NRF2020で展示されたピッキングロボットの例
出典:NRF2020
1月に開催された小売りテクノロジーの展示会「NRF2020」。そこでは、これまでパナソニックなどが一部ベンダーとの協業で参考出展していたコンピューター・ビジョンを活用した欠品検知の仕組みが、多くのベンダーによって「実際のサービス展示」ができる段階になっていた。
※前編は以下で公開しています。
目立ったのは、電子ペーパーを使った商品価格タグの更新システムなど、「スマートシェルフ(IT化された陳列棚)」の仕組みを展示した企業群だ。
従来は価格や広告のリアルタイム更新による「顧客獲得」が主軸だったのに対し、NRF2020を見ると、欠品検知などの「ビジネス機会損失につながる時間」を極力短くすることで、業務効率と売り上げの最大化を目指す方向へとシフトしている。
集めたデータは解析し、今後の棚の陳列や商品発注を効率化できる。従来は電子価格タグを単純に書き換えたり、棚ラベルをディスプレイ化して動画を流すといった「ハードウェア中心」だった企業が、サービスを主体とした「プラットフォーマー」へと転換しつつある。
プライサー社のAIの目(コンピューター・ビジョン)を使った欠品検知システムの例
電子ペーパーを使ったスマートシェルフのソリューションを提供するプライサー社(Pricer)では、コンピュータービジョンを使った欠品検知システムの提供を始めた。
撮影:鈴木淳也
プライサー社の場合、棚の中心部付近に外側に向いたカメラを取り付け、向かい合った棚同士が互いの欠品を監視(検知)をする
撮影:鈴木淳也
棚の状況はリアルタイム監視。適時、欠品などがアラートとして通知される
撮影:鈴木淳也
SES-imagotagとBOE Technologyのブースでも、では360度監視カメラ映像による欠品検知を展示
同じく電子ペーパーを使ったスマートシェルフを提供するSES-imagotagとBOE Technologyのブースでも、プライサー社と同様に欠品検知システムを展示。こちらは360度をカバーする監視カメラ映像を使うもの。
撮影:鈴木淳也
SES-BOEのの欠品検知アラートの画面。商品写真は上部に吊り下げた360度カメラの映像を使って取得している
撮影:鈴木淳也
フランスのスタートアップ企業believe.AIの検知ソリューション。カメラ自体は十数ドル程度の安物で良い
撮影:鈴木淳也
安価なカメラでモニタリング、映像解析し、欠品検知だけでなく稼働状況や顧客の行動履歴まで含めリアルタイムでレポートして提供
撮影:鈴木淳也
進化が進む「棚卸しロボット」
欠品検知に活用されるカメラの多くは、それほど高価なものではないケースが多い。
この仕組みはもともと「自動棚卸し」の用途の中で提案されてきたもの。自動棚卸しには自動巡回型のロボットがよく利用されている。
すでにアメリカの大手スーパー、ウォルマートの一部店舗に導入が進んでいるようだが、過去2年は、店内を飛び回るドローンや来店者の案内役も務めるアドバイザーロボットも兼任するものなど、さまざまなバリエーションの自動巡回型のロボットが多数出展されていた。
現在ではZebraのような大手ベンダーも展示を始め、一大ジャンルへと成長している。
欠品検知や棚卸し作業でここ数年増えているのがカメラ内蔵の自走式の周回ロボット。これはZebraブースで展示されていたもの。
撮影:鈴木淳也
ハードウェアだけでなくプロセスの自動化やカスタム設定されたビジネスロジック(例:セール期間中は特定の棚の情報更新頻度を上げるなど)との連動で顧客の細かいニーズに対応できる点をアピールする。
撮影:鈴木淳也
Zebraのロボットが動作中の様子。このように実際には複数の棚を巡回していく。日本の大手スーパーで、こうしたロボットが走り回る光景はいつ「当たり前」になるのだろうか。
撮影:鈴木淳也
NRFでは2年前から展示していたスタートアップBadger社のロボット欠品検知・棚卸しソリューション。
撮影:鈴木淳也
ただ、ロボット導入には高いコストがかかる。そこで、より安価に導入できる点をアピールするスタートアップ企業も登場している。
スタートアップのDeming Roboticsは欠品検知・棚卸しのために大型の自走ロボットではなく、棚にレール状のアタッチメントを付けてカメラを移動させる安価なソリューションを提案。
撮影:鈴木淳也
レール内を移動するカメラは模型電車のよう。担当者は向かいのブース(にあるBadgerのロボット)を指して「あんな高価な製品を導入する必要はない」と説明する。
撮影:鈴木淳也
「顧客判別」「競合価格の自動認識」まで広がるAI応用事例
画像認識レジで葉物野菜や果物でも商品認識が可能なことをデモするZebraブース。IBMのFood Trustと連携して野菜のトレーサビリティも保証する。
撮影:鈴木淳也
NRF 2020の会場を見ていくと、ここまで紹介したコンピューター・ビジョンの活用だけでなく、さらにもう一段階発展させたような展示もある。
例えばZebraブースではパッケージ化された商品(CPG=Consumer Packaged Goodsと呼ばれる)とは異なる、野菜のような不定形の商品でも認識が可能なデモを披露。さらにIBM Food Trustとの連携で、商品の個別追跡が可能なサービスも紹介していた。
また、オンライン購入やさまざまな系列店舗での購入履歴を活用する「オムニチャネル」の強化のなかで、来店時の接客強化にコンピューター・ビジョンを積極的に活用する試みも増えている。システム上で「個人を判別」した上で、過去の購買データと結びつけ、来店時に店員が即座に参照できる点が特徴だ。
スタートアップのPreciate社の展示。顔認識技術を使って、過去の購買履歴とリンクさせる形で、パーソナライズ(個人最適化)された接客サービスを提供したり、ハンズフリーでの買い物体験を提供できる。
撮影:鈴木淳也
そのほか、次のようなAR技術を組み合わせ、欠品検知をより分かりやすい形で提供する仕組みもある。また、過去のデータを基に最適な棚配置をコンピュータ側が提案してくるというソリューションも登場している。
欠品検知などをさらに分かりやすい形でARで視覚化するARpalusのソリューション。デモ用のため写真を使ってARで欠品検知をしている。実際には、タブレットをかざした棚の各商品の状況が一目瞭然で分かるようになっている。
撮影:鈴木淳也
棚の配置について過去のデータ分析から最適化を提案するObserva社のソリューション。
撮影:鈴木淳也
また、ライバル店との価格競争に対応する、小売りならではの展示ブースもあった。アプリでライバル店の棚を撮影すると、コンピューター・ビジョンによる解析から商品と値札を自動認識。それを自身の店舗の商品システムにすぐに反映するという仕組みだ。
こうした仕組みが身近になり、さまざまな応用ソリューションが多数登場するようになったのも、マイクロソフトのようなクラウド大手のプラットフォーマーが、コンピューター・ビジョンのような認識の基礎となる技術、データ解析やサービス提供に必要なクラウドを提供していることとも無縁ではないだろう。
ロシアのスタートアップIntelleonのサービスでは、ライバル店の棚をアプリを使ってスナップショットを撮り続けていると……。
撮影:鈴木淳也
画像解析から自身の小売店の商品とマッチングさせて、競合と戦える価格設定にしてしまう自動化ツール。ただ、店舗内での画像撮影は通常禁止になっていることもあるが、技術の進歩とAIのカジュアル化を感じさせる事例。
撮影:鈴木淳也
(文、写真・鈴木淳也)