広告・PR業界に止まらず、今や若者たちの頼れる“アニキ”として存在感を増す三浦崇宏。初めての著書『言語化力(言葉にできれば人生は変わる)』も話題沸騰中の三浦の元には仕事や恋愛、人生に迷い、自分を見失っている若者たちがその言葉を求めて集まる。
第3回の相談者は3日にして5万人のフォロワーを増やした“令和初のバズり女子大生”、くつざわさん。ネット界で急激に人気となってしまったくつざわさんの悩みに、GO三浦が伝える渾身のアドバイスとは? 全クリエイター必読のくつざわ編スタート!
動画ほどは文章が読まれない……
くつざわ
キャリアに関して、もうバチバチに悩みしかない。悩みしかないんです……。
三浦
今いくつだっけ?
くつざわ
20歳です。
三浦
20歳って悩まなくない? 悩むんだっけ? おれ、20歳の時はバカだったから悩まなくて済んだもん。で、くつざわさんの悩みを聞く前に、1個言っていい? なんかTwitterとか見てると悩んでそうだなと思ってたから。
くつざわ
え、分かるんですか……。どうぞ。
三浦
おれが親しくさせてもらってる総合格闘家の青木真也さんと、最も尊敬するラッパーのライムスター宇多丸さんが、まったく同じこと言ってたんだけどさ。「実力がつけばつくほど自信がなくなっていく」
くつざわ
へえ~!
三浦
青木さんは今36歳。20歳でデビューしてから比べると、体力はちょっと衰えたけど、技術は圧倒的に伸びている。だから、「若い頃の自分に比べて強くなってるんじゃないすか?」って聞いたら、「強くなってると思うけど、試合したら勝つのは若い頃の俺だと思うね」って。
くつざわ
どういうことですか?
三浦
「若い頃の俺は、自分が負けるなんて想像もしてなかったから、普通じゃ考えられないアグレッシブなトライができて、そういう攻撃が相手に当たってた。だから当時は、100回やって1回しか勝てない相手だとしても、その1回を最初に持ってくることができたんだ」って。
くつざわ
今の青木さんは?
三浦
「今の俺は技術も向上してるし、いろんな経験を積んでいるけど、昔のような奇跡は起こせない。だから今の自分と若い頃の自分が戦ったら、強いのは今の自分だけど、勝つのは若い頃の自分かもしれないね」って。まぁ、今の青木真也の魅力はこれを言えちゃうところにもあると思っていて、これ、すごく含蓄あると思うんだよ。つまり、くつざわさんに少しずつ実力がついてきたからこそ、悩んでるのかなって。
三浦さんの半分はヒップホップと格闘技でできています。
くつざわ
それこそ、自信も何もなくなってきていて……。元から自信があるわけじゃなかったですけど、最近、方向性を変えたいなって。
三浦
はいはい、うん、そうだと思う。
くつざわ
私って、動画で伸びた人間じゃないですか。だから、フォロワーは動画を求めるわけで。
三浦
だね。
くつざわ
実際、今は動画の時代って言われてるし、その通りだとも思うんですけど、人って文章を読むことで感銘を受けたり、そこから自分の思考力を拡げたり、語彙を増やしたりできるじゃないですか。やっぱこう……文章って、自分を守ることもできるし、大切な人を守ることもできるもの。動画にはない、良い部分がいっぱいありますよね……。
文章と動画のあいだで揺れるくつざわさん。
三浦
シンプルに言うと、「くつざわさんは動画でブレイクしちゃったけど、本当はもっとテキストで深いことをちゃんと伝えたい」、と。
くつざわ
そういうことです。最近は文章の勉強もしていて、ライティングの方の仕事を増やしたいと思ってるんです。だけど、いくら文章を書いても、動画ほどに文章は求められない。読んでくれないんですよね。やっぱ、“動画のくつざわ”だと思われちゃってる。あんまりうまくいかないなって。
ひとつのことを突き詰めれば、他のことも求められる
三浦
あのね、昔の「プロ」と呼ばれる人って、ひとつのことを突き詰めて一流になるじゃない。大工の道を何十年も続けて宮大工の棟梁になって、明治神宮を造るようになりました、とか。
くつざわ
うんうん。
三浦さん
だけど今は、何かひとつのことを突き詰めると、結果として他のこともやってくれって頼まれるようになるよね。
くつざわ
たしかに!
