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任天堂決算から見えた「日米欧でSwitchが好調」の理由。世界4800万台の高収益ゲーム機ビジネスの強み

任天堂スイッチ

Shutterstock

任天堂は1月31日、2020年第3四半期の決算を発表した。売上高は第3四半期までの期間累計で1兆226億円(前年同期比253億円増)、営業利益が2629億円(同429億円増)と好調だ。

任天堂の決算資料

任天堂の決算資料より。売上高・営業利益ともに好調に推移している。

出典:任天堂

ゲーム事業では、「PlayStation 4」を擁するソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)という大きなライバルがいる。SIEの業績も好調だが、ソニーと任天堂はそれぞれの戦略に則り、それぞれの形で業績を伸ばしている。

任天堂の公表資料からは、任天堂の独特の戦略が垣間見える。

Switchは“独自”の市場価値の維持が重要

任天堂 Switch

Nintendo Switchの累計販売台数は4800万台を超えた。

出典:任天堂

任天堂の収益源はもちろん、家庭用ゲーム機事業だ。現在の主力機である「Nintendo Switch」は、発売から3度目の年末商戦を終えた段階で、累計販売台数が4800万台に達した。

これは、数だけを見るとライバルであるPlayStation 4の「1億600万台」に大きく水をあけられている、とも見える。

だが、企業として見た時の利益率は決して悪くない。営業利益率は25.7%と、ハードウェアを販売する企業としては高水準といっていい。理由はもちろん、ソフトウェアが売れているからだ。

2019年のソフト販売本数は1億2313万本。しかも、同社の自社タイトルセルスルー数は5659万本と、販売本数に占める比率が高い。任天堂が圧倒的に強いIP(キャラクターなどの知的財産)を持っており、そこから得られる収益によって高い利益率を確保できている、という姿が見えてくる。

任天堂タイトルの推移

任天堂の自社タイトル販売数は5659万本で、2018年よりもさらに伸びている。自社タイトルが強く、利益率が高いのも任天堂の特徴。

出典:任天堂

ゲーム業界において、任天堂はPCやPS4といった「年齢層が高めのコアゲーム層」とは、別の市場を作っていると言われている。コアゲーム層であっても任天堂のファンは多いし、コアゲーム層とは違う、若年層をカバーできている、ということだ。

その点では、現状「業界でポータブルゲーム機の市場を独占しつつある」ことが大きい。SIEがPlayStation Vitaのビジネスを終息させており、任天堂自身も「ニンテンドー3DS」を終息させようとしている。その後継がSwitchとなった。

任天堂は2019年、Switchの持ち歩き特化バリエーションである「Nintendo Switch Lite」を発売したが、この結果、日本市場で顕著に販売数量が増している。

従来、欧米市場はポータブルゲームに冷淡である、という評価が一般的だった。けれどもLite発売以降、欧米市場でも同様の上向きトレンドが存在することを考えると、「市場に1社だけが残った」価値は、同社にとって大きいものであったと推測できる。

Switchファミリー本体セルスルー 日本

日本でのSwitchファミリー本体のセルスルー推移。

出典:任天堂

Switchファミリー本体セルスルー 北米

北米でのSwitchファミリー本体のセルスルー推移。

出典:任天堂

Switchファミリー本体セルスルー 欧州

欧州でのSwitchファミリー本体のセルスルー推移。日本だけでなく欧米での販売数量も好調で、Liteも含めた「ポータブルゲーム機」としてのニーズの堅調さが見える。

出典:任天堂

しかも、Switchは据え置きとポータブル、両方の開発を1本のラインで実現できる。他のプラットフォームへも開発投資をしなければいけない他のゲーム会社はともかく、任天堂は1つのラインで両方のニーズに対して開発を集中できるため、投資効率が良い。

任天堂自身、決算資料の中で「集中した開発によるソフトウェアの長期展開」を強みとして挙げている。

ソフトウェア開発

任天堂は、据え置きとポータブルという市場をSwitch一つでカバーし、長期展開によって投資効率よくビジネスができることを強調する。

出典:任天堂

逆に言えば、PS4やPC、マイクロソフトのXboxなどのハイエンド系とは性能が大きく異なり、同じ質のゲームを展開するのが難しいのがSwitchというプラットフォームの欠点だ。

