次期iPhone12への影響は?新型ウイルスで浮上した、IT製造業「3月リスク」とは?

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日本でもマスク姿は当たり前の光景になってきた(写真はイメージです)。

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中国の湖北省を中心に流行し、世界的に警戒を強めている新型コロナウイルス感染症の問題。アメリカが中国からの渡航を禁止するなど波紋が広がっており、経済面への影響も大きくなりつつある。

既に報道されているように、中国政府は春節(中華圏での旧暦に基づく正月)を強制的に2月9日まで延期することを決定した。このことが、原料の供給から生産、在庫管理までのサプライチェーンの中流の多くを中国に置いている、ハードウェア企業に大きな影響を及ぼしつつあるのだ。

そのなかにはアップルをはじめとした、大手ITメーカーも含まれる。

国境を跨いだ複雑な製造工程の連鎖

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iPhone11Proを手の持つ人。アップルの場合、製造・流通関係者が供給にただちに影響はない、というその理由は。

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IT機器のハードウェアは、多くが中国で生産されているというのはよく知られている。だが、実際には中国で生産されているというよりは「中国はその一部の工程である」というのが正しい表現だ。

例えば、アップルのiPhone11を例に考えてみよう。

iPhone11のコアとなるSoC(System on a Chip、1チップでコンピュータを実現する半導体のこと)は、台湾のTSMCという会社が持つ半導体工場で委託生産されている。同じようにメインメモリーやディスプレイは韓国のサムスンやHynix(ハイニックス)などの工場で生産されているし、データを保存するストレージであるフラッシュメモリーはキオクシア(かつての東芝メモリー)やウェスタンデジタルが持つ日本の工場やサムスンの韓国の工場などで生産されている。

世界一の電子機器の受託生産企業となった鴻海精密工業。

世界一の電子機器の受託生産企業となった鴻海精密工業。

REUTERS/Tyrone Siu/File Photo TPX IMAGES OF THE DAY

それらのパーツはアップルが製造を委託しているフォックスコン(Foxconn)やペガトロン(Pegatron)といった台湾メーカーの中国にある工場に集められる。そこで、チップが基板へ実装され、スマートフォンとして組み立てられて箱詰めされる。

箱詰めされた製品はその後、航空便や船便などを利用してアメリカや日本のアップルストアや、通信キャリアなどに納入され、私たちの手に届くわけだ。

このように、製品の原材料や部品の調達から、製造や配送などを一貫して管理していく一連の流れのことを「サプライチェーン(Supply Chain)」と呼ぶ。

今IT業界が直面しているのは、そうしたサプライチェーンのちょうど中流を担っている中国が、新型コロナウイルス流行の拡大で実質的に「ストップ」してしまっているということだ。

中国の報道によれば、中国政府は春節(中華圏での旧暦に基づく正月)を強制的に延期する命令を出し、それによって中国にある工場なども休みが継続になっているという。

本来であれば1月末で春節は終了し、2月3日から平常の操業に戻る計画だった。

しかし、人の移動が起こることで新型コロナウイルスが広がることを懸念して、2月9日までは春節延長となり、工場の操業開始も延期になった。

「短期的には大きな影響なし」も「3月」不安

マスクを着けバンコクを観光する中国人旅行者

マスクを着けバンコクを観光する中国人旅行者。

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この春節の1週間延期という前代未聞の事態は、IT機器のサプライチェーンにどんな影響を及ぼすのだろうか。

アップルに部品を納入しているあるサプライヤー関係者は筆者の取材に対して、

「今の所大きな影響はないと考えている。なぜならば春節前に既に2月の生産に必要な分の部品の納入は終えている」(アップル関連のサプライヤー関係者)

と述べ、短期的には影響がないと考えているという。

同様に中国でPCを生産しているPCメーカーも、

「中国のODMや自社工場で生産している分に関しては1週間の製造計画がずれることになるが、今の所影響はそれだけだと考えている」(PCメーカー関係者)

と説明している。

春節が1週間延期されたため、納期が1週間ズレるなどの影響は出るが、春節が予定通り2月9日に終了するなら、短期的には大きな影響はないというのが彼らの見立てだ。

一方、気がかりなのは「3月」だ。3月の生産分に関しては先が読めない、と関係者は口をそろえる。

理由はこうだ。仮に春節1週間の延期で影響が済み、状況が収束に向かうなら、影響は「生産計画が1週間ズレる」だけで済む。しかし、今後も混乱が続き、中国への部品の配送などが滞るようなことになれば、3月の生産分に影響がでてくる可能性があるからだ。

3月の生産分に影響が出ると、4月の製品供給に影響が出て、例えば4月の需要分がまかなえず品不足になるなどの可能性は捨てきれない。ただ、アップルに関しては、巨大な在庫を確保しているため、直ちに市場に影響が出てくるとは考えられないというのが関係者の見方だ。

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iPhone11と11Proは順調な実売が伝えられる。次期モデルへの期待も高いだけに、スケジュールの行く末は気がかりだ。

撮影:伊藤有

なお、意外なインパクトとしては、次期iPhone(iPhone12と呼ぶのかは知らないが)への影響を指摘する声がある。例年どおりなら2020年9月に発表、販売が計画されているものだ。

春節明けのこの時期は、サンプルの製造を開始する時期だ。サンプル製造は中国の工場で行う計画になっているため、その計画に影響が出ると、次世代iPhoneの計画にも何らかの影響が出てくる可能性はある。

新型コロナが浮き彫りにした「中国集中リスク」

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フォックスコン創業者のテリー・ゴウ氏。2019年6月に政界進出を狙い経営トップを退任、その後不発の選挙を経て経営幹部復帰を決めた。2020年の「長い春節」のなかで、表面化した中国リスクを前にどんな戦略を考えているだろうか。

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先行きの見えない新型コロナウイルスの流行。

今回の一見で浮上したのは、中国に限らず、製造拠点を1カ国に集中させるリスクだ。米中経済摩擦というリスクに加えて、今回の新型コロナウイルスへの警戒は、「中国での製造」というリスクを、多くのメーカーに気がつかせる結果になった。

このため、多くのメーカーが製造拠点の多国籍化を進めている。グローバルなPCメーカーの日本法人はその代表例と言える。

レノボの日本法人レノボ・ジャパンは、従来から買収したNEC PCの製造拠点だった米沢工場で法人向けノートPCとなる「ThinkPad」の一部製品を製造してきたが、2月3日からは法人向けデスクトップPCとなる「ThinkCentre」の一部製品の製造も開始している。

NEC PC製品に加えて、レノボ製品の一部国内生産を行う米沢事業場

NEC PC製品に加えて、レノボ製品の一部国内生産を行う米沢事業場。

撮影:伊藤有

同じようにHPの日本法人・日本HPも東京都日野市に「東京ファクトリー&ロジスティックスパーク」を構えて、法人向けデスクトップPC、ノートPCの一部を製造している。

iPhoneの製造の大半を請け負っているフォックスコンやペガトロンなどの台湾の大手製造工場も、中国外での製造を検討していると、盛んに報道されている。その候補になっているのはインド、ベトナム、そしてインドネシアといった新興国。いずれも経済成長が著しく、内需の拡大も期待できる市場だ。

今回の新型コロナウイルスの流行は、世界的に起きつつある「分散生産」への動きを、さらに後押しする可能性がある。「世界の工場」を標榜する中国にとっては、厳しい局面でもある。

(文・笠原一輝)

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