試着を自宅で」「1回だけ使いたい」消費者のさまざまな"ニーズ"が返品を増加させている

試着室

Vince Talotta/Toronto Star via Getty Images

  • Appriss Retailのレポート「2019 Consumer Returns in the Retail Industry」によると、小売業界では2019年、返品によって3090億ドル(約33兆8000億円)の損失が出た
  • こうした返品を減らす取り組みをしているスタートアップの1つが「Newmine」だ。
  • Business Insiderは、NewmineのCEOで創業者のナビット・バシン(Navjit Bhasin)氏とパートナーのマーク・ライトボディー(Mark Lightbody)氏に話を聞いた。

返品削減テクノロジーのスタートアップ、Newmineは言う。

「最良の返品は、返品されないこと」

客の購入、返品の動向を追跡しているAppriss Retailレポートによると、小売業界では2019年、返品によって3090億ドル(約33兆8000億円)の損失が出た。このうち、410億ドルをオンラインの売り上げが占めた。Newmineを含め、いくつもの企業が、返品を食い止めるのに苦労している小売業者の要望に応えるべく誕生している。

Business Insiderは、NewmineのCEOで創業者のナバット・バシン氏とパートナーのマーク・ライトボディー氏に、返品の現状や返品がいかにEコマースのあり方を変えているか話を聞いた。

「返品はなくならないだろう」とバシン氏はBusiness Insiderに語った。「それが小売業の本質だ」

オンラインショッピングの不確実性、アマゾン(Amazon)のような大手による独占、消費者の店内での「試着室」体験を求める傾向のおかげで、近年、返品は爆発的に増えている。だが、バシン氏とライトボディー氏は、返品は減らすことができると考えている。

「もう1つの店舗」

バシン氏は、"返品問題"は1980年代や1990年代のカタログビジネスがまだブームだった頃まで遡ると語った。当時、返品問題はもっと「抑制されていた」と同氏は言う。

その後、Eコマースが爆発的に広まった。

「典型的な小売業者は、返品がビジネスにどれだけ深刻なマイナスの影響を及ぼすか予測していなかった」とバシン氏は指摘する。「誰もがEコマースをもう1つの店舗としか考えていなかった」

だが、「2000年から2019年で方程式が変わった」とバシン氏は言う。Eコマースが成熟し始め、ビジネスに占める比重が大きくなるにつれ、痛みが始まったのだ。

「1年に100万ドルだった返品が、2500万ドル、3000万ドルになり、1億ドルに膨らんだ」とバシン氏は言う。

だが、オンラインショッピングの時代に返品が急増するのは当然だ。ライトボディー氏は、Eコマースは常に信用問題を抱えていると指摘する。

「オンラインで買い物をするリスクは、店に行くよりも高い」とライトボディー氏は言う。「店に行けば、商品を見て、触って、試して、それを持って店を出られる」

それでも買い物客に買ってみようと思わせるために、初期のEコマース業者は気前の良い返品ポリシーを導入した。このトレンドは、ライトボディー氏が小売業の世界の「800ポンド(約360キログラム)のゴリラ」と呼ぶアマゾンによって、さらに強化された。アマゾンの寛大な返品ポリシーとの競争はすぐに「苦しい戦い」になった。バシン氏によると、アマゾン自体も「消費者の行動」と返品に関する予測に大きな影響があったという。

その結果、Rent the Runwayといったレンタル・ベースの小売業者が増え、店で買い物をしたいという欲求が低下し、返品が増えたことで、アパレル分野を中心に一部の消費者の買い物の仕方が変化した。

「ブラケッティング」は、1つの服のサイズ違い、色違いを一気に買うものだ。客は自分にあったものを選び、残りを返品する。「ワードロービング」は、特別な日に履く靴といったアイテムを購入し、目的を果たしたら返品するというものだ。

バシン氏は、消費者から見れば「ブラケッティング」は合理的だと言う。無駄足になるかもしれない実店舗へ行くことなく、「試着室」体験ができるからだ。そうは言っても、小売業者からすれば、こうした行動の「乱用を避けるべく、特定の戦略を実施」することが重要だと、同氏は指摘する。相次ぐこうした返品は、多くにとって持続可能ではないからだ。

アマゾン

アマゾンが"返品"を大きく変えた。

Kevork Djansezian / Getty Images

「シンプルな解決策」

バシン氏とライトボディー氏によると、無制限の返品はアマゾンのような大手にとっては悪くないかもしれないが、そうでないプレイヤーにとっては痛手だ。

「この『好きなだけ買い、好きなだけ返品する』というコンセプトがうまくいくのは、利益率が大きく、コスト構造が非常に効率的な場合だ」とライトボディー氏は言う。

中でもアパレルとフットウェアは返品率が高い傾向にあり、30%ということもしばしばだとライトボディー氏は話している。その結果、どうなるか? Eコマースの利益率に打撃を与えるだけでなく、値引きや人件費も増える。ライトボディー氏によると、平均して7人のスタッフが返品に対応しているという。

小売業者が導入できる最良の戦略は、そもそも客に商品を返品したいと思わせないような措置を講じることだと、バシン氏とライトボディー氏は考えている。

「商品が戻ってこないということは、客が満足しているということだ」とライトボディー氏は言う。「客が商品をキープしている。これは大きな勝利だ。商品が戻ってこないということは、返品で売り上げが減らないということだ。利益率を維持できる」

しかし、返品をどう予防するかはケース・バイ・ケースだ。事務用品を扱う会社に合ったやり方と、アパレルや栄養補助食品を扱う会社に合ったやり方は違う。そして、不正行為をした客を排除するのは、常に最終的かつ最も「遠い」手段であるべきだ。

ライトボディー氏は、Newmineでは「何をキープし、何を返品し、返品した場合はなぜ返品したのか、何回返品しているか」について、「商品レベル、供給レベル、顧客レベルのデータ」を使用していると言う。目標は、小売業者の返品の流れに歯止めをかけ、「より良い販売状況」をつくる手助けをすることだ。

ライトボディー氏は、ポロシャツを買う客を例に説明した。LサイズかSサイズではなく、中間のサイズがあれば、それは客が最終的に満足できる決断を下す助けになる。そして、いつもならMサイズを買ってキープしている客がLサイズを買おうとしていたら、これまでのデータに基づき、客にいつもと違うサイズを選ぼうとしていることを知らせることが可能だ、と。

「2カ月後でなく、問題が起きた時にそれを把握するなど、物事をあるべき状態にすることができれば、それは世界を一変させるような本当にシンプルな解決策になるだろう」とライトボディー氏は言う。

[原文:Shoppers are abandoning store dressing rooms for their own homes, and it's sparked a wave of returns

(翻訳、編集:山口佳美)

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