売上高は過去最高「Netflix帝国」をコンテンツ戦略から読み解く。“エグさ”勝負だけではない

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カリフォルニア州ロスガトスのネットフリックス本社。

撮影:西田宗千佳

映像配信は、世界中で大きな競争に晒されている。その軸になっているのは「オリジナルコンテンツ」だ。いまや映画会社の浮沈を握るのも、映画以上に「配信に向けたオリジナルドラマのヒット」になっている、と言われるほどだ。

オリジナル番組の制作で成功し、業界をリードしているのはネットフリックスだ。一方、ディズニーやアップルなど、ライバルもオリジナル番組には力を注いでいる。

では、そこにはどんな差があるのか? あらためて分析してみたい。

会員数1億6700万人オーバーも「競争激化」が懸念材料

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第4四半期決算発表のアーニングインタビューに答えるリード・ヘイスティングスCEO。

出典:ネットフリックス

1月21日(カリフォルニア現地時間)、米ネットフリックスは、2019年第4四半期の決算を発表した。有料会員登録数は、前四半期から大幅増の1億6709万人。年率20%の成長を維持した。

会員数の伸びをけん引したのはアメリカ国外の市場。アメリカ国内は微増に留まっているが、アメリカ国外のユーザーが初めて1億人を突破し、四半期の売上高は前年同期比31%増の54億6743万ドル(約6000億円)。過去最高を更新した。

アメリカ市場は2019年秋より、映像ストリーミング市場での競争が激化している。ウォルト・ディズニーが「Disney+」、アップルが「Apple TV+」を開始し、春以降には「HBO Max」、NBCユニバーサルが手掛ける「peacock」など、さらにライバルも増える。

アプリ関連調査会社SensorTowerの調査によれば、Disney+視聴用のアプリは、スタートからの2カ月で4100万ダウンロードを超え、アプリストア経由で9720万ドル(約106億5000万円)が利用者から支出されたとされる。きわめて好調だ。

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Disney+のダウンロード数などを報じたSensorTowerの調査記事。

出典:SensorTower

そのことから、会員登録数や売上高が好調であるにも関わらず、投資家などからは決算の内容について慎重な発言も出ている。

オリジナル番組制作にかかる投資は、今後も増えていく。その負担が大きくなり、競争が激化することになれば、収益を維持できなくなっていくのではないか、という懸念だ。

とはいうものの、まずは利用者数増加を維持することが、どの事業者にとっても大きな課題となる。

「エグさ」から始めて広げる戦略

利用者数増加に重要なのは、コンテンツの内容であることは間違いない。ネットフリックスも、決算資料の中で自社オリジナルコンテンツの強さをアピールしていた。では、各社はどのようなコンテンツを提供しているのだろうか?

日本でネットフリックスといえば、昨年夏に公開されて話題となった「全裸監督」のように、地上波のテレビ放送では難しい題材を扱ったもの、というイメージが強い。それは本当なのか? 各サービスの代表的なコンテンツを書き出し、並べてみた。

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確かにネットフリックスは、要所要所で「エグい」作品を投入している。

ネットフリックスによるオリジナルコンテンツ戦略の代名詞ともなった「ハウス・オブ・カーズ」は、政治の世界を赤裸々に描いたもので、タブーというわけではないが内容は「エグい」。それに続く「ナルコス」は、コロンビアの麻薬王と言われたパブロ・エスコバルを描いた、まさに「エグい」内容だった。

他方で、ずっとタブーに挑戦するような作品ばかりを提供しているわけでもない。

近年はむしろ、単純にエグい題材よりも、制作上ハードな要素はあるものの、より多くの人に支持されやすい作品が増えている。

一方、「日本発」に目を向けると多少様相に違いが見えてくる。ネットフリックスの上陸は2015年秋。最初は「火花」という話題性の高い作品からだったが、決して「エグい」わけではない。だがその後、「DEVILMAN crybaby」「全裸監督」と、題材や内容がエッジな作品が続く。

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(C)Go Nagai-Devilman Crybaby Project

このことから予想されることがひとつある。

ネットフリックスは、市場浸透の初期には比較的耳目を惹きやすい「エグい」作品を重視するものの、浸透した後は必ずしもそれにこだわっていないのではないか、ということだ。

同社はコンテンツ制作の方針について問われると「内容重視」と答えてきた。それは事実だろう。無料のテレビ放送ではやりづらいことにも果敢にチャレンジし、予算もかけているのは「内容重視」だからだ。

一方で、それだけでは注目を集められない。そもそも「無料のテレビ放送ではやりづらいことにチャレンジする」という方針は、アメリカの有料ケーブルテレビ局がやってきたことだからだ。「ゲーム・オブ・スローンズ」などを作ったHBOはそうした方針で成功した。ネットフリックスはさらに徹底しているが、それでも差別化が必要だ。

これは筆者の予想だが、だからこそ初期には題材でもインパクトがあって「他社にはやりづらい」ものを選びつつ、その後はより広い題材へ……と変えていっているのではないだろうか。

「日本」に特化するアマゾン、世界中の「ファン」に特化するディズニー

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Shutterstock

では、競合他社はどうだろう?

