100億円調達の成長ベンチャーも採用方針を変えた。ハイスキル人材でも断る理由

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少子高齢化と好景気で空前の人手不足で、人材は争奪戦。事業を急成長させるスタートアップやベンチャー企業にいたっては、毎月のように採用する。

しかし、成長企業の採用で聞こえてくるのが、肩書きや実績、スキルを優先して採用すると「失敗する」という声だ。「カルチャーが合わなければ(高度人材で知られる)マッキンゼーだろうが飛びつかない」と話すベンチャー企業は複数ある。

では何を重視するのか。今、勢いあるベンチャーの採用で見えてきた共通事項は「カルチャー重視」だ。

成長企業3社の取材から浮かび上がってきた、7つのポイントを見てみよう。

1. 肩書きや実績で採用すると落とし穴がある

Retty

Rettyの設立初期からのメンバーで、社長室室長の奥田健太さん。大手総合商社から転職した。

撮影:滝川麻衣子

「肩書きや実績がピカイチだけれど組織カルチャーに合うかどうかは実感ない……そういう採用をした結果、失敗した例は過去に何度かありました」

実名の口コミグルメサービスのRettyの初期メンバーで、社長室室長の奥田健太さんはそう明かす。2010年創業のRettyは、2020年現在、月間利用者4000万人を突破する成長ベンチャーだ。

ただし、その採用では紆余曲折あった。

「事業拡大で人を増やしている段階で、優秀な経歴の人がきたら、ついその時点で採用したくなる。でも今はそういった採用はしません」

プログラミングや語学など「ハードスキルは再現できても、マネジメントのようなソフトスキルはカルチャーの合わない会社では再現しづらい。ハードスキルは後からでも身につく」からだ。

2. 激動の時代に変わらないものはカルチャーぐらい

職場

成長中のベンチャーでは、カルチャーフィットを重視して採用しているところが目立つ(写真はイメージです)。

Shutterstock

では、何を重視して採用するか。奥田さんは「圧倒的にカルチャー重視。Rettyのカルチャーに合うかどうかです」と断言する。

Rettyがカルチャーの象徴として掲げている3つの行動規範

  • 徹底的にやる
  • 革新的にやろう
  • 全てはユーザーのために

スキルよりも、過去の実績よりも、カルチャーフィットを重視する理由として「変化の早い時代」を指摘する。

「現代は求められるスキルの変化が早い。事業フェーズがどんどん変わるベンチャー企業で、ピン留めできる『変らないもの』と言えばカルチャーぐらいなのです

3. 有名大企業とベンチャーは「スポーツが違う」

bdash

提供:フロムスクラッチ

「我々が創業した当初(2010年)は、ベンチャーだと『バイトしかしたことないです……』というような人しか受けに来ないことがザラにありました」

そう話すのは、データマーケティングプラットフォーム「b→dash」で知られるフロムスクラッチの採用担当者。同社は2019年夏には100億円の資金調達を行い、累計調達額が145億円の注目ベンチャーだ。

「資金調達をして、事業が伸びてくると、外資系投資銀行、総合商社、戦略コンサルなどから人がどんどん面接に来てくれます。しかし、即戦力が来た!と喜んですぐに採用するのは、認識の誤作動が起きているのです

こうした「超一流」企業で活躍してきた人たちについて、採用側は「スタートアップでも同様に活躍できると錯覚しがち」とフロムスクラッチの担当者は指摘する。

しかし、大手企業や成熟した企業で求められるスキルや能力と、スタートアップで求められるそれとは全く異なります 。例えば、イチローが野球以外をやっても同様の成果が出ないのと同じです。そもそもスポーツが違うので、使用するルールや筋力も全く違うことを理解しなければなりません 」(採用担当者)

そこの見極めを誤ると、一流人材と思ったのに成果を出せず、本人自身にも不満がたまり、チームに対して「この会社のやり方ではダメだ」というネガテイブなメッセージを発信してしまうことになりかねないという。

