ZMPの自動運転タクシー「ZMP RoboCar MiniVan」。後席ドアは、スマホアプリで認証すると開く仕組み。この試乗車を運行するタクシー会社は日の丸交通。実証には日本交通が運行する車両と合わせて2台が走った。
撮影:伊藤有
自律移動ロボットのベンチャーZMPと大手6社が参画して1月20日から実施中の「空港リムジンバス・自動運転タクシー・自動運転モビリティを活用したMaaS実証実験」。
ZMPの自動運転タクシーの体験の公募に個人的に応募していたところ、運良く当選した。取材目的ではなかったものの、なかなか興味深い体験だったのでレポートしてみたい。
この取り組みは、東京空港交通、T-CAT(東京シティ・エアターミナル)、日の丸交通、日本交通、三菱地所、JTB、そしてZMPが共同で行っているもの。前出のとおり体験者は公募で集められ、1月20日〜2月1日まで実際に公道を走行して実証する(すでに公募は締め切られている)。
ZMPのMaaS実証のコース一覧。事前に複数の希望日で入力しての抽選だった。T-CATと空港間は基本的にリムジンバスに乗る形。
実証の想定としては、自動運転タクシーに関しては、丸の内から、羽田・成田空港へのリムジンバスのターミナルであるT-CATまでをスムーズに移動して、「徒歩移動や電車移動を最小限」で空港とを結べる(またはその逆の経路)というサービスをイメージしている。
丸の内パークビルに停まる自動運転タクシー
実証に使われる「TokyoMaaS」アプリ。
撮影:伊藤有
ZMPのMaaS実証アプリ「Tokyo MaaS」。利用当日になると、予約番号を入れることでこうした一連の画面にアクセスできる。
2019年末に実施された公募に個人的に応募、運良く当選して、試乗当日を迎えた。
試乗者には、事前にMaaS実証用のアプリ「Tokyo MaaS」をダウンロードするように指示があったため、手持ちのiPhoneにインストールしておいた。
試乗当日、試乗開始地点の東京駅近くにある「丸の内パークビル」に足を運んだ。
丸の内パークビルの車寄せには、水色にペイントされたトヨタのエスティマ・ハイブリッドが停車していた。これが、ZMPの自動運転タクシー「ZMP RoboCar MiniVan」だ。
ここから、日本橋・箱崎町にある東京シティエアターミナル(T-CAT)までの約3キロの下道を自動運転で運んでもらう。
ベース車両はエスティマとはいえ、見た目はなかなか物々しく、多数のセンサーを装備している。ルーフ(屋根)上に3次元LiDARが1つ、バンパー内に2次元LiDARが前3つ、後ろ2つ。さらに、車内から前方を見るカメラが3種類(距離を見るステレオカメラ×1、白線を見るカメラ×1、信号を見るカメラ×1)というのが、その装備だ。
「せっかくなので記念写真とりますか」とスタッフの方に声をかけられて、撮影。車両の前側バンパー周辺にあるふくらみは、環境認識のためのLiDAR装備。パッと見、物々しい装備がついたタクシーという感じ。よく見ると、フロントガラス内側にも複数のカメラがある。
撮影:伊藤有(現地スタッフの方による)
実証実験の係員の人から一通りの事前説明を聞いてさっそく、アプリを起動した。
乗車時はTokyo MaaSアプリのカメラ機能で後部座席の窓にあるQRコードを読み込むことで「個人の予約」と照合され、自動的に後部座席のスライドドアが開く……という仕組みのようだ。
実は写真撮影可なのは外観だけで、室内撮影は不可というのが実証参加のレギュレーション。そのため、ここからは映像がない(こういう対応は海外でも一般的。最近は違うそうだが、以前はアメリカで実証しているAptivの自動運転ライドシェアも、車内撮影は不可だった)。
運転席と助手席には、それぞれ関係者が座っている。後部座席は自分一人だが、最大4人まで乗車できるという。
後部座席に座ると、目の前にある助手席のヘッドレストに、都内のタクシーで一般的になりはじめた液晶ディスプレイ(タブレット)が固定されている。
