気鋭の広告クリエイター、三浦崇宏。三浦の元には仕事や恋愛、人生に迷っている若者たちが、熱き言葉を求めて集まる。 第4回は引き続き“令和初のバズり女子大生”くつざわさんが登場。前回、三浦との対話によって、本当にやりたいことが言語化されたくつざわさん。「文章で影響力を持てる人間になりたい」と確信したくつざわさんは、今回大きな決断をする。
才能とは、人より何かが足りないこと
三浦崇宏(以下・三浦)
くつざわさんは、自分の文章で人を動かして、それが結果的に経済現象になるような人になりたいんだよね。だったらメディアなんか立ち上げなくてもいいでしょ。自分が書いたコラムが何十万PV取って、1回のタイアップで1000万円くらいもらえる、みたいな存在になりたいんでしょ?
くつざわ
そうだと思います。自分のメディアだったら自分の好きなことが書けるから……という理由だけで、「メディアを立ち上げたい」って言ってました。
三浦
もっとシンプルになったほうがいいよ。くつざわさん、頭いいから手数が多いんだよ。あのね、才能って人より何か能力が高いことだと思ってる人が多いけど、違うよ。才能って、人より何かが足りないことなんだよね。足りないから、早いうちにスタートを決められるわけ。おれなんか就活で12社受けて、博報堂しか受かってない。
くつざわ
それ、すごくないですか。
三浦
いや、広告しかできない男なの。だから10年間ずっと広告やってきて、ようやく今、広告以外のこともやるようになってきた。でもくつざわさんは違うでしょ。最初から木刀で素振りばっかやってれば、そこそこのものになったのに、木刀とグローブとピストルと弓矢を渡されちゃったから、それぞれちょこっと遊んでるうちに、気がついたら何も極められないまま歳をとっちゃった、みたいな状態。それがくつざわさん。
くつざわ
あー、そうなんですよね。で、何をすればいいの?ってなってる……。
いろいろとこなしてしまう器用さが悩みとなっているくつざわさん。
動画は捨てたほうがいい
三浦
すげえシンプルに言うと、動画を捨てた方がいいわ。前回と言ってることが違うけど(笑)。
くつざわ
えっ。
三浦
動画でまじヒットしちゃって“動画のくつざわさん”になったけど、“なりたいくつざわさん”にはなれてないじゃん。なのに、“動画のくつざわさん”をうまく利用しようと思ってるからいけないわけよ。豚肉を使って豚しゃぶ作ろうと思ったのに、間違ってトンカツができちゃったから、その衣をはいで薄切りにして豚しゃぶにしようとしても、うまく行くわけがないの。
くつざわ
ははは(笑)。そうか、動画のファンを文章に無理やり持ってこようとしてるから辛いんですね、今。
三浦
ゼロベースから「文章を書く人間」として修業し直せばいいと思うよ。動画だったら1000リツイートされます、文章だったら2リツイートしかされませんでした。いいじゃん、それで。動画の1000リツイートを担ってた連中がある日突然、「え、くつざわって文章も超おもしろいじゃん」って気づいて、2リツイートが500リツイートになるかもしれない。ただ、ここの誘導をマーケティング的にうまくやろうとしない方がいい。
くつざわ
私、そこをマーケティング的にうまくやる手段がきっとあるはずだと思って、ずっとやってきたんですよ。今はまだ、私にその技術も知識もないから見つかってないだけで。
三浦
たしかに手段はあるよ。下品な大人がそれで騙されるような手段が。
くつざわ
下品な大人!
