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【WHO緊急事態宣言】新型コロナめぐる中国経済「最悪のシナリオ」。“ドミノ倒し”景気後退の可能性

新型コロナウイルスによる肺炎の拡大は、中国と世界の経済にどんな影響を与えるのだろうか。

新型コロナウイルスによる肺炎の拡大は、中国と世界の経済にどんな影響を与えるのだろうか。

Aly Song/REUTERS

新型コロナウイルスによる肺炎について、世界保健機関(WHO)は1月30日夜に「国際的に懸念される公衆衛生の緊急事態」を宣言しました。中国以外にも感染が広がっている事態を受けたものです。日本でも中国・武漢への渡航歴がない日本人の感染が確認され、武漢滞在中の206人がチャーター機で帰国。日本政府や企業も対応に追われています。

新型肺炎は中国経済に、ひいては世界経済にどんな影響を与えるのか。具体的な懸念や想定される「最悪のシナリオ」について、みずほ総合研究所の三浦祐介主任研究員に詳しい話を聞きました。

中国の観光産業に「大打撃」、個人消費も

感染拡大を受けて、上海ディズニーランドも閉鎖された。

感染拡大を受けて、上海ディズニーランドも閉鎖された。

Aly Song/REUTERS

—— 中国・武漢が発生源とされる新型ウイルスによる新型肺炎で、中国はもちろん、日本やその他の国の経済への影響が懸念されています。こういうリスクは、日常から想定できるものでしょうか……?

いえ、正直なところ驚いています。実は今回のウイルスとは別の話で、11〜12月頃に中国北部で腺ペストの患者が報告されていました。

「疫病リスクも頭の片隅には入れておいたほうが良いかもしれないな」と思ってはいましたが、それとは別にこれほど大きな問題が起こるのだなと……。

—— 今回の新型肺炎の流行は、中国経済にどのような影響を与えるでしょうか。

今のところ通年的な影響が続くことはメインシナリオとしては想定されていませんが、少なくとも3月ごろまでは景気の下振れ圧力が高まると思います。

いくつか想定されますが、最も直接的なものは中国国内の観光産業ですね。

中国では海外からの観光客もさることながら、中国の人々が国内を旅行するケースが多く、生活水準の向上からその規模は年々拡大しています。

そのため、新型ウイルスの影響が続けば、中国の国内観光産業がまず打撃を受ける可能性が高いと思われます。

また、中国経済を支える個人消費にも影響が現れやすい。これだけ新型ウイルスが広まりつつあることで、中国政府も武漢を事実上封鎖したり、主要な観光地や映画館は営業中止になっています。公共交通機関では防疫対策が強化されるなど、厳戒態勢が敷かれて、交通規制も始まっています。

ショッピングモールなども閑散としており、小売業や飲食業への影響もあるのではないかと見ています。

影響は「少なくとも3月までは続く」

患者数はなおも増加しており、専門家の中には「SARS」よりも感染規模が大きくなるのではないかと指摘する人も。

患者数はなおも増加しており、専門家の中には「SARS」よりも感染規模が大きくなるのではないかと指摘する人も。

China Daily CDIC/REUTERS

—— 世界保健機関(WHO)も、このウイルスが世界に及ぼすリスクが「高い」としています。今後、中国経済ではどんなシナリオが想定されますか。

中国政府によると、感染拡大を防ぐために強力な対策が取られている状況ではあります。

当初1月末までだった春節の休暇が2月2日まで延長されたり、春節明けの営業再開を延期する企業も出てきました。2002〜2003年に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)と比べても対策の規模は大きいでしょう。

ただ、休業期間が長引けば、工場の生産や建築作業などはストップし、企業ではオフィスに出勤できない日々も長くなります。

つまり、営業日が短くなるわけで、経済活動への影響は起こりうる。3月頃までは、こうした影響が企業の業績などにも現れそうです。

SARSよりも感染規模が大きくなるのではないかと指摘する専門家もいるので、予断は許しません。

現時点では、6〜7月頃になれば感染者数も落ち着き、収束に向かっていくことになるのではないかと想定されています。ただし、「収まる」のがどのタイミングなのか、現時点ではなんとも言えないですね。