ここで試乗開始前のルートの確認などの操作をすると、自動運転タクシーが走り出した。
3キロ程度の下道試乗は、普通に安心して乗れた
自動運転タクシーの様子。車内の機材は、この動画にあるそのものだった。
出典:ZMP
丸の内パークビルを出て目の前の大通りに入ると、即座に自動運転で走行を始めていた。ハンドルに微妙に手を添えているので一瞬わからなかったが、ドライバーがハンドルを「握っている」という感じではない。
下道の乗車で感じたのは、「意外とスムーズで、普通だな」ということ。テスラのオートパイロットも、日産スカイラインのプロパイロット2.0も体験しているので、「クルマが勝手に走る」ことには不思議はない。けれど、これがタクシーとして走る未来が来るなら、やっぱり面白いな、と思う。
加速、曲がり角でのハンドル制御のマナーも気になるところはなかったが、減速は少し強めに感じた部分があった(感覚としては、運転がやや荒いタクシー程度)。
普通のタクシーと違うのは、実証のため「ドライバーなどに話しかけないでください」という注意があったので、室内の会話がゼロということ。
静かな室内には、3列目シート裏付近のトランクから、「ブーン」というコンピューターのファンが動作しているらしき音がずっと響いていた。
運転席のヘッドレスト後ろに装着された液晶モニターには、LiDARで取得していると思われる、リアルタイムの周辺環境認識の様子が、グラフィカルに表示されていた。
公式YouTube動画にある周辺環境認識の様子。赤い線が出ているのが、自動運転タクシー。まったく同じかどうかはわからないが、こういう粒度の映像を実証車両の後部座席でも見ることができた。
出典:ZMP
道路が空いていたこともあり、10分程度でT-CATに到着。ここで唯一普通のタクシーと違うことがあった。PCで車内作業していたのでモタモタ降車していると、目の前の画面で何やらカウントダウンがはじまった。
スタッフに聞くと、「1分間で開いた降車ドアが閉まります」との説明。
慌てて荷物をまとめて降りると、電動スライドドアが静かに閉じた。
自動運転タクシーは「あえて無人に乗りたい」需要がある?
T-CATに到着した自動運転タクシー。慌てて降りてから、忘れないように1枚撮影したときのもの。
撮影:伊藤有
実証実験ということで、降車後にはアンケートもあった。全13項目(詳細回答まで含めるともう少し多い)という比較的細かいものだ。
印象的だったのは、「距離5km程度、料金2000円程度のルートで有人タクシーと無人タクシーが選べる場合、どちらを選ぶか」という質問だ。
MaaS実証の体験者向けアンケートの一部。せっかくなので、詳細な質問に詳細に答えた。
撮影:伊藤有
たしかに、もっと技術が進むと「人が運転すると会話しないといけないから嫌だ」という人は出てきそうだな、と思う一方で、料金がまったく同じなら「つかまえやすかった方に乗る」というのが、ほとんどの人の感覚なんじゃないか。少なくとも僕はそうだ。
例えば、都内では深夜割増のないタクシーも走っているが、絶対数が少ないので、アプリで呼んだとしても結構待たなければいけない。わざわざ待つのは、便利だからではなく「料金が安いから」だ。
また、実証の建てつけとして「バスターミナル(T-CAT)への移動の足を自動運転タクシーにすることで、ユーザーの移動の手間を取り除く」というものだからしょうがない部分はあるものの、「羽田空港程度の距離なら、そのまま自動運転タクシーで移動したい」という気持ちが残ったのも、正直なところだ。
なお、ZMPによると、実証体験のスロット数(体験回数)は、実証期間のべ13日間トータルで約180スロット。後日、ZMP広報に実証開始前半で寄せられた要望について聞くと、「台数、エリアの増加を希望」「実用化間近との実感を得られ、有意義だった」といった前向きなコメントが得られたという。
東京五輪時期に絡んだ実証は今の所予定していないそうだが、もっと長い距離を乗るような体験も今後期待したいところだ。
(文、写真・伊藤有)