経営層こそ知るべき「本当の課題」── 日本の働き方改革が進まない理由

対談するBoxJapan古市氏とBIJ統括編集長の浜田敬子

写真左から、Box Japan代表取締役社長古市克典氏、BIJ統括編集長の浜田敬子。

2019年4月に働き方改革関連法が施行されて約1年。「働き方を変えなくてはいけない」という機運は高いが、成果が出ていないと悩む企業もある。なぜ、日本の働き方はなかなか変わらないのか。

クラウドコンテンツ管理サービス「Box」を提供し、人と組織の働き方の変革を推進してきたBox Japan代表取締役社長古市克典氏とBusiness Insider Japan統括編集長の浜田敬子が、今本当に必要な「働き方改革」について語り合った。

一人ひとりの理想に合わせた働き方は実現できる

対談するBoxJapan古市氏とBIJ統括編集長の浜田敬子

浜田敬子(以下、浜田):働き方改革関連法が施行されてからもうすぐ1年になります。いろいろな企業を取材してきましたが、うまくいっていない企業も少なくありません。古市さんは働き方改革をどのように受け止めていますか。

古市克典(以下、古市): 1980年代〜1990年代初め、私が日本企業で働いていた頃は「24時間戦えますか」というコマーシャルになんの違和感も持ちませんでした。働き方改革がなければ今もその状態が続いていたでしょう。

労働時間の短縮や高度プロフェッショナル制度を定着させることは、基本的には企業のための改革。第2ステップとして働き手個人のための改革をすべきだと考えています。具体的には、働く場所、時間を自由にし、転職やフリーランスなど働き方がさらに自由になるといいですね。

古市克典氏

古市克典氏。1985年京都大学経済学部卒業、ロンドンビジネススクール修了(MBA)。NTTでシステム開発、海外投資、事業計画作成などを担当した後、日経連(現 日本経済団体連合会)に出向。米系大企業、ベンチャー企業、経営コンサルティング会社、日本ベリサイン社長などを経て、2013年Box Japan代表取締役社長に就任。

浜田:働き方改革の究極の理想は、働き手を主語にした働き方の多様化、自由化だと思います。しかし、働き手が100人いたら100人の理想がある。企業では1人ひとりの理想や事情に合わせられるでしょうか?Box Japanの社員はどのような働き方をしていますか。

古市:Boxをはじめとしてシリコンバレーの企業は、社員がパフォーマンスを最大限に発揮できるように制度やITを整えています。個々の社員の理想はかなえられないかも知れませんが、個々の事情には応えることができます。例えば、子供の病気といった事情があれば自宅からでもオフィス同様に仕事ができますし、台風の日に出社する必要もありません。物理的なオフィス(ワークプレイス)はもちろん、デジタルワークプレイスも整っているため、いつでも、どこでも、どんなデバイスからでも仕事ができます。それは昨年の夏に行った弊社のテレワークトライアルでも実証されました。働く環境の整備について、Box Japanは先進的な取り組みをしていると自負しています。

ただ、物理オフィスについては、社員が最もパフォーマンスを発揮してもらえるように環境を整えています。フェイス・トゥ・フェイスに勝るコミュニケーション手段はありませんから、オフィスにも来て仕事をして欲しいというのが本音です。

浜田:私たちの編集部も鎌倉や五島列島、紀伊半島に滞在して、実際にリモートワーク実験を行いましたが、課題に感じたのはコミュニケーションでした。

生産性を高めて労働時間を短くしようとすると、 どんどん“無駄”を削ろうとする。ここで言う“無駄”には、例えばランチやメンバーとの雑談などコミュニケーションが含まれる可能性があります。雑談から生まれる企画などもあるのに、そういう時間がさらに削られていく。

編集部にはワーキングマザーが多く、仕事をしながらデスクでランチを取り休憩の時間すら惜しんで働く。効率的に働こうとする一方で、コミュニケーション不足がみんなの悩みとなっています。

「思考停止」する職場、解決のカギは人材の流動化

BIJの浜田統括編集長

浜田:日本人は生産性が低いと言われていますが、それについてはどう考えていらっしゃいますか。日本の時間当たりの労働生産性は、OECD加盟国36カ国中21位(2018年)。1人当たりのGDPも落ちてきています。それは働き方の問題でしょうか、組織の問題でしょうか。

古市:数字だけを見ると確かに日本人の生産性は低いけれども、日本人が劣っているとは私はまったく思いません。しかし、一人ひとりは優秀でも集団になるとうまく回らなくなるときがある。