「チャイナ・リスク」への懸念は

チャイナリスク 中国

「チャイナリスク」との言葉通り、中国特有の政治的・経済的な問題への懸念もあるが……。

Aly Song/REUTERS

—— よくメディアでは「中国経済は“世界経済の牽引役”」などと表現されます。もしも新型コロナウイルスの影響が長引き、中国経済が失速すれば、世界的な不況を引き起こす可能性はあるのでしょうか。

仮に世界中で「パンデミック」と言われるような事態になれば大きな問題になるとは思いますが、世界の経済全体が「恐慌」に陥るような深刻な事態に発展する可能性は、現時点では低いと思います。

ただ新型ウイルスとは別に、「チャイナリスク」という言葉があるように中国特有の政治的・経済的な状況から、金融面が脆弱な状況にあることは問題としてあります。

—— 具体的にはどのような問題が。

中国経済をめぐって、一時期は「シャドーバンキング」問題が騒がれたりしていました。銀行がリスクの高い金融商品を販売したり、国有企業や地方政府が無茶な投資をして債務を拡大したり、そういった懸念もあったんですね。

ただ近年、中国政府はこういう状況に手を打ってきました。シャドーバンキングを規制したり、地方政府など資金を調達する側への規制を強化したりしています。

銀行の不良債権の認定基準を強化したり、地方銀行の再編にも乗り出しました。こうしたことから中国政府の金融安定発展委員会は「金融リスクは収束に向かっている」との見解を表明しています。

つまり、構造改革がゆっくりとではあるが実施されている状況ではある。中国政府が想定しているペースでやれば、経済的に大きな問題になるとは考えにくいです。

最悪のシナリオは「ドミノ倒し」の景気後退

外出が制限された武漢の街。中国経済にとって最悪のシナリオは「ドミノ倒し」のような景気後退だという。

外出が制限された武漢の街。中国経済にとって最悪のシナリオは「ドミノ倒し」のような景気後退だという。

Stringer/REUTERS

—— 一方で、「最悪のシナリオ」としてはどんなことが想定されますか。

2019年のようにアメリカとの貿易摩擦が激しくなったり、新型ウイルスの問題がさらに深刻化すると悪影響が心配です。

2019年は、アメリカとの貿易摩擦が起こってしまい、互いに輸出入で関税をかけ合う貿易戦争に発展。中国では対米輸出の落ちこみが顕著でした。ですが、なんとか米中貿易摩擦は小休止し、2020年は一安心というとことでした。

そこに新型肺炎の問題が出てきたので、中国経済にとっては泣きっ面に蜂。タイミングが悪いというしかないですよね……。

貿易摩擦にせよ、新型ウイルスにせよ、中国政府にとって想定外の外的ショックで景気や金融が悪くなり、ドミノ倒しのようにさらに景気を後退させるというリスクが、中国経済にとっては最悪のシナリオになります。

具体的には、中国国内の企業業績が悪くなり、それが銀行に波及して貸し渋りが起こり、企業の資金繰りが苦しくなることで中国の実体経済がいっそう悪くなる……という、悪循環のスパイラルです。

こうした事態が発生する可能性も完全には否定はできません。

中国経済は確かに成長は続けていますが、2019年のGDP伸び率は+6.1%。ここまで前年を2年連続で下回り、29年ぶりの低い数字となっています。

予想外の事態にどう対応していくのか、習近平体制が試されている。

予想外の事態にどう対応していくのか、習近平体制が試されている。

REUTERS/POOL New

成長はしているが、その足腰は決して強いわけではなく、ちょっとしたショックで悪化しやすい。例えるならば、思わず転んだ拍子に複雑骨折するような可能性があるわけです。

こうした点は、中国経済の下振れリスクとして当面は留意しておく必要はあると思います。今回のような予想外の事態にどう対応していくのか、習近平体制にとっても課題になるでしょう。

(取材・文:吉川慧)

※編集部より:WHOの緊急事態宣言を受けて一部、加筆しました。2020年1月31日0930

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