2019年12月6日にホーチミン市中心部でオープンしたユニクロのベトナム第1号店。道路向かいにはH&Mが入居するビルがある。
撮影:大塚淳史
ベトナム市場に日系企業が熱い視線を送っている。
その一端を垣間見たのが、ユニクロのベトナム進出だ。2019年12月6日、ユニクロを展開するファーストリテイリングが南部の大都市ホーチミンに第1号店をオープンすると、大行列ができて話題となった。店側は3日間入場制限をかけた。
1月、ホーチミンを訪ね、ユニクロ第1号店を見てきた。
店舗はホーチミン市内の一等地、商業施設が集まるレタントン通り沿いに面する。3階建てで、売り場面積は約3100平方メートル。ユニクロにとっては東南アジア最大規模だ。通り向かいの商業施設には、H&MやZARAが入っている。
すでにオープンして約1カ月がたっていたが、店内には消費意欲にあふれる市民たちが老若男女問わず集まり、にぎわっていた。
オープン1カ月たっても盛況
オープン約1カ月後の訪問だったが、店内は客であふれていた。
撮影:大塚淳史
ホーチミンの広告代理店で働く30代前半のベトナム人女性・トランさんは、同僚と一緒に訪れていた。初めて店に来たそうで、仕事にも使えるアウターコートを買っていた。
「普段はH&Mでファッション性のある服を買っていますが、ユニクロのデザインも悪くないですね。また仕事帰りに寄ってみたいと思います」
アウターコートの価格は99万9000ベトナムドン(約4800円)だった。
どのフロアも客であふれ、従業員たちが対応に追われていた。品ぞろえで興味深かったのが、トランさんの買ったようなアウターや長袖物、そしてヒートテック。寒い時期に着る商品が多く置いてあったことだ。
ホーチミンは1月でも平均気温が20度を超える。店内にいた他の客に聞くと、「バイクに乗る時は紫外線を防ぐため、長袖の服を着ることが多い」と教えてくれた。路上に目を向けると、確かにバイクを運転している人たちは長袖が多く、女性はさらにその割合が高かった。
寒い時期がないホーチミンだが、ヒートテックも売られていた。
撮影:大塚淳史
地元の人の説明によると、バイクに乗る人たちは紫外線を防ぐため、長袖が多いという。
撮影:大塚淳史
消費市場としてのベトナム
出典:日本貿易振興機構(JETRO)
ユニクロ店内の活況ぶりを見ると、いよいよ市場としてのベトナムが見逃せなくなってきていることを実感できる。
ベトナムに20年以上住み、東南アジアの繊維・ファッション業界に詳しい秋利美記雄さんは、市場としてのベトナムをこう説明する。
「ベトナムは生産地としての市場のほうがまだまだ大きく、消費市場としてはこれから。ただ、10年ほど前からすでに、日系企業から相談を受ける内容は、消費市場としてのほうが多くなっていました。チャイナプラスワン(=リスク分散のために置く中国以外の拠点)というキーワードが注目され始めたころです」
日本企業は以前から、将来の人口増が見込まれ、若年層が多く、個人所得も増えてきたベトナム市場の潜在成長性はよく理解していた。しかし、単発としての動きはあっても、なかなか大きな流れ、勢いにまではなっていなかった。
「本格的に動き始めたのはこの数年かもしれません」(秋利さん)
ドイツの調査会社スタティスタ(Statista)は、ベトナムのファッション分野の売上高は2019年が7億1700万ドル、2020年は8億1500万ドルに増え、2024年には10億6500万ドルまで市場が拡大すると予想している(いずれも米ドル)。
ベトナム第1号店のエアリズム売り場。
撮影:大塚淳史
ユニクロを運営するファーストリテイリングはすでに、首都ハノイに第2号店をオープンさせることを発表している。ユニクロはホーチミンの位置する南部より、ハノイのある北部のほうが支持される可能性が高い、前出の秋利さんはそう指摘する。
「まず、ハノイは日本と同じく四季があり、冬がある。ユニクロの強みであるヒートテックなどのインナーや、アウターが売れると思います。また、昨今は日本で技能実習生として働くベトナム人が多くいますが、その多くはベトナム北部から中部の出身者が多い。日本でユニクロの機能性素材の良さを知り、ハノイなどに持ち込む人も多く、実はすでに知名度が高いのです」
記者の知り合いでベトナム中部の都市ダナンに住む20代後半の女性に、ユニクロについて聞いてみたところ、「知っています。日本に旅行した友人経由で手に入れて、すでに使っています」という答えが返ってきた。
続々と店舗増、進出する日本の小売り
2016年にホーチミン進出を果たした高島屋。
撮影:大塚淳史
ユニクロの第1号店が、日本企業のベトナム市場進出を加速させる“狼煙(のろし)”になるかどうかまだ何とも言えないが、少なくともこの数カ月のうちに興味深い動きが出ている。
すでに進出を果たしているイオンは、2019年12月5日に5店舗目をハノイにオープンさせた。床面積約15万平方メートルの巨大モールはベトナム最大規模を誇り、話題を呼んでいる。また、マツモトキヨシも2020年3月に第1号店を出店する。
日本の小売り・外食企業のベトナム進出動向。
出典:JETRO
東南アジアの市場を狙う日系企業はすでに、シンガポール、マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピンに進出している。そんななかで、ベトナムがいま注目されている理由として、秋利さんは政治の安定性を上げる。
「ベトナム市場の魅力は安定的に経済成長していること。東南アジアで一番安定しているのではないでしょうか。例えば、タイとインドネシアに比べると政治が安定しています。経済成長によりコストも上昇していくが、その幅はある程度予想がつきます」
秋利さんはさらに、中国・武漢から始まった新型肺炎の影響も出てくると指摘する。
「今回の新型肺炎の感染拡大も、日本企業のベトナム進出に拍車をかけるのではないか。東南アジアの国々の中では人口も多い(9620万人、2019年4月時点)ほうだし、日本のバブルのころのような雰囲気もあってモノを売りやすい面もあります」
ファーストリテイリングは新型肺炎の影響を受け、中国で150店舗以上を一時閉店している。もちろん、そうした状況はユニクロに限ったことではなく、中国で小売りを展開する日系企業いずれにも影響が出ている。
リスク分散という視点から考えても、今後ベトナム市場に視線が向けられていくのは必然なのかもしれない。
(取材・文:大塚淳史)