浜田:この仕事が本質的に必要かどうかあまりに考えずに、前例踏襲とか社内のルールだからとか、思考停止したまま行われる業務が多い。必要のない会議、長い会議、人数が無駄に多い会議もまだまだある。社内会議用の資料がやたらと丁寧。生産性を高めるためには、そういったところも見直さなければと思います。

古市:なぜそんなことが起き続けるのか。労働力の流動化が進んでいないことも理由の1つとしてあります。

「定年までここで働き続ける」と思うと、いかに社内文化を重視するか、“ムラの掟”に従うかを考慮する。業務のことを最優先に考えると、会社に居づらくなることがあります。居づらくなったら別の会社に移ればいいと思えれば、「無駄なルールは変えたほうがいいのでは」と言えるようになる。労働力の流動化が進むと、本来の業務を中心に考えられるし、副次効果としてブラック企業は人材が流出し淘汰される。

浜田:おっしゃる通りですが、実際にはなかなか労働力の流動化は進みません。

古市:労働力の流動化に必要なのは、制度とツールなんです。

制度的な面では、企業がもっと中途採用の門戸を広げてくれるといい。

もうひとつツールの問題ですが、人材の流動化が盛んなシリコンバレーでは転職者は入社したその日からフル稼動しています。なぜそれが可能かというと、社内ITツールの大半がクラウドで前職とほぼ同じだから。

浜田:「労働力を流動化させるには、汎用性のあるツールを使う必要がある」という点には気づいていませんでした。

新しい働き方を支えるダイバーシティの第一歩は転職者

話し合う多様なグループの人々

Shutterstock/Rawpixel.com

浜田:ITツールを整えるだけで、すべてがうまくいくわけではありません。どのように使えば、本来の目的が達成しやすいのでしょうか。

古市:ITツールは情報共有の面で欠かせませんが、弊社では「Box」を活用して、社内外とのコラボレーションを推進しています。

ビジネスの基本は、コラボレーションとコミュニケーションだと思っています。この10年で大きく変わったことの1つは、社内だけではなく社外との共働が必須となったことです。社外を含めたサプライチェーン全体とコラボレーション、コミュニケーションを取ろうとすると情報共有を安心、安全にできることが必要になります。これがまず目的達成の第一歩ではないでしょうか。

浜田: ITツールを安全で汎用性が高く使いやすいものにし、社内のカルチャーをオープンにすることで優秀な人材を惹きつけられる。社外とも仕事がしやすくなり、プロジェクトベースで組織を横断したチームをつくることもできるということですね。

古市:ダイバーシティが進むことで、いろいろな人の知恵を取り込むことができますね。

浜田:ダイバーシティというと「女性活躍」を掲げて女性の数だけ揃えればいいと考える企業が少なくありません。

でも本来ダイバーシティとはいろいろな価値観、異なる意見を取り込むこと。だから私は、女性と同時に中途採用を増やすことが必要だと考えています。転職者が増えると「女性が異質」なのではなく、「その会社が同質すぎる」ことに気づきます。

古市:同質的な会社であれば、「1」だけ伝えれば「2、3、4…」は説明しなくても察してくれる。しかし、今までにないものを生み出そうとすると、同質社会では行き詰まる。みんな同じ経験しかしていないからアイデアが出ません。多様性が進むとマネジメントに時間とエネルギーがかかるけれども、その克服に努める価値はあります。

日本も外資系企業、スタートアップを中心に変わり始めていると思います。ただ社会に大きな影響を与えるのは、やはり大企業。大企業が女性や転職者の活用を進め、さらに外資系企業の経験者が日本企業の幹部クラスに入ると変わっていくように思います。


「働き方改革」を進めるために必要なのは、企業と社員が対等の立場になり、社員がパフォーマンスを発揮しやすい制度や環境を整えること。それを定着、発展させるのが文化の形成だ。企業の制度や文化を作るのは、そこに集まる人材。人材が流動化し、他社のベストプラクティスを取り入れやすくなれば、働き方改革は前進していくはずだ。

古市氏が「労働力を流動化させるには、汎用性のあるツールを使う必要がある」と指摘するようにBoxをはじめとしたシリコンバレー企業の多くは、労働力の流動化を前提にした制度やITを設計し、そのメリットを享受している。

私たちは働き方をどう変えていけばいいのか?シリコンバレー企業の取り組みや働き方には、日本企業を変革していくためのヒントが詰まっていた。

Boxについて、詳しくはこちら。

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