特に2020年は、「PlayStation 5」「Xbox Series X」といった、次世代の高性能ハードが登場し、据え置きゲーム機の体験水準がまた一歩上がる。ソフトを供給するゲームメーカーとしては、その水準の「差」が気になる。

いかに「他社と違う」ことを維持し、市場価値として認知させ続けられるかどうかが、任天堂にとって重要な戦略と言える。

任天堂も「有料ネットワークビジネス」が収益の柱に

Nintendo Swtich Online

「Nintendo Switch Online」の有料会員数は1500万人。ハードの販売台数から見れば妥当な数字だが、これだけまとまった人数から長期安定的に収益を得られることは、任天堂の経営に大きな影響を与えるだろう。

出典:任天堂

同社にとって収益を押し上げる要因となっているのが、「ネットワーク事業」だ。ここでいうネットワーク事業とは、Nintendo Switch向けのオンラインサービスである「Nintendo Switch Online」(月額306円税込など)を軸にした有料サービスのことだ。

Nintendo Switchではダウンロード販売も本格化しており、2018年9月より正式サービスになり、有料化された。1年経過して通期での売上、という意味では、2019年から正式に反映される。

ネットワーク事業での売上は1249億円と、前年同期比48.3%の大幅増。この多くが有料会員からの会費と考えられる。

任天堂は、現状での有料会員数を約1500万アカウントとしている。本体台数から考えれば、決して悪くない数字だ。任天堂の顧客は他のプラットフォームに比べ年齢層が低いと言われているが、それでも市場の「ネットワーク化」は避けられず、ネットワーク事業からの収益が今後も伸びていくものと推察できる。

スマホは「IP活用」の1つ? 任天堂IPの強さで他社と差別化

Nintendo TOKYO

渋谷にオープンした「Nintendo TOKYO」。

出典:任天堂

一方、もう1つの「ネットワークからの収益」である、スマホ事業はさほど大きく伸びていない。

モバイル関連の売上は369億円(前年同期比10.6%増)と、他のジャンルに比べ低い。2019年は「マリオカート ツアー」などの大型タイトルがあり、任天堂も「好調」としているものの、任天堂のもつ、圧倒的なIPの知名度やSwitchでの売上に比べれば、大きな収益をあげられているわけでもない。

任天堂の基本戦略

任天堂の戦略の柱は「IPの強さ」。「Nintendo TOKYO」などのロケーションやスマホアプリなどを介してIPに触れる人の数を増やし、任天堂の強みとするゲームへと顧客を引き込む戦略だ。

出典:任天堂

任天堂はスマホゲームなどのモバイル関連を「IP展開」の1つと捉えているようだ。決算の中での言及もそこまで多くない。これは筆者の予測だが、過去と違い、同社内でのスマホ事業の位置づけは変わってきたのだろう。

Switch発売前は、「スマホゲームがなくてはゲーム会社としての収益性に問題がある」という見方も強かった。しかし現在は、SwitchにしろPS4にしろ、「スマホではないゲーム市場」でも力強い売上を出せるようになってきている。

また、スマホゲームのトレンドも、「フォートナイト」「PlayerUnknown's Battlegrounds(PUBG)」「‎Call of Duty: Mobile」のような、PCや家庭用ゲームに近いタイトルが大きな収益を生み出す形に変わってきた。いわゆる「ガチャ型」ゲームについては、特に欧米での風当たりも大きい。

SUPER NINTENDO WORLD

ユニバーサル・スタジオ・ジャパンにオープン予定の「SUPER NINTENDO WORLD」も任天堂のIP戦略の1つ。

撮影:小林優多郎

任天堂としても、スマホゲームは慌てず、時流をみながら「IPの活用」として広げて行く戦略に変えているのではないだろうか。

(文・西田宗千佳)


西田宗千佳:1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。取材・解説記事を中心に、主要新聞・ウェブ媒体などに寄稿する他、年数冊のペースで書籍も執筆。テレビ番組の監修なども手がける。主な著書に「ポケモンGOは終わらない」(朝日新聞出版)、「ソニー復興の劇薬」(KADOKAWA)、「ネットフリックスの時代」(講談社現代新書)、「iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏」(エンターブレイン)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか 「スマホネイティブ」以後のテック戦略」(講談社)がある。

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