Airbnb共同創業者兼最高戦略責任者(CSO)のネイサン・ブレチャージク(中央)。「民泊新法」規制の影響を受けながらも、日本は世界屈指の"エアビー大国"に成長。
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民泊仲介サイト世界最大手Airbnb(通称エアビー)が2020年中の上場を計画している。投資家の期待も高まっている。
エアマットレスを置いただけのロフトを提供するサービスから出発したエアビーは、いまやグローバル展開する旅行会社へと成長した。
2019年は有望企業が上場後も公開価格を下回るケースが相次ぎ、加えてWeWork(ウィーワーク)がスキャンダル絡みで上場を延期。投資家は慎重になっている。
22世紀まで生き残る企業を目指す
2008年に設立されたエアビーは、見知らぬ人に空き部屋を貸し出すサービスに始まり、いまやオーダーメイド旅行から不動産管理サービスまで手がけるグローバル旅行会社へと成長した。評価額は310億ドル(約3兆4000億円)、掲載物件は220カ国以上に広がり、700万件を突破した。
2019年9月、同社は2020年中に上場する計画を発表。上半期にも必要な手続きを始めるとみられる。通常の新規株式公開(IPO)ではなく、新株を発行しないダイレクトリスティング(直接上場)になる可能性も報じられている。
エアビーの株式公開については、経営幹部や従業員たちからも、他社に比べて遅すぎるとの声があがっていた(ニューヨーク・タイムズ、2019年9月20日付)。
21世紀企業として、22世紀まで存続し、イノベーションを続けようと従業員を鼓舞した、共同創業者兼CEOのブライアン・チェスキーの公開書簡。
Screenshot of Airbnb website
そんな社内からの声に対し、共同創業者兼CEOのブライアン・チェスキーは、「無限時間の将来を見据えて」長期的視点に立った経営にこだわりたいとの考えを示した。
「スポーツと違って、ビジネスには試合終了時間もなければ、勝ち負けもない。生きのびてイノベーションを続けるだけなのです。私たちは四半世紀後ではなく、次の世紀まで存続する企業でありたい。無限時間の将来に目を向ければこそ、より大胆になれるし、自分たちが生み出すものにより大きな責任を感じ、さらなる変化を生み出そうと考えられるでしょう」
そうした将来につながるのが果たして「上場」という選択肢なのか、エアビーが社内で慎重な議論を重ねているうちに、他の多くのユニコーン(=評価額10億ドル以上のスタートアップ)はとりあえずやってみることに決めた。それが2019年という年だった。
しかし、ウォール街の投資家やアナリストたちに良い印象は残せなかった。
ライドシェアのウーバー・テクノロジーズ(Uber)とリフト(Lyft)、ビジネスチャットのスラック・テクノロジーズ(Slack)は株価の底上げに躍起だったし、ウィーワーク(WeWork)は財務とガバナンスのほころびからIPOを断念せざるを得ない状況に追い込まれた。
2019年5月、ウーバーは米ニューヨーク証券取引所に上場を果たした。が、直後から株価の低迷が続き……。
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そうした背景に加え、忍び寄る景気後退への不安も重なり、エアビーはこれまで以上に厳しい投資家たちの監視の目にさらされている。投資家たちはいまエアビーの何に注目しているのか。ポイントを5つにしぼって紹介しよう。
利益と利益率:エアビーは稼げているのか。もしそうなら、どのくらい?