4. カルチャーが合えばビジネス未経験でも採用

フロムスクラッチ

フロムスクラッチの人事担当者の細川季輝さん(左)と社長室の福井和典さん。

撮影:滝川麻衣子

では、どういう視点で採用するか。フロムスクラッチ採用担当者の考えはこうだ。

気持ちのいい人材で、ミッションや文化など組織との共感性が高い人です。前職はあまり関係なく、 極端な話、前職が居酒屋のような接客業でも、ビジネス経験がなくても、もちろん大企業出身者でも、そこが合えば採用します」

スキルや実績があって、かつカルチャーや思想への共感性が高ければ最高だが、「そうした人材は転職市場になかなかいない」(採用担当者)。

「スキルあるけどカルチャーへの共感がない人と、スキルはそれほどでもカルチャーへの共感が高い人がいれば、圧倒的に後者を採用したいのです

そうやって、共感性高い人材で作った組織カルチャーは武器になる。

「プロダクトやアイデアはすぐに真似されます。けれど、(採用時に重視する)文化は真似しようと思ってできるものではない。文化やマインド、雰囲気といった、真似できないものにこそ投資します

5. 新卒採用では学生に40回会う、1人あたり数百万円投資

フロムスクラッチは新卒採用の割合が高いのも特徴で、全社員の5割を超える。組織カルチャーやフィロソフィーに共感性の高い人材を選び抜くのに、入社までの研修も合わせて40回程度、学生と接触する機会を設けるという。

1人当たりの採用にかける金額は、入社前のプログラミングなどの研修も含めて数百万円を投資する。

「採用はワイシャツの第一ボタン。そこがかけちがうと全てずれてしまいます。 採用を経営の『最重要項目』として一切、妥協しません。新卒採用も例外ではありません 」(採用担当者)

6.「迷ったら採らない」は鉄則

マネーフォワード

マネーフォワードの人材採用部長、菱沼史宙さん。同社もかつて、採用方針を大きく変えたという。

撮影:滝川麻衣子

「スキルは非常に高いが、ちょっと会社のカルチャーと合わない……といった引っかかりのある場合は、採用しないというのが鉄則です。選考の中で感じた違和感というのは、必ず入社後に顕在化します

家計簿アプリや法人向けクラウドソフトを手がけるマネーフォワードの人材採用部長、菱沼史宙さんもやはり「カルチャー」重視だ。同社は、金融庁や大手商社で働いていた人や公認会計士など、 カルチャーに共感して、年収を下げて入社する社員も多くいる。

マネーフォワードは2017年9月にマザーズ上場。上場前の急成長期には、とにかく早く成果をあげる社員を次々に採用したこともあったという。

しかしその結果、人間関係がこじれるなど組織自体が揺らいだ。

「辞めていった人たちが 少なからずいます。それ以来、いくら能力が高くてもカルチャーに合わない人は採用しないと切り替えました」(菱沼さん)

7. 入社前に社内も情報も開示、合わなければ断ってもらっていい

イメージ

個人として能力が高いことと、組織で活躍できるかは別という声が複数上がった(写真はイメージです)。

GettyImage

具体的に重視するのは

「自己成長や年収、条件よりも利他性を持つ人。 お金にまつわる課題解決を目指す会社というマネーフォワードのミッションやバリューに共感する人、です」(菱沼さん)

優秀でもうまくいかないケースは目に見えている。

「自分の数字を追うことに夢中、承認欲求の強い人はどんなに優秀でも入社後にうまくいかないと分かるので採用しません」

学歴や元の肩書きは見ない。外国籍、障害をもつ人、シニアも若手も人材は多様だが、この「ミッションやバリュー」への共感という点だけは一致しているという。

その見極めの一つとして「選考中の方にも社内の行事や飲み会に参加してもらって社員を見てもらいます。その時点で何か違うな、と感じたら(採用のオファーを)断ってもらった方がお互いの為ですから

手痛い経験から学ぶこと

いずれの企業も、急速な成長を求めてハイスキル人材を投入した結果、かえって人材が流出するなど組織の危機を経験。その結果カルチャー重視採用にシフトした、という経験で共通する。

終身雇用前提が崩壊し、テクノロジーはじめ環境変化の激しい時代。成長ベンチャーのチームや組織づくりで見えてくる「人材の法則」は、他業種他業界にも学ぶことはありそうだ。

(文・滝川麻衣子)

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