気鋭の広告クリエイター、三浦崇宏。三浦の元には仕事や恋愛、人生に迷っている若者たちが、熱き言葉を求めて集まる。“令和初のバズり女子大生”くつざわさん編の最終回となる今回。「何者かになりたい」と思うすべての若者へ、GO三浦が送る愛の提言とは?
好きなものを書くより、頼まれたものを書け
三浦崇宏(以下・三浦)
「文章で身を立てたいけど、仕事として書かなきゃいけない文章がしんどい」というくつざわさんに、ひとつ言わせて。
くつざわ
はい。
三浦
好きなものを書くより、頼まれたものを書く方が、人は力を発揮するよ。もっと言うと、どんな仕事でも頼まれてやらなきゃダメ。
自分が“好きで”やってるものは、なかなか仕事になんないよ。
くつざわ
そうなんですか。
三浦
面白い話があってね、他業界から映画監督になった人っているでしょ。写真家から監督とか、お笑い芸人から監督とか。でもこの中で、作品が世界中から高く評価されたのは、北野武くらいじゃないかな。他の人は駄作って言われて超ディスられてるでしょ。誰とは言わないけど。
くつざわ
へえーーー!
三浦
実は、北野武以外のアーティストは、全員“好きで”映画に進出してるの。もともとの分野で有名になって実績もできて、「そろそろ映画やってみたいんすよ」と言って映画を始めてるわけ。映画というものに憧れのある世代だから。
くつざわ
たけし(北野武)さんは違うんですか。
三浦
たけしだけは、当時ヤクザ映画の天才って言われてた深作欣二監督が監督を降りちゃったので、そのいわば代役として「北野武」名義で監督を引き受けた。それが監督第1作の『その男、凶暴につき』。
くつざわ
ほーーー。
三浦
たけしは、「いやあ、代役か。エライことになっちゃったな」みたいな感じで撮ったから、めちゃめちゃ抑制の効いた、人が観るべき作品になってるんだよね。
だけどたけし以外のアーティストは「こんな有名になったんだから、そろそろ映画いいんじゃない?」って気持ちで、半分ご褒美とか趣味の気持ちで撮ったから、ちょっとバランスを欠いちゃったわけ。
くつざわ
それ、よく分かります。
三浦
これをくつざわさんに置き換えてみるとね。動画作る時って、めちゃめちゃトライアンドエラーとかお客さんの反応とか考えるじゃん。
でも文章って、もうちょっと好きにやっちゃっていいんじゃないか?って気持ちが入るでしょ。それだとバランスを欠いちゃうんだよ。
だから、今あなたに文章の仕事が来てるんだったら……その仕事にひとつひとつ、ひたすら誠実に応える、でよいと思う。そのほうがきっと力を発揮できるから。
くつざわ
はい!
「仕事ひとつひとつに誠実に向き合う」。クリエイターだからこそ、この実直さが重要なのかもしれない。
お母さんが「なってほしい娘」になりたかった
三浦
そもそも、なんで最初「メディアを立ち上げたい」って思ったの?
(前編参照)
くつざわ
お母さんに「メディア立ち上げたよ」って言いたかったんですよ。
わかりやすく成功を提示してあげたくて。
「この記事が拡散されたよ」とか言っても、お母さんはSNSすごく疎いし、最近スマホ持ち始めたくらいだから、絶対分かんない。だったら「立ち上げた」ってわかりやすいんじゃないかと。
三浦
なんでお母さん?
くつざわ
私、中学から高校にかけて女優を目指してた時期があったんです。
ただ、どっかの時点で「あ、これ無理だ」ってなって、お母さんに「どんな私になってほしい?」って聞いたら、「有名人か社長」って(笑)。
三浦
シンプルでいいねえ。
くつざわ
私、夢というものがなかったので、じゃあお母さんの言う私になりたいなって。お母さんが言う「こうなってほしい娘」になるのが、私の夢になったんです。
三浦
なんでそうなったと思う?
くつざわ
親孝行したいんです。うちは母子家庭で、お母さんが自営でお店をやってるんですけど、結構苦労人で、ほんといろいろなことがあった。
お母さん、お店の常連さんに子どもの自慢話をする時が一番楽しそうなんですよ。じゃあ自慢できることを、いっぱい作ってあげたいなって。
三浦
これはすべてのモテる男が女の子に言うことなんだけど、女の子から「何食べたい?」って言われた時に「くつざわさんが食べたいものが俺も食べたいよ」って返すんだよ。何も考えてない。で、お母さんの気持ちもそれに近い。
くつざわ
えーーー!
お母さん想いのくつざわさん。Twitterからも家族の仲の良さが伝わってきます。
三浦
「有名人か社長」なんて、たいして考えてない答えでしょ。だから、お母さんの言葉になんかに呪われないで、くつざわさんがなりたいものになったらいいよ。著書とか出して渡してあげたら喜ぶと思うし。
あのさ、くつざわさんのお母さんって、愛も知性もある方だと思うけど、たぶん知識のある方じゃないでしょ?
くつざわ
そうです!