ウーバーやリフトのような話題ばかり振りまくスタートアップに対して、投資家たちは用心深くなっている。ベンチャーキャピタルの資金が入っていると、サステナブルなビジネスモデルの確立より、投資回収につながる会社規模の拡大を優先させがちだ。
そのあたりを見誤らないよう、投資家たちはエアビーの利益(あるいは損失)と利益率をしっかりチェックするだろう。
エアビー共同創業者兼CEOのブライアン・チェスキー。投資家の期待に応えられるか。
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エアビーの発表によると、2017年、18年と連続で、利払い・税引き・減価償却前利益(EBITDA)は黒字を出している。また、米CNBCテレビによると、同社のバランスシート上は少なくとも30億ドル(約3300億円)の現金があるという。いずれも良い兆候だ。
しかし、2019年第1四半期はマーケティング関連費用の増加により赤字が前年の倍に膨らみ、投資家たちを戸惑わせた。
RBCキャピタルマーケッツのマーク・マヘイニーは、エアビーがサステナブルな成長を追い求めつつ新たな指標を示すだけでなく、同時に「予約数や利用者数の増加、その成長トレンド」を示すことが大事だと指摘している。
競合とコスト:エアビーが規模拡大し、グーグルと競合関係になれば、マーケティングコストは一気に増大する
掲載物件は220カ国以上に広がり、総数は700万件を突破したエアビー。グーグル検索への過剰な依存を警戒しているとの見方も。
Screenshot of Airbnb JP website
事業規模が拡大すると、マーケティングコストの規模も大きくなる。とりわけグーグルのような検索エンジンを通じて知名度を上げようとすると、費用がかさむ。
旅行業界専門ニュースサイト「スキフト(Skift)」のデニス・シャール編集長は、ブッキング・ドットコムやトリップアドバイザーのような競合企業に比べ、エアビーがマーケティングコストを安く抑えることができているのは、エアビーのブランド力の強さのおかげだと指摘する。
「エアビーの売り文句はいつもこんな調子だ。『ウチのサイトに物件を掲載すれば、もっとダイレクトトラフィックを増やせるのに。なんと言っても、ブランドが強いからね』」
ウェブマーケティング支援会社シミラーウェブのレポートによると、エアビーのサイトアクセス数のうち6割以上が直接のビジターだという(2019年12月時点)。
ただし、今後より多くのユーザーにリーチを広げようとすると、状況は変わっていくかもしれない。テック系メディア「インフォーメーション」(2019年10月17日付)によると、エアビーは2019年第1四半期にマーケティング関連費用として前年同期比58%増の3億6700万ドル(約400億円)を計上し、赤字幅を拡大させている。
そこで決定的な役割を果たしているのはグーグルだ。2018年から、ホテル検索の結果にブッキング・ドットコムなどのバケーションレンタル(=研修や家族旅行など大人数で使える一棟貸し)物件が表示されるようになった。もちろん旅行サイト側は1円も払っていない。
エアビーは2019年10月までこの話に乗ろうとしなかった。グーグルへの過剰な依存を嫌ったからだろう。前出のスキフト編集長、シャールは次のように分析する。
「エアビーは無料で検索結果にのせてもらえる、グーグル側もそこに物件が表示されているとありがたい。いまはそれで良しとして、この先グーグルがマネタイズの蛇口を開いたらどうなるか。最大の競合はブッキング・ドットコムではなく、グーグルになるのでは?それこそがエアビーの恐れている展開なのです」
地方のB&Bからホテル、不動産管理まで:エアビーのアイデンティティはどこに?
