公道での運転手なし自動運転配送サービスを実現したニューロ(Nero)。
Nero
- ニューロ(Nuro)は自動運転配送の開発を行っている。ユーザーが余計なコストを支払うことなく宅配を受けられるよう、ロボット輸送による人件費ゼロ化を目指している。
- 同社は現在、米スーパーマーケット最大手クローガー、米宅配ピザ大手ドミノ・ピザとエリア限定で宅配テストを行っており、小売り世界最大手ウォルマートとも提携して食料品の宅配を拡大する。
ニューロ共同創業者兼社長のデイブ・ファーガソンは、食品を含めたあらゆるアイテムをドア・ツー・ドアで配送するプラットフォームをつくり上げようとしている。
強力なコンピューターを搭載した自動運転車両が人を乗せてどこへでも行ってくれる世界は、SFはともかく現実では簡単に実現できそうにない。
しかし、荷物の配送のような人間を乗せない自動運転テクノロジーの応用は先行していて、ニューロはすでにそれを現実のものとしている。
グーグル自動運転プロジェクトを経て起業
ニューロは、アルファベット(グーグルの親会社)の自動運転プロジェクト(現在のウェイモ)の元社員、デイブ・ファーガソンとジャジュン・ツーが2016年に創業した。
同社は商品配送のための自動運転車両とソフトウエアを開発している。アリゾナ州スコッツデールでクローガーと、テキサス州ヒューストンではドミノ・ピザと、それぞれ食料品の宅配実験を実施中だ。
さらに2019年12月、ニューロはウォルマートと提携したことを明らかにした。近くヒューストンで食料品の配送実験を始める。
ニューロは運転手の必要ない自動運転車両を導入することで配送システムを効率化し、消費者が配送料の負担なしで商品を受け取れるようにすることを目指している。ファーガソンによると、販売する(小売り)側から料金を受け取るビジネスモデルを想定しているという。
ソフトバンクの出資額は1000億円超
ソフトバンクの孫正義社長兼会長。ニューロだけでなく、ドアダッシュやウーバーなど自動運転関連サービスの競合にも投資。
REUTERS/Kim Kyung-Hoon
宅配市場は巨大だが、同時に競争がし烈だ。ウーバーイーツ、ドアダッシュ、グラブハブといった企業が、やりがいはあるものの利益率の低いビジネスで生き残りをかけて争っている。
ファーガソンは2つの数字をあげて現在の状況を説明してくれた。
アメリカでは毎年、自家用車による移動が2200億回行われ、その4割以上が買い物目的だという。
「私たちはとんでもない時間と労力を、買い物のための運転に費やしています。その"おつかい"をニューロは人間に代わって、しかもずっと効率的にやってくれるのです」
金融情報サービス「ピッチブック」のデータによれば、ニューロはこれまでに10億ドル(約1090億円)以上の資金を調達してきた。うち9億4000万ドル(約1030億円)は孫正義率いるソフトバンクグループからの投資だ。
ただし、ソフトバンクはニューロの競合であるドアダッシュ、ウーバーにも投資している。
成功へのハードルはウェイモやテスラより低い
Nero
ニューロの潜在的な成長性が高いと思われるのは、乗り越えねばならないテクノロジー上のハードルが競合企業に比べてずっと低いからだ。
ウェイモやテスラ、ゼネラルモーターズ(GM)が出資するクルーズなどが開発しているのは、人間を乗せることを目的とする自動運転車両だ。この場合、乗客の安全性、快適性の確保のためにきわめて高い水準のテクノロジーが求められる。
「人間を乗せて走るなら、安全性はものすごく高くなければなりません。当然、何かにぶつかるなどあってはならない。乗り心地が悪くてもダメです。安全性と快適性の両方が必須であり、それを実現できるテクノロジーの開発は非常に難しい」(ファーガソン)
ニューロの場合、乗り心地の快適さを考える必要がない。カーゴベイ(貨物室)の中のパッケージが壊れさえしなければいいのだ。その点で、同社が他の競合より先にサービスを始められる可能性は高い。
2018年12月に始めたクローガーの食料品配送は、人間を乗せない自動運転車両が公道を使ってサービスインした最初の例だった。ウェイモと、トヨタが出資するメイ・モビリティは、ニューロより先に自動運転車両を公道で走らせているが、安全を確保するために人間が運転席に座ってハンドルを握り、監視していた。
ただし、ニューロのビジネスモデルには固有の問題がある。それは、消費者がドライバーのいない車による配達にどんな感覚を抱くかという問題だ。
これまではドライバーが玄関までやって来て商品を手渡ししてくれたが、それがニューロの自動運転車両とのやり取りに置き換わったとき、私たちはどう感じるだろうか。
また、ニューロの車幅は一般的な乗用車の半分ほどで、最高速度は40キロ。これが普通に公道を走るようになったとき、他の自動車のドライバーたちはどう反応するだろうか。
クローガーとの配送実験では、この2つの点はとくに問題にならなかったという。
そのうち"なんでも屋"になる?
ニューロのプロモーション動画。2018年に「世界で初めて」無人自動運転配送サービスを始めたことが強調されている。
Nuro
ニューロの最初のバージョンにはデザイン上の問題があった。
「R1」と呼ばれたこのプロトタイプはドアが十分上まで開かず、消費者が中から商品を取り出すときにかがまねばならなかった。ニューヨーク・タイムズの記者をはじめ、テストに参加した人たちは何度もドアに頭をぶつけるハメになった。
次のバージョン「R2」でこの問題は解決されたという。R2は2020年の早い段階で公道デビューを果たす予定だ。
ファーガソンによれば、今後ニューロが配送する商品は食料にとどまらない。ドア・ツー・ドア、ピア・ツー・ピアで配送される必要があるアイテムならなんであれ対象になる。
自動運転配送のなんでも屋、いわば(中古品売買を仲介する場として使われている)オンラインコミュニティ「クレイグスリスト」のような存在になるという。
ニューロの自動運転車両は、ウェブサイト経由の個人間取引に伴うさまざまな煩わしさを一掃してくれる。現在は売り手と買い手が連絡先などを互いに確認する必要があるし、集荷の日時などを事前に調整する必要もある。そして、最後には誰かが必ず、車でアイテムを運ばなくてはならない。
ニューロが目指す個人間取引のあるべき姿について、ファーガソンはBusiness Insiderの取材にこう語っている。
「クレイグスリストなどを通じた個人間取引は煩わしさのほうが便益より大きかったということになりがち。でも、ニューロを使えば手間は大幅に軽減される。理論的には、売り手がどこに住んでいてどんな手段でアイテムを送るのか、買い手は知る必要がなくなります。それどころか、売り手が誰であるかさえ知らなくて済むようになるのです」
そしてその社会的意義を、彼は端的にこう説明する。
「買い物のために車を走らせるより、もっと楽しく生産的なことが世の中にはいくらでもあります。ニューロがその部分を肩代わりできるようになれば、それは社会に対するきわめて大きな貢献と言えるのではないでしょうか」
(翻訳:滑川海彦、編集:川村力)