【独自】「売却は苦渋の決断だった」メルペイのOrigami買収の舞台裏

Origami Apps

突如、メルペイへの統合が明らかになったスマートフォン決済の「Origami Pay」。

撮影:小林優多郎

1月23日、突如としてメルペイへの事業売却を発表したOrigami(オリガミ)。スマホ決済市場の開拓者として常に注目を集めてきた同社の身売りは、関係者から大きな驚きをもって受け止められた。既報のとおり、決済サービス「Origami Pay」と「メルペイ」は今後統合される見通しだ。

その背景について、オリガミの内情をよく知る関係者はBuiness Insider Japanの取材に対し「(事業売却は)オリガミにとっては苦渋の決断だった」と、売却劇の内幕を明かした。

バイアウトはギリギリまで考えていなかった

ヤフーとLINEの経営統合会見

2019年11月、ヤフーとLINEは経営統合を発表した。

撮影:小林優多郎

すべてのはじまりは、2019年11月。キャッシュレス決済の巨人2社、ヤフー(PayPay)とLINE(LINE Pay)の経営統合の発表から始まった。

「(事業売却は)オリガミにとっては苦渋の決断でした」

オリガミをよく知る業界関係者はそう明かす。買収をめぐる報道の中には、オリガミの康井義貴社長の手腕に対して、「うまく売り抜けた」という論調もあるが、事実は真逆だと言う。

「オリガミは、バイアウト(他社への事業売却)をギリギリまで考えていなかったはず」(業界関係者)

オリガミは2012年2月に設立。当初はECサービスアプリとして展開していたが、2015年10月にスマホ決済サービス「Origami決済(現Origami Pay)」がスタート。その後、決済事業に主軸を移した経緯がある。

Origami Apps

Origami Payは現在も還元キャンペーンを実施している。

撮影:小林優多郎

しかし、キャッシュレス業界はその後、PayPayの「100億円還元」に代表される還元合戦が激化し、消耗戦となっていく。

オリガミも例に漏れず、対象チェーンの店舗での支払いが割引となる「オリガミで、半額。」などを実施。現在も、キャッシュレス還元事業の最大5%還元に、最大3%の還元額を上乗せするキャンペーンを実施している。

「オリガミは、大きなTV CMなどではなく、ユーザーへの還元こそが最も効率の良い“販促費”と考えていました。しかし、足下のキャッシュが減っていくうち、他社への売却を考えなくてはいけない水準まできてしまった」

前出の業界関係者は、今回の事業売却を、事実上の「オリガミの資金枯渇」と「メルカリ(メルペイ)による事業救済」だったと説明する。

オリガミ康井社長の心境は想像するほかないが、少なくとも11月4〜8日に香港で行われたFinTech系イベントでは、Business Insider Japanの取材に対し「色んな国で展開できたら良いとは思っています」と、海外展開への展望を述べるなど、今後の発展への意欲を示していた。

「オリガミ売却」に誰も手をあげなかった

メルペイとオリガミ

メルペイとオリガミ。

撮影:小林優多郎

ではなぜ、売却先はメルペイだったのか。

「売却先がメルペイになったのは結果論であり、ほかの事業者からは断られてしまったからです」(別の業界関係者)

オリガミは、全国の数百の信用金庫へキャッシュレス決済基盤を提供したり、地方自治体と連携するなど、他社に比べて地方に根付いたビジネス展開を意識的に進めてきた。

PayPayの規模

1月17日にPayPayが発表したユーザー数、加盟店数など。

撮影:小林優多郎

しかし、Origami Payの加盟店は累計19万カ所。競合であるPayPayは185万カ所超(2020年1月17日時点)。売却先であるメルペイも約170万カ所(iD決済約90万カ所+コード決済約80万カ所、いずれも2019年9月時点)と、大きく差が開いている。

「直近のリリースを見ても、信金との連携や小さなキャンペーンばかり。すでに規模のある事業者にとっての魅力は少なかったのではないか」(前出の関係者)

オリガミは「いくら」だったのか?

Origami Office

六本木ヒルズ内にあるオリガミのオフィス(2019年6月撮影)。

撮影:小林優多郎

今回の買収劇の最大のポイントのひとつは「オリガミの売却額はいくらか」だ。メルペイ、オリガミともに金額は明らかにしていない。

オリガミは、ヤフー・LINE経営統合報道以前に日本経済新聞が発表した「NEXTユニコーン調査」で企業価値417億円のベンチャーとして紹介されている。

しかし、メルペイ以外が手をあげなかったことは、この企業価値が大幅に毀損していることを意味するのではないか。取得金額については資金ショートにあえぐオリガミに示された金額は「数十億程度だった」との指摘もある。

メルカリの適時開示

メルカリが1月23日に公開した「当社子会社による株式会社Origamiの株式の取得(孫会社化)に関するお知らせ」の一部。

出典:メルカリ

オリガミは設立から現在に至るまで、KDDIやソフトバンクグループ、クレディセゾンなどから累計88億円の資金調達を実施している(オリガミのリリースより)。しかし、今回の買収を公表するリリースは、上場企業による買収では異例の非公表。

メルペイの親会社であるメルカリは、東証マザーズに上場しており、1月23日に適時開示を出しているが、取得価額は「当事者間の秘密保持義務に基づき非公表」としている。

これまでオリガミを見てきた関係者はこうみる。

「評価額を明らかにできないのは、調達した金額より大幅に低く、投資家の反感を買うからでしょう」

オリガミのネットワーク

2019年9月27日の「Origami Pay Conference 2019」で公開されていたOrigamiの新事業を含む構想図。

撮影:大塚淳史

現代のキャッシュレスブームが始まる前からベースとなるアプリを開発し、各地の信用金庫などをその潮流に誘致したオリガミの功績とそのビジョンは評価できる。

しかし、競争激化が原因とはいえ、企業価値が毀損されたまま資金ショートによる売却という結果は、同社の努力が一歩叶わなかったことに他ならない。

もちろん、還元激化の環境下で今後“第2、第3のオリガミ”が出てくることは想像に難くなく、業界再編の様子は注視していく必要がある。

なお、本件に関連してオリガミ側に買収後の人員配置について問い合わせたところ、オリガミ広報担当者は「両社が最大に強みを発揮できる適切な人員配置について検討を行っております」と、現在185名の従業員に対する具体的なリストラ案などの明言は避けた。

(文、撮影・小林優多郎)

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