三浦
知識と知性は違うからね。すごく失礼に聞こえるかもしれないけど、あえて言うね。お母さん、“町のバカなおばさん”じゃん。町のバカなおばさんなんて、本渡したら喜ぶから。
くつざわ
絶対そうです。超おおまかに、「テレビ出るよ」って言えば、わあ!ってなる人なんですよ。うん、本書いて渡します。
三浦
親のことは大事にした方がいいけど、親の言ってることを真に受けることほどバカなことはない。ホントおおまかにさ、有名人と肩組んで写ってる写真とお金渡しゃいいんだよ。親なんてそんなもんだから。
くつざわ
(笑)。でも本当にそう。「お母さん、わたし今月の収入このくらいだったよ」って言う方が、記事拡散された時より喜ぶんです。
実力よりも先に影響力を身につけてしまうと、死ぬ
三浦
相談の脈略と全然関係ないんだけど、くつざわさんへの提言を通じて、この記事を読んでいるすべての人に、伝えておきたいことがある。
くつざわ
はい?
三浦
「何者かになりたい」って気持ちはすごく大事なんだけど、実力よりも先に影響力を身につけてしまうと、その影響力に呑み込まれて全員死ぬ。
くつざわ
それ、マジできついです……。
三浦
名前は挙げないけど、Twitterのインフルエンサーとしては一流なのに、自分が肩書きとして掲げている仕事人としては2.5流って人、いるでしょ。
くつざわ
……。
三浦
本当にプロになりたいんだったら、その仕事のプロの下について精進すればいいんだけど、当然ゼロベースからだから、キツいことを言われる。逃げ場がない人間は頑張れるんだけど、実力よりも先に影響力を身につけた2.5流の人は、それに耐えられる強靱なメンタルがない。一度Twitterやインフルエンサー飲み会でチヤホヤされちゃってたりすると、とても頑張れない。
くつざわ
やっぱ、実力ありきなんですよね。私も全然、本当にたまたまバズった部分があるので、他人ごとじゃない。
三浦
結果、Twitterのフォロワー数は多いけど、実力が伴ってないから本業の仕事では「ぜんぜん売れない人」になっちゃうわけ。これ全然ハッピーじゃないでしょ。
くつざわ
私、「実力ありきの人間」って前提で接せられることもあるんですけど、もちろん実力も自信もない部分があるのに、その人の抱く“くつざわ像”に合わせて演じてしまうことがあって……。
三浦
それでいいんだよ。ただ、他人に嘘つくのはいいんだけど、自分にだけは嘘ついちゃいけないよ。人に虚勢や見栄を張るのはいい。仕事だし、相手はお客さんだし、「私、この人が思ってるほど実力ないのにな」って思うからこそ必死になれる。だけど、自分で自分を騙したら終わり。
本当は実力がないのに実力があると自分自身で勘違いして、相手にも「私は巨匠ですから、こんなもんでどうでしょう」なんて傲慢な態度をとってたら、ただただ次の発注がなくなるだけ。
くつざわ
うわあ……。
三浦
しかも、それがダメだってことを、誰も教えてくれない。
くつざわ
怖いですね……。
三浦
世の中、チャンスと期待と実力がぐるぐる回ってる。チャンスをもらって期待されて、実力がついて、実力があるからまたチャンスが来る、みたいな。くつざわさんの場合は、期待があるからチャンスが来た。
じゃあチャンスが来たから次、実力がつくかどうか。ここが勝負だよね。実力がついてるかどうかの判断基準は、発注元から次の発注、つまり「お替わり」が来るかどうか。
くつざわ
おっしゃる通りです。いや、今日は本当にもう……。三浦さんに指摘された自分を、どこか認めたくなかった部分が今まではあったんですけど、お話しして、そこに目を向けることから逃げてたなって気づきました。
三浦
頑張って書いて、書いて、書いて、書きまくって、本当に才能があったらいつかヒットするから。
くつざわ
とりあえず1年、文章を頑張ります!
三浦
いつでも連絡してよ。
くつざわ
ありがとうございます!
三浦さんとの対談を終え、清々しい表情のくつざわさん。くつざわさんの熱き文章、期待してます!
(構成・稲田豊史、連載ロゴデザイン・星野美緒、撮影・志賀俊明、編集・松田祐子)
三浦崇宏:The Breakthrough Company GO 代表取締役。博報堂を経て2017年に独立「表現を作るのではなく、現象を創るのが仕事」が信条。日本PR大賞をはじめ、CampaignASIA Young Achiever of the Year、グッドデザイン賞、カンヌライオンズクリエイティビティフェスティバル ゴールドなど国内外数々の賞を受賞。広告やPRの領域を超えて、クリエイティブの力で企業や社会のあらゆる変革と挑戦を支援する。初の著書『言語化力(言葉にできれば人生は変わる)』が発売中。発売前から予約でAmazonのビジネス書で1位に。
くつざわ:1999年生まれ、千葉県出身。女子大生のあるある動画がTwitterでバズったことにより、3日でフォロワーが5万人増え話題に。現在はライターとして活動 。最近何をしてもフォロワーが減るのが悩み。