新型コロナウイルスによる肺炎拡大が止まらない。日本経済への影響は2500億円にのぼるとの試算も。
Reuters
新型コロナウイルスによる肺炎の拡大が止まりません。中国の国営・新華社通信によると、中国本土での患者数は5974人、死者は132人となりました。
日本への影響も心配です。1月28日には、発生源とされる中国・武漢への渡航歴がない日本人が、国内で新型コロナウイルスに感染したと初めて確認されました。29日には武漢滞在中の206人が政府のチャーター機で帰国。政府や企業も対応に追われています。
今回の新型肺炎の日本経済への影響について、専門家はインバウンド関連を中心に「経済損失は2500億円規模にのぼる」と指摘します。大和総研の山口茜研究員に詳しい話を聞きました。
訪日観光客の減少が大きな懸念
訪日外客数のシェアの比較(2018年/2019年)、中国からの訪日客数はシェアトップの2019年で「959.4万人」。
出典:日本政府観光局(JNTO)
—— 今回の新型コロナウイルスによる肺炎の流行で、日本経済にはどんな心配が出てくるでしょうか。
一番大きいのは、中国からの観光客の減少ですね。これが日本経済を下押しするメインの要因になるかもしれません。
また、今回の問題で中国経済が減速すると、中国の購買力が低下する可能性があります。そうなると、日本からの輸出が減少したり、中国に進出している日本企業の操業が一時的に停止したりする影響も想定されます。
—— 日本経済にとっては、中国からの訪日観光客の減少が最も影響がある、と。
日本政府観光局(JNTO)の統計によると、2019年の訪日外国人(インバウンド)の数は累計で約3188万人にのぼります。
このうち中国からは約960万人が訪日しており、国・地域別ではトップです。これは年間の訪日外国人の約3分の1という高い割合を占めています。
現在、中国政府は海外への団体旅行を禁止しました。これがどのくらいの影響になるのか、2018年のデータをもとに考えてみましょう。
まず、年間の中国人訪日客のうち団体客の割合は約30%。年間で約288万人にのぼります。
もし「団体旅行禁止令」が3カ月程度続いたとすれば、団体の中国人訪日客は約70万人減ることになります。
観光庁が1月17日に発表した「訪日外国人消費動向調査」(速報)によると、2019年の中国人観光客の消費総額は1兆7718億円。全体の36.8%になり、こちらも国・地域別でみて首位でした。1人あたりに換算すると21万2981円になります。
実際には、個人旅行客の訪日ハードルも上がるので、目安として100万人の中国人観光客が日本に来なくなると仮定すると、およそ2000億程度の影響があると試算します。
さらに、そうした国内消費額の減少が他産業の経済活動も縮小させるといった波及効果が500億円程度。合わせて2500億円程度の影響があると見積もっています。
増税後の新型コロナウイルス流行で小売業に打撃
観光客がよく訪れる東京・銀座。新型コロナウイルスによる肺炎の流行は、インバウンド受容に大きな影を落とす可能性も。
撮影:吉川慧
—— 数字で見るとインパクトが大きいですね……。
1人あたりの消費額が大きいので、よりインパクトがあるという面もあるかと思います。
特にどういった業種に影響があるかというと、基幹となる宿泊費や飲食費はもちろん、化粧品、医薬品、衣類などの購買にも影響が出てくると予測されます。先ほどの話にもありましたが、中国の方は他国の観光客と比べて商品購買額が高い。
企業によっては、中国人旅行客に特化したところもあると思うので、観光が下火になる影響は非常に大きいことでしょう。
—— 特に小売業界は、消費税が10%に増税されたことで、国内消費の冷え込みの影響を思いっきり受けています。デパートなどでは化粧品の販売などで、かなりのインバウンド需要を見込んでいました。
そこで頼みの綱だった中国人のインバウンド需要が落ち込むことになるわけですから、非常に悪いタイミングでもありますね……。
今回の新型コロナウイルスのせいで、中国経済がものすごく落ち込むという可能性はそこまで高くないと想定されています。
ただ、先ほどの話のように中国からの訪日観光客が減ると、小売業界はもちろん、中国の方に人気の地方の観光地などへの打撃は大きいと想定されます。
また、中国国内での収束が長引けば、中国に進出している企業のサプライチェーン(原材料の調達から製造、商品が消費されるまでの一連の流れ)が混乱したりするリスクはあり得ると考えています。
—— 1月29日には、武漢への渡航歴がない日本人が国内で新型コロナウイルスに感染したと初めて確認されました。世界保健機関(WHO)も、このウイルスが世界に及ぼすリスクが「高い」としています。今度、どんな影響があるでしょうか。
例えば、海外旅行の旅行計画をしようとする場合、数カ月前から計画を立てたりしますよね。
夏には東京オリンピック・パラリンピックも控えており、日本での状況がさらに深刻になれば、中国からだけではなく他の国からの訪日観光客へも影響が出る可能性はあり得ます。
想定されているメインシナリオでは、そこまで長引くことはないのかなと考えられていますが、新型ウイルスがどこまで日本に波及するかは予断を許さないので、注意深く見る必要があると思います。
(文:吉川慧)