【note・加藤貞顕1】2000万人が集う“開かれた表現の街”はなぜ生まれたか

加藤貞顕

撮影:竹井俊晴

「ブログに書く」という言葉が死語になりつつある。

個人がインターネット上に自由に思いを綴る場として、急速に伸びているプラットフォーム「note」によってそれが置き換わろうとしているからだ。

noteはテキストや写真、イラスト、音声、動画など、自由なスタイルでの表現を公開できるウェブサービス。

2014年4月のサービス開始以来、ジワジワと利用者を増やし、2019年1月には月間アクティブユーザー数1000万人を突破。さらに同9月には倍増して2000万人超えと、急速に勢いを増している。1日あたりの投稿数は約1万と、今最も人を集めるプラットフォームの一つとして注目されている。

その立役者がピースオブケイク代表取締役CEOの加藤貞顕(47)だ。出版社での編集職を経て、9年前に会社を立ち上げた。

誰もが使える“インフラ”目指したい

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真っさらなキャンバスを思わせる白い空間。「だれもが創作をはじめられる」を象徴している。

撮影:竹井俊晴

東京・外苑前にあるオフィスを訪れると、入ってすぐに真っ白な空間が広がり、剥き出しの配管には未完成の余白がある。白い空間はどんな人の表現も受け入れる“未来のキャンパス”を想起させる。

壁に立てかけられていたのは同社のミッション、「だれもが創作をはじめ、続けられるようにする。」という言葉。シンプルだが、この一文の達成のために、加藤は並々ならぬ思いを注いできた。

ここ数年で重要視してきたのは「仲間を増やすこと」。

2017年1月にはTBSグループと資本提携。2018年夏には日本経済新聞社と、さらにその後、YouTuberマネジメントを手がけるUUUM、テレビ東京との資本提携を発表し、老舗総合誌『文藝春秋』が初のデジタル定期購読サービスをnote上に開設したことも話題に。今後も多分野での提携を積極的に進めていくという。

「コンテンツを“つくる”サポートの先には、“届ける”“広げる”サポートがあるのは当然。ここで生まれたコンテンツが本になったり、映像作品になったりという導線を増やしていく。インターネット上で面白いものが生まれたら、一瞬で広がり、作り手が稼げるようになってほしいと、僕は願っているんです。

そうなるためには発信のチャネルは多ければ多いほどいい。だから組める相手は常に求めています」

「組める相手」とは、例えば誰を指すのか。答えは「誰とでも」だ。

「僕たちがつくっているのは、誰もが使えるプラットフォームであり、“インフラ”と呼ばれるレベルを目指したい。あるテレビ局と組んだからといって、他局と組まない理由にはならないです」

note

シンプルな言葉で綴られるのは、創業以来揺るぎないミッションとバリュー。

撮影:竹井俊晴

次々と生まれる話題作や筆者

note発のスターコンテンツも続々誕生している。

鬱病からの克服エピソードをまとめ、34万部を突破したコミック『うつヌケ』(田中圭一著)や、2019年ドラマ化された『左ききのエレン』(かっぴー原作)など。2019年にはnoteがきっかけで11冊の書籍が生まれた。知的障害を持つ弟と車椅子生活者の母と暮らす日常を綴る岸田奈美氏には、『文藝春秋』の巻頭随筆のオファーが来た。noteの収入だけで生計を立てられるようになったクリエイターも続々と登場している。

魅力的なコンテンツが生まれる場所としての存在感を、日に日に増している。

加藤は「note」の設計を「街づくり」によく例える。

「歌舞伎町と代官山では、その街に降り立つ時の気分がまったく違いますよね。誰もが安心して歩けて、『ここなら自分のお店を出せるかも』と思える、オープンな街をネット上につくりたい。

なぜなら多様性こそ、豊かなコンテンツの源泉だから。間口を狭めず、いろんな価値観の人に違和感なく入ってきてもらうために、例えば、noteは白と柔らかいグリーンを基調にしたプレーンなデザインなど、細かい部分を大事にしてきました」

加藤プロフフィール

撮影:竹井俊晴

ランキングをしない、と当初から決めたのも多様性を守るため。

読み手にとって、閲覧数の多い記事が分かりやすいほうが便利であることは、もちろん加藤も承知している。

しかし、「炎上」や「バズり」を狙って易きに流れれば、「書き手のクリエイティビティをねじ曲げる」。ユーザーがフラットな視点で面白がれるコンテンツに辿り着ける世界にこだわりたい。とはいえ、理想の実現は一筋縄ではいかない。

「日々増え続ける膨大な記事から、一人ひとりに合う記事をレコメンドするアルゴリズム開発は、難しいなんてレベルじゃない。自分の首を絞めているのは分かっているけれど、やるしかないんですよ」

加藤と話していると不思議な感じがする。目指している世界は壮大で、「世の中にあるべきサービスを、自分がつくらないといけない」という使命感に突き動かされつつも、それを前面に押し出す様子もない。終始落ち着いた語り口。名声や栄誉を求めるような“我”を感じさせず、「それが必要だから」と“当たり前のこと”を自分はやっているだけ、という風だ。

話を聞きながら、そんな印象が強まっていく。

加藤がなぜここに行き着いたのか。そして、どこへ向かうのか。「孤独なオタクでしかなかった」と語る、その原点から遡ってみよう。

加藤貞顕

撮影:竹井俊晴

(文・宮本恵理子、写真・竹井俊晴、デザイン・星野美緒)


宮本恵理子:1978年福岡県生まれ。筑波大学国際総合学類卒業後、日経ホーム出版社(現・日経BP社)に入社し、「日経WOMAN」などを担当。2009年末にフリーランスに。主に「働き方」「生き方」「夫婦・家族関係」のテーマで人物インタビューを中心に執筆。主な著書に『大人はどうして働くの?』『子育て経営学』など。家族のための本づくりプロジェクト「家族製本」主宰。

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