2019 年5月にSpreadyのサービスを開始した佐古雅亮社長(右)と共同設立者の柳川裕美氏。
撮影:横山耕太郎
「飲食店オーナーとつながりのある方に会いたい」「新サービスについてフィードバックしてくれませんか」「スタートアップの広報について相談したい」……。
人と企業をつなげるサービス「Spready(スプレディ)」には、こんな募集が並んでいる。
スプレディは、企業の募集に自分で応募するのではなく、登録ユーザー同士が企業に適した友人や知人を紹介するサービスで、2019年5月にサービスを開始して以来、これまでに800件以上の紹介が成立している。
スプレディは、人材確保に課題を抱える企業が、雇用以外の手段で外部の人材の力を借りられるほか、登録ユーザー側も社外で自分のスキルを役立てることができる。企業と個々をつなぐ新しい形として注目されており、副業や転職を考えるきっかけにもなっている。
やりたいことのない転職者
企業の依頼に対し、知人を紹介するシステムになっている。
出典:SpreadyのHPより編集部キャプチャ
同社の佐古雅亮社長は2008年、インテリジェンス(現・パーソルキャリア)に入社。キャリアアドバイザーとして、1万人を超える転職希望者の相談に乗ってきたという。
その時に強く感じたのは、多くの人が「やりたいことを見つけられていない」という問題だった。
「やりたいことに出合うには経験が必要ですが、今までのようにただ会社にいるだけではその機会はすごく少ない。気軽に組織と人がつながれるサービスを作ることで、やりたいことに出合い続けられる社会になるのではないかと考えました」(佐古氏)
転職や副業につながる例も
「2021年4月までに累計個人ユーザー数を1万人にしたい」と話す佐古氏。
撮影:横山耕太郎
副業や転職に興味はあるものの、何から始めたらいいか分からない人は少なくない。スプレディの利用者には、実際に他の会社を手伝ったことで、副業や転職を考えるきっかけになった人もいる。
PR関連会社に勤める20代の男性は、スプレディで紹介され、大手メーカーのブランディングについての社内打ち合わせに参加。メーカー側は社内で方向性を考える段階で、PR経験者の意見を求めていたという。男性は参加後、「まるで社員のように迎えてもらえた。自分のキャリアの強みが分かった」と、副業の可能性に気が付いたという。
「副業の斡旋サービスではないので、その後仕事につながったかどうか、全ては把握していません。ただこれまでに30以上の紹介事案が仕事につながったと聞いています」(佐古氏)
売り手市場、難しい人材確保
撮影:今村拓馬
一方、スプレディを使用する企業は、月額5万円からサービスに登録でき、現在、ベンチャー企業を中心に93社が利用している。紹介されたユーザーと紹介者に対しては、商品に交換できるポイントが加点される仕組みで、謝礼目的ではなく、紹介すること自体を楽しんでいたり、企業への協力にやりがいを感じたりしている人がほとんどだという。
スプレディがサービスを拡大させている背景には、人材不足で企業に人が集まらないことが要因になっている。
厚生労働省が発表した2019年の年間の有効求人倍率は1.60倍。10年ぶりに前年比で低下したものの、求職者が有利な売り手市場が続いている。また、ベンチャー企業だけでなく大企業でも、時代の変化に対応した新規事業を模索しているが、経験のある人材を確保することのハードルは上がっている。
だからこそ、雇用には至らなくても、必要な知見を手に入れられるスプレディのようなサービスが注目を集めている。
スプレディを利用する企業が求める案件は、約8割が新規事業に関する情報収集。新規事業開拓に迫られる企業にとって、外部の知見の入手は死活問題だ。
キックボード詳しい人はいませんか?
SpreadyのHPには「壁打ちさせていただきたい」など企業の依頼が並んでいる。
撮影:横山耕太郎
スプレディで扱った過去の案件では、アジアでの電動キックボード事業を考えていたベンチャー企業が、キックボードに搭載するGPSやモーター、キックボードの施錠システムについて詳しい人材を募集。特殊な経験が必要になる案件だったが、趣味でキックボードを自作している人や、スマートロックを扱う企業の社長らの紹介があったという。
リクルートエージェント(現リクルートキャリア)出身で、ベンチャー企業での採用経験もあるスプレディ共同設立者の柳川裕美氏はこう語る。
「私自身3度転職を経験していますが、友人のスタートアップで採用のアドバイスをしたことをきっかけに、『自分のスキルを役立てることができる』と気が付き、副業で採用サポートにも挑戦しました。自分が勤める会社だけではない世界を知り、一人ひとりが培ってきたスキルを活かせる機会を作っていけたらと思っています」
(文・横山耕太郎)