生鮮市場で肉を選ぶ客(2016年1月22日、中国)。
Edward Wong/South China Morning Post/Getty
中国で感染が拡大している新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と、2003年に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)には共通点が2つある。どちらもコロナウイルスが原因で、生鮮市場から始まっている。
露店がひしめき合い、狭い通路を作っているこうした市場 —— ケージに入った大量の鶏を売る店のすぐそばには肉をカットするカウンターがあり、お腹をすかせた犬がそれをうらやましそうに見ていたり、新鮮な食用ウサギや魚、エビといったシーフードを売る店などが並んでいる —— では、地元住民や観光客が新鮮な肉や魚、農産物を購入している。
生鮮市場では人間と、生きているまたは死んでいる動物 —— 犬、鶏、豚、ヘビ、ジャコウネコなど —— がコンスタントかつ密に接触する。これが動物から人間へ、ウイルスをうつりやすくしている。
1月22日、中国・湖北省武漢の当局は、生鮮市場での生きた動物の販売を禁止した。新型コロナウイルスの発生源とされる華南海産物市場は1月1日に閉鎖された。これまでに約550人が新型コロナウイルスに感染し、17人が死亡している。
非営利組織「EcoHealth Alliance」の自然保護活動家で病気の生態学に詳しいケビン・オリバル(Kevin Olival)氏は、「こうした不自然な状況で動物たちを集めると、人間の病気が出てくるリスクがある」とナショナルジオグラフィックに語った。「ストレスの多い、悪条件の下に置いていると、動物たちがウイルスによって病気になる可能性を高めかねない」とオリバル氏は言う。
コロナウイルスは、初めは動物から人間に感染する。SARSの場合、そのウイルスの起源はコウモリだった。ウイルスはコウモリから他の動物に伝染し、それが人間にうつった。
中国の生鮮市場の様子を見てみよう。
武漢の華南海産物市場は、新型コロナウイルス(2019-nCov)の発生源である可能性が高いと分かったあと、1月1月に閉鎖された。
武漢の華南海産物市場の前にマスク姿で立つ警察官(2020年1月10日)。
REUTERS/Stringer CHINA OUT
この新型ウイルスが原因で最初に死亡したのは、61歳の男性だった。ブルームバーグによると、男性は華南海産物市場で定期的に買い物をしていたという。市場ではシーフード以外のものも売られていた。
報道によると、閉鎖される前のこの市場では加工肉のほか、鶏やロバ、羊、豚、ラクダ、キツネ、アナグマ、タケネズミ、ハリネズミ、ヘビといった食用の動物も生きたまま販売されていたようだ。
市場で肉を売る店(2016年3月25日、北京)。
REUTERS/Jason Lee
華南海産物市場のような生鮮市場は、中国各地にある。
1月22日、武漢当局は生鮮市場での生きた動物の販売を禁止した。
食用犬とその肉を販売する店(2014年6月19日、桂林市)。
David Wong/South China Morning Post/Getty
市民1100万人を抱える武漢では、警察がこのルールがきちんと守られているか、チェックしているという。BBCが中国国営メディアの報道を引用して伝えた。
こうした当局による介入は、"新型コロナウイルス"のような人獣共通ウイルスの拡大を防ぐ助けになるかもしれない。
市場で肉を準備する店の人々(2017年1月10日、北京)。
REUTERS/Jason Lee
「シンプルな介入方法の1つとしては、野生生物の取り引きを減らし、市場をきれいに掃除することです」とオリバル氏はナショナルジオグラフィックに語った。「野生生物の取り引きを減らすことは、種を守ることにもなるし、新しいウイルスの波及を減らすことにもなる。ウィンウィンの効果がある」という。
生鮮市場では、買い物客と露店や生きているまたは死んでいる動物との距離が非常に近く、これがこうした市場を人獣共通感染症の温床にしている。
中国の生鮮市場。
Felix Wong/South China Morning Post/Getty
2002年から2004年の間に、SARSによって29カ国で774人が死亡した。SARSは広東省の生鮮市場が起源となった。
SARSの場合、ウイルスはパームシベットの1種であるハクビシンから人間にうつった。
ケージに入れられたアジアン・パームシベット(2019年11月20日、インドネシアのバリ島)。