「下品な大人」に思い当たる人がいるみたいですね。
三浦
「あの動画がバズった私くつざわは、そこそこのファンがついてございますので、御社のPR記事を書いて1本50万でいかがでしょうか」って持ちかけたら、バカな会社は金払うよ。でもそれは、くつざわの文章に金を払ってるわけじゃなくて、くつざわとくつざわの動画の“思い出”にお金を払っているにすぎない。あなたのなりたいあなたじゃないでしょ、それ。
くつざわ
ただ、正直怖いんです。一時期バズって数字を出してたヤツが、いきなりジョブチェンジして文章書き始めました、でも全然反応がありません、って状況が。人の目、気にしいなんですよ、私。
三浦
よく分かるよ。おれだって息を吸って吐くようにエゴサするし(笑)。でも、そんな気持ち悪い自意識のあるヤツしか、Twitterのフォロワー数1万超えたりはしないから。たしかに動画で培ったものをこの先しばらく使わなかったら、フォロワーは減るかもしれない。だけどさ、くつざわの能力やセンスは減らない。いつでも取り戻せると思っといたらいいよ。
くつざわ
そうですか……。
三浦
10万人のフォロワーが毎日2000人減っていくとかしたら、たしかに焦る。でもTwitterのフォロワー数は、おまえの生命線じゃないから。そいつら、別におまえに何もしてくんないから。そいつらが毎日100円振り込んでくれるっていうなら話は別だけど、それはないじゃん。たぶん一生会わないし。
くつざわ
その通りですね。
足し算じゃなくて掛け算をしろ
くつざわさんの悩みに真摯に答えるその眼差しは、まさに“アニキ”。
三浦
「動画でおもしろかった私が、文章でこんなおもしろいこと書くよ」って発想は、“足し算”でしかない。そうじゃなくて、毎日毎日ブログを書いて、noteを書いて、何かのレポート記事を書いて、それが誰かの目に留まった時に、「あの、この超おもしろい文章書いてるくつざわって、あのくつざわか!」ってなった瞬間、“掛け算”になる。くつざわの存在の幅がドンと拡がる。たしかに、早く何者かになりたいって思ってると超焦るけどさ。
くつざわ
うん、めちゃめちゃ焦ってます。
三浦
いったん1年、文章やってみたら? 動画の自分は自分で温存しといて、怖くなったらたまに動画つくればいいじゃん。やっぱり文章を諦めて動画で……ってことになってもいけるんだって分かれば、セーフティーネットとしても機能するし。
くつざわ
いやもう、その通りですよ、その通りでしかない。
三浦
動画は動画で、また何か気が向いたときに趣味だと思ってやればいいじゃん。楽しいよ、趣味だと思ったら。
くつざわ
仕事に置き換えようとしちゃうから、楽しくないんですよね。文章も最近「あ、ヤバい。溜めてる溜めてる……書かなきゃ書かなきゃ」ってなりつつある。
三浦
しんどいっしょ?
くつざわ
はい。早々に書き上げて、早々に遊びに行きたい。
三浦
好きなことと得意なことが違うって、意外とあるからね。残酷なことを言うと、やってもやっても文章がうまくならなかったら、逆に文章の方を趣味にすればいいと思うよ。「趣味でやってるわりには、なかなかイケてる」ってことにした方が、気が楽になるかもしれない。でも、くつざわはまだ20歳だから、何かを諦める理由がひとつもない。いったん文章を死ぬほど書き続けるのをやった方がいいと思う。やっぱ、量だから。
くつざわ
文章の依頼が来ると嬉しいから引き受けちゃうんですけど、本当はnoteで自分の好きなことを書きたいのに、仕事として書かなきゃいけない方を優先しちゃって、それが今すごくしんどいんです。多分、配分をミスってる。
三浦
今のあなたの話って、世の中の有象無象のネットライター志望のワナビー(何かになりたくて憧れている人)たちからしてみたら、ヨダレが出るような話だよ。
くつざわ
本当、ありがたい状況なんですよ。
三浦
何でこんなことやらなきゃいけないんだろうって気持ちと、こんなに私に向いてる仕事はないって気持ちを、行ったり来たりしながらやってくもんだよ。それで1年やってみて、死ぬほどやって、やっぱ楽しくなってきたなってなるか、ちょっと無理と思うか。それが、本当に文章を好きなのかどうかの境目になると思うから。だから、しんどくてもやったらいいよ、来た仕事。やってやってやりまくって、それでも嫌いになれないものが本当に好きなものだから。しんどいし、吐きそうになる。もともと表現なんてそんなもんだから。
※本連載の後編は、2月21日(金)の更新を予定しています。
(構成・稲田豊史、 連載ロゴデザイン・星野美緒、 撮影・志賀俊明、編集・松田祐子)
三浦崇宏:The Breakthrough Company GO 代表取締役。博報堂を経て2017年に独立。 「表現を作るのではなく、現象を創るのが仕事」が信条。日本PR大賞をはじめ、CampaignASIA Young Achiever of the Year、グッドデザイン賞、カンヌライオンズクリエイティビティフェスティバ ル ゴールドなど国内外数々の賞を受賞。広告やPRの領域を超えて、クリエイティブの力で企業や社会のあらゆる変革と挑戦を支援する。初の著書『言語化力(言葉にできれば人生は変わる)』が発売中。発売前から予約でAmazonのビジネス書で1位に。
くつざわ:1999年生まれ、千葉県出身。女子大生のあるある動画がTwitterでバズったことにより、3日でフォロワーが5万人増え話題に。現在はライターとして活動。最近何をしてもフォロワーが減るのが悩み。