現状、ネットフリックスの最大のライバルはアマゾン プライム・ビデオだ。彼らもオリジナルコンテンツを重視しているが、ネットフリックスとは方向性が大きく異なる。

まず、グローバル調達コンテンツは、ネットフリックスほど「エグい」ものにしていない。「高い城の男」は、枢軸国側が第二次世界大戦に勝った世界を描いたもので、エグいといえばエグいが、そこまでではない。より「ハリウッド的」作品が中心だ。

一方、日本国内で調達するコンテンツについては、明確に「バラエティー路線」を貫いている。「ドキュメンタル」に代表される、吉本興業とタッグを組んだ番組群が目立つ。

こうした番組はネットフリックスの調達コンテンツと違い、必ずしもワールドワイド配信を前提としていない。「日本でウケること」が、なにより重要だ。

アマゾンにおけるグローバル企業としては意外にも思える「ローカル重視」の姿勢は、2015年のスタート当初からのもの。

同社は膨大なDVDのセールス情報をもっており、どの年齢層がどのような作品を好むかを知っている。オリジナルに限らず、映画やドラマなどの調達についてもそのデータを活用した。だから、独自コンテンツにも、より「日本向け」の味付けをしている。

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Shutterstock

Disney+はスタートしたばかりなので、オリジナルコンテンツの多くは「制作予定」だ。方針は明確。スターウォーズにマーベル・シネマティック・ユニバース、ピクサー作品にハイスクール・ミュージカルと、「ディズニー傘下のコンテンツのフランチャイズ」に特化している。

ファンが多く、「ディズニーが見たいなら、あの作品のスピンオフが見たいなら「Disney+」という明確なメッセージがある。逆にいえば、ネットフリックスほどコンテンツの多様性はない。

Apple TV+は、Disney+同様、まだコンテンツが少ない。

現状はまさに「ハリウッド的」コンテンツが主軸だ。質は高いが、ネットフリックスほどインパクト勝負ではない。良く言えば上品、悪く言えば特徴が薄い。「アメリカのプレミアムケーブルテレビ局がひとつ増えた」ような印象だ。

実のところ、Apple TV+自体、「Apple TV」というサービス全体では「プレミアムコンテンツ局のひとつ」という位置付けなので、その印象は間違いではないのだろう。

「全世界配信」を強調するネットフリックス

ネットフリックスアプリ

撮影:伊藤有

現状、アメリカ市場の注目は「ネットフリックス対Disney+」にある。後者の伸びは大きく、コンテンツにも誘引力がある。日本でも「Disney DELUXE」で公開が始まった「マンダロリアン」は、きわめて質が高い。一方ネットフリックスも、2019年末に公開されたファンタジードラマ「ウィッチャー」がヒットしている。

ネットフリックスは決算資料の中で、面白いグラフを提示した。Googleの検索量統計である「Googleトレンド」で、どのオリジナルコンテンツが検索されている量が多いのかを示したのだ。結果は、ウィッチャーの圧勝だ。

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ネットフリックスの決算資料より。検索量ではウィッチャーがトップ。しかしこれは「ワールドワイドでの検索量」なので、ネットフリックスにもともと有利な数字だ。

出典:Netflix

だが、この資料を見る時には注意が必要だ。この結果は「ワールドワイドでの検索量」だ、という点だ。

ネットフリックスは世界190カ国で配信している。一方のDisney+は、アメリカ・カナダ・オランダ・オーストラリア・ニュージーランドの5カ国でしかスタートしていない。だから、世界配信のウィッチャーの方が数は多くなるのはあたりまえだ。

これは「ネットフリックスの数字の見せ方がずるい」というより、世界同時配信と北米中心とでは、それだけ数が違う、ということを示している、といった方が正確だろう。

冒頭で書いたように、ネットフリックスの有料会員のうち、1億人はアメリカ国外。伸びのほとんどもアメリカ以外だ。同社としては、他社が出てくるよりも前に「全世界同時配信の強み」「全世界でのビジネスの伸び」を強調しておきたいのだ。

(文・西田宗千佳)

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