三浦
落合陽一はメディアアーティストで学者だけど、そのメディアアートの部分をめっちゃがんばった結果、SDGs(持続可能な開発目標)の解説本(『2030年の世界地図帳 あたらしい経済とSDGs、未来への展望』)を頼まれたりする。今は、あるひとつの道を突き詰めると、黙っていても「あなたのその感性、その世界観を使って、別の何かをやってくれませんか」って頼まれる時代なんだよ。たとえば、道を極めた宮大工が造ったおしゃれなカフェとかって、ちょっと興味あるじゃん。
くつざわ
そうですね。
三浦
おれが広告10年やってきて、一応広告つくるのはメチャクチャうまいって、みんな分かっているからこそ、広告屋の仕事じゃないけどアート展のプロデュースをやってほしいとか、本を書いてほしいって頼まれる。青木さんなんて、格闘家なのに恋愛コラム書いてるんだよ。それが本当に気持ち悪くて……という話はおいといて(笑)。
くつざわ
あはは(笑)。
三浦
くつざわさんは動画を極めれば極めるほど、「あのくつざわが、文章を書いたらどうなるの?」ってなるはず。さくらももこも、『ちびまる子ちゃん』ですごいヒットを打ったからこそ、彼女が書いたエッセイもぜひ読んでみたい!ってなったでしょ。くつざわさんも、周囲の期待が高まった後、文章へシフトチェンジするのがいいんじゃない? おれがよく言ってる「高さを身につけてから、広さを身につけていく」ってやつ。
くつざわ
でも、うーん……。
「何者か」になりたい
三浦
若いうちに成功したい、って、もっと早く「幅」を手に入れたいの?
くつざわ
私、何者かになりたくて仕方ないんですよ。
「何者かになりたい」。くつざわさんの強い想いが言語化された瞬間。
三浦
はいはい。
くつざわ
私、モノマネ動画のイメージ一辺倒になりたくないから、ある時期に一回動画を全部消したんですよ。半年前までの「モノマネする、チープな感じの動画の人」って言われていたものを手放したんです。で、3カ月くらいあえてTwitterもやらないで別のお仕事をしてたんですけど、結果、何者でもなくなってしまったような。意図的にやったことではあるんですが……。
三浦
動画と文章、本当はどっちが好きなの?
くつざわ
文章ですね。動画を褒められるより、文章を褒められる方が嬉しいんです。
三浦
じゃあ、そもそも最初なんで動画を作ったの?
くつざわ
メディアを立ち上げたかったんです。そのためにフォロワーを集めようと思って、その時好きだったのがTwitterだったので、Twitterで動画発信すればフォロワーが集まるかなって。でも最初の出方でミスっちゃった部分がありました。
三浦
「メディアを立ち上げる」が目的で、「動画でファンを集める」が手段だったのに、手段ばかりが注目されてしまったと。
くつざわ
はい。だからその動画を捨てて何者でもなくなった状態で文章を書いてみても、やはりあんまり反響がない。「あれ? じゃあ結局、私はいま何をやればいい人なんだろう」ってなっちゃってるんです。
三浦さん
まず、「何者かになりたい」ってはっきり言えるのって、超いいよね。みんな思ってるのに言わないじゃん。格好悪いし照れくさいから。「おまえら飢えてるんだったら飢えてるって言えよ!」って感じだよね。
くつざわ
(笑)
三浦
で、くつざわさんがなりたい「何者」って、文章で表現する人のことだよね。じゃあつまんない質問するけど、誰みたいになりたいとかってあるの?
くつざわ
ヨッピーさん(※注1)の文章は好きです。読みやすいのはもちろんですが、ヨッピーさんの人柄が出ていて、しっかりファンがつく文章だと思いますね。文章で人を集めるってそういうことなのかなと。
(※注1)ヨッピー:ネットの世界では、知らない人がいないほどの有名なライター。面白記事を中心にバズる記事を多く執筆し、WEBマガジン「オモコロ」、おでかけ体験型メディア 「SPOT」などで活躍。
三浦
くつざわさんは収入よりも自分の文章で人に影響を与えることに「何者か」の基準を置いてるってことでいい?
くつざわ
はい。文章に自分の感情を乗っけることが好きなんです。ちょっとかっこいいフレーズを思いついたらメチャメチャ嬉しいし、それを抜粋してシェアされるならもっと嬉しいし。
三浦
だとするなら、くつざわさんがやろうとしてた「メディアを立ち上げる」もまた目的じゃくて、それすら手段だったんだよ。本当の目的は「文章で影響力を持てる人間になりたかった」んじゃないの?
くつざわ
あー、あーーー!
三浦
ヨッピーさんだって、別にメディア立ち上げてないし。
くつざわ
たしかに……。
※本連載の後編は、2月14日(金)の更新を予定しています。
(構成・稲田豊史、 連載ロゴデザイン・星野美緒、 撮影・志賀俊明、編集・松田祐子)
三浦崇宏:The Breakthrough Company GO 代表取締役。博報堂を経て2017年に独立。 「表現を作るのではなく、現象を創るのが仕事」が信条。日本PR大賞をはじめ、CampaignASIA Young Achiever of the Year、グッドデザイン賞、カンヌライオンズクリエイティビティフェスティバ ル ゴールドなど国内外数々の賞を受賞。広告やPRの領域を超えて、クリエイティブの力で企業や社会のあらゆる変革と挑戦を支援する。初の著書『言語化力(言葉にできれば人生は変わる)』が発売中。発売前から予約でAmazonのビジネス書で1位に。
くつざわ: 1999年生まれ、千葉県出身。女子大生のあるある動画がTwitterでバズったことにより、3日でフォロワーが5万人増え話題に。現在はライターとして活動。最近何をしてもフォロワーが減るのが悩み。