富裕層向けバケーションレンタル事業にも進出したエアビー。
Airbnb
エアビーはもともと、B&Bならぬ「エア」ベッド・アンド・ブレックファスト(AB&B)事業から始まった。社名がまさにそのことを示している。
初期の投資家向けプレゼンでは、従来型のホテルに対抗し、自宅に空き部屋のある地方在住者と旅行客をマッチングすることで、他では体験できないくつろぎの環境を提供できるとアピールした。
しかし、掲載物件数が700万を超えたところで、エアビーは路線変更に踏み切った。
「ホテルはエアビーのようになりたいと考え、エアビーはホテルのようになりたいと考えたのです」
シェアリングエコノミーの専門家、エイプリル・リンネはそう説明する(リンネは過去にエアビーと仕事をしていたが、担当業務など詳細は明らかにしていない)。
近年、エアビーは相次いで企業買収を行い、規模を拡大している。その事業分野は不動産管理ソフトウェアからオフィス向けスペースシェアリング、法人向け出張手配サービス、バケーションレンタル、ホテル予約まで多岐にわたる。
エアビーがフロリダ州マイアミにオープンさせる自社ブランドのホテル「NATIIVO/MIAMI」のイメージ図。
NATIIVO/MIAMI
法人向け出張手配サービスの成功や、フロリダ州マイアミに2022年春オープンするエアビーブランドのホテル出店計画など、一連の動きはエアビーがより標準化された旅行体験を求めるユーザーのほうを向いていることを示唆している。
法人向け出張手配サービスが急成長している(2018年8月のニュースリリース)。
Screenshot of Airbnb website
前出のデニス・シャール編集長はこう危惧する。
「『せっかくならプロ品質の宿を選びたい、一定水準以上の宿がいい』そういう(普通の)要望に応じてばかりいるうちに、エアビーは創業時の"魂"を見失ってしまうのではないでしょうか」
信頼性と安全性:エアビーは禁止パーティーや詐欺を撲滅できる?そのコストは?
エアビー物件を舞台にした詐欺の手口をあばき出したVICEの調査報道。
Screenshot of VICE website
2019年10月にカリフォルニア州のエアビー民泊物件で発生した銃乱射事件と、デジタルメディア「VICE(ヴァイス)」の調査報道によって明らかになった全米規模の詐欺問題を受けて、エアビーの不正行為排除に向けた取り組みに世間の注目が集まった。
これに対し、エアビーCEOのチェスキーは700万件の掲載物件すべてについて、2020年末までに情報の正確性と品質水準を手作業で確認し、(銃乱射事件の原因となった)認められていないパーティーを厳しく取り締まるとともに、年中無休の緊急通報ホットラインを開設すると発表している。
ただ、言うは易く行うは難し。旅行市場調査会社フォーカスライトのマネージャー(調査・イノベーション担当)マイク・コレッタはこう見ている。
「最大の疑問は、それだけの規模の対策をどうやったら実現できるのか、ということ。コスト的に手に負えないようなやり方でなく、しかも約束の時間までに終えられるとは到底思えない、というのが大方の関係者の見方です」
規制リスク:エアビーは近隣の住民たちと良い関係を築けるか?
日本でも当局による規制や近隣住民との軋轢(あつれき)の問題は解決されていないが、それでも掲載物件数は約5万、室数は約7万3000へと増え、いずれも過去最高をマークしている(2019年6月時点)。
REUTERS/Kim Kyung-Hoon
エアビーは現在10万都市以上でサービスを展開している。しかし、どの国でも諸手をあげて歓迎というわけではない。パリやニューヨーク、ロサンゼルス、サンフランシスコ、シカゴ、ニューオーリンズ、そして東京など日本の諸都市。いずれも制限や禁止などの措置がとられている。
現地の行政当局は、賃料をつり上げている、適切な料率の納税を行っていない、ホテルと同じ規制に従わずにホテル経営を行って儲けている……などとエアビーを非難している。ホテル業界もこれをあおり立てずにはいられない。
前出のシェアエコ専門家のリンネによると、エアビーは自分たちを取り巻く規制のグレーゾーンを何とかしようと、地方の行政当局との交渉をそれこそ何百万回とくり返してきた。
交渉の席に着くにせよ、より積極的なアプローチを用いるにせよ、こうした取り組みは規制当局と折り合いをつける良い訓練になった。投資家も何となくそのことには気づいている。調査会社フォーカスライトのコレッタは言う。
「ここ数年、規制をめぐって相当な交渉を重ねて来たのは明白な事実で、もうそろそろそのことが評価されてもいいのではないでしょうか」
[原文:As Airbnb prepares to go public, here are the five things things investors will be focused on]
(翻訳・編集:川村力)