事業の統合を発表する日本交通ホールディングスの川鍋一朗氏(左)とディー・エヌ・エーの中島宏氏
撮影:横山耕太郎
日本交通ホールディングス(HD)とディー・エヌ・エー(DeNA)は2月4日、配車アプリ事業「Japan Taxi(ジャパンタクシー)」と「MOV(モブ)」を統合すると発表した。ジャパンタクシーで配車可能な台数は7万台、モブは3.5万台。事業の統合により「日本最大のモビリティサービス」が生まれることになる。
事業統合の背景には、日本における配車アプリの普及が進んでいないことへの危機感がある。
世界ではUber(ウーバー)などの配車アプリが急成長を遂げているが、日本においては配車アプリを使用する割合は、DeNAによると、全体のたった2%だけ。日本のタクシー業界に、スマホ配車アプリは食い込めるのか?
「あくまで対等統合」を強調
事業統合の理由について「タクシー業界の進化をスピードアップさせ、日本のモビリティが世界一と言ってもらうため」と説明する川鍋氏。
撮影:横山耕太郎
2つのサービスの統合は2020年4月に予定され、新会社の社名は現在検討中という。
日本交通HDの代表取締役・川鍋一朗氏が新会社の会長に、DeNAの中島宏・オートモーティブ事業本部長が社長に就任する。持株比率は日本交通HDとDeNAがそれぞれ38%で、残りはジャパンタクシーの既存株主という。
2月4日の記者会見には川鍋氏と中島氏が出席し、川鍋氏は「ジャパンタクシーが吸収したのではなく、対等な事業統合だ」と強調した。
全国47都道府県で展開するジャパンタクシーに対し、モブは京阪神と東京、神奈川に絞ってサービスを運営。数で勝るジャパンタクシー側が期待するのはDeNAが持つ技術力だ。川鍋氏は「モブはいいサービスを出している」と評価し、統合後はマーケティングや新サービス開発でのシナジーに期待する。
配車アプリの「規模の拡大」が急務
「日本は配車アプリ後進国」だと指摘する中島氏。
撮影:横山耕太郎
「最大のメリットを挙げるなら規模が大きくなること。タクシーの台数や、アプリのダウンロード数は、まだまだ発展途上で伸びしろがある」(中島氏)
統合のメリットとして両氏が強調したのは「規模の拡大」だ。裏返してみれば、事業統合に舵を切った要因には、スマホ配車サービスが浸透しないことへの危機感がある。
日本交通などによると、日本における月間タクシー輸送回数は約1億回だが、そのうち国内の全配車アプリを合計したシェアは約2%に過ぎない。まさに「日本は配車アプリ後進国だ」(中島氏)と言える。
普及が進まない理由の一つは、タクシー運転手の平均年齢が60.1歳で、スマホに連動したサービスへの警戒感があることに加え、タクシーを200台以上保有する大規模なタクシー業者は1%に過ぎず、一斉に新サービスを導入することが難しいことなどがある。
「圧倒的に有利にならないと市場は動かない。現状ではスマホのリテラシーが高い一部にしか浸透していない」(中島氏)
ライドシェア解禁ではない解決策
事業統合後に目指す姿として「配車予約」や「相互評価」などを挙げた。
撮影:横山耕太郎
世界ではウーバーのようなライドシェアが普及しているが、日本では自家用車を使って、有償で輸送サービス行うことは禁止されている。
中島氏は「ライドシェアには問題が多く、ライドシェアを解禁すれば問題が解決するとは思っていない」と指摘。
「ライドシェアは世界的にみれば、性犯罪に使われたり、低賃金での労働につながったりと問題が起き、再規制の動きが出ている。日本が周回遅れでライドシェアを解禁しても、遅れて再規制するだけだ」(中島氏)
ライドシェアではない、サービス普及策とは何か?
事業統合後に目指すサービスとしては、両氏が説明したのが「日本市場に適した」サービスだ。
「日本では既存のタクシーが高いクオリティを発展させてきた。法人が雇用する形も多く、そもそも事業構造が違う。コンシューマー側だけでなく、事業者サイドにも好まれる形のサービスにしないといけない」(同)
具体的には、相乗りシステムや定額運賃、車種の選択や、乗客とドライバーが相互に評価する仕組みなどを挙げている。
また他のサービスとの連携についても、前向きな姿勢を示す。
「今後、ウーバーに限らず、日本のタクシーの進化に向けて広く仲間作りをしていきたい。日本の問題を解決することが目的であり、一緒に歩める企業は我々にとってもプラスだ」(同)
日本で配車アプリが定着するか、今回の事業統合が一つの試金石になりそうだ。
(文・写真、横山耕太郎)