Oleksandr Rupeta/NurPhoto/Getty
だが、 SARSのウイルスのそもそもの起源はハクビシンではなかった。
科学者たちは、SARSのウイルスはもともと中国・雲南省のコウモリからきていることを突き止めた。
キクガシラコウモリ。SARSのウイルスの起源となったチュウゴクキクガシラコウモリの仲間。
De Agostini/Getty
ロッキーマウンテンラボラトリーズのウイルス学者、ビンセント・ミュンスター(Vincent Munster)氏は「SARSのようなコロナウイルスはコウモリの間に広まっていて、しばしば人間にうつる」とBusiness Insiderに語った。
コウモリはそのフンを介してウイルスをうつす。コウモリのフンが果物に落ち、その果物をシベットが食べると、今度はシベットがウイルスを運ぶ。
専門家はまだ、"新型コロナウイルス"がどの動物から人間にうつったのか、突き止めていない。
市場で買い物をする人(2016年3月25日、北京)。
REUTERS/Jason Lee
「コウモリのウイルスが生鮮市場で広まった可能性もある」とミュンスター氏は言う。「しかし、どの動物がウイルスを拡散または媒介したかは分からない」
医学雑誌『Journal of Medical Virology』を編集している科学者のグループによると、アマガサヘビやタイワンコブラが感染源だった可能性もあるという。
タイワンコブラ。
Thomas Brown
中国の科学者たちは、"新型コロナウイルス"の遺伝子コードを突き止めている。他のコロナウイルスと比較したところ、中国のコウモリのコロナウイルスと最も近いことが判明したという。
だが、さらに解析を進めると、新型コロナウイルスはヘビから来ていた可能性が出てきた。研究者らによると、ウイルスがどこから来たかを正確に突き止めるには、市場で売られていた動物や、この地域の野生のヘビとコウモリのDNAサンプルが必要だという。
「H7N9」と「H5N9」の鳥インフルエンザ —— これも人獣共通ウイルスだ —— も、生鮮市場で人間にうつった可能性が高い。
上海の生鮮市場で売られていたカモと鶏。
In Pictures Ltd./Corbis/Getty
世界保健機関(WHO)によると、中国でこれらの鳥インフルエンザにかかった人は、ウイルスに感染した鳥類と直接的な接触があったという。鳥インフルエンザによって、世界全体で約1000人が死亡した。
オランダ、ロッテルダムにあるエラスムス医療センターのウイルス学者、Bart Haagmans氏によると、コウモリと鳥類はパンデミックの可能性があるウイルスを保因する種と見なされているという。
香港の九龍城区にある生鮮市場で、鶏の入ったケージの上で眠る業者(2004年1月31日、中国)。
Dickson Lee/South China Morning Post/Getty
「これらのウイルスはこれまで人間に広まっていなかったため、こうしたウイルスに対する特異免疫が人間にはない」とHaagmans氏はBusiness Insiderに語った。
Healix Internationalのチーフ・メディカル・オフィサー、Adrian Hyzler氏は「数多くの著名な疫学者たちが、何年にもわたって『パンデミック X』を予測している」とBusiness Insiderに語った。
広州市の生鮮市場で生きた鶏を販売する業者(2014年5月5日、中国)。
K. Y. Cheng/South China Morning Post/Getty
こうしたパンデミックは「生きた動物との密な接触があって、人口が密集していることから、極東で始まる可能性が高い」とHyzler氏は付け加えた。
Healix Internationalは、世界の旅行者向けにリスクマネジメントのソリューションを提供している。
しかし、新型コロナウイルスの流行は、パンデミックとは見なされていない。
遼寧省丹東の生鮮市場で、買い物をする客(2017年8月8日、中国)。
REUTERS/Philip Wen
2019年12月以降、新型コロナウイルスの感染はアメリカを含め、6つの国で540件以上報告されている。症状としては、のどの痛み、頭痛、発熱、そして肺炎のような呼吸困難などがあるという。
Haagmans氏は、この流行を食い止める上での課題の1つは、感染者の多くが比較的軽度な症状しか見せないことだと指摘する。
こうした人々は「気付かないままウイルスを運び、流行を加速させるかもしれない」と言い、Haagmans氏は「これは、今まさに起きていることと言えそうだ」と話している。
(翻訳、編集:山口佳美)