「エシカルは儲からない」は嘘!最先端の衣・食・住を通して、未来を本気で考える

笑顔で応じるインフォバーン代表取締役CVO小林弘人氏

インフォバーン代表取締役CVO小林弘人。1994年『WIRED』日本語版を創刊。1998年インフォバーンを設立。2016年、ベルリン最大のテック・カンファレンスTOAの公式日本パートナーとして、エバンジェリストを務めながら、企業・自治体のDXやイノベーション支援を行う。

遠い先の未来だと思っていた2020年がまさに訪れてしまった今、これからの世界のあり方をイメージできている人はどのくらいいるのだろう。私たちはエネルギー不足や温暖化といった環境問題、食料不足に高齢化の加速といった社会問題に対し、どのように向き合っていけばいいのだろうか。

ベルリン発のテック・カンファレンスTOA(Tech Open Air)では、毎回テクノロジーの力を用いて世界に新しいインパクトを与えている企業や個人が集う。世界の各都市でもTOAはツアーを実施しており、東京で開催される「TOAワールドツアー東京」は2020年に3回目の開催を迎え、およそ200名を超える社内起業家やスタートアップ、イノベーションに関わるゲストとともに新たなテクノロジーへの知見と思想を交差させる。ライフテックをテーマにした今回は、衣・食・住から世界を変える方法を探ることになりそうだ。

未来のあり方のヒントを見つけられるイベント、TOAワールドツアー東京2020について、TOAと共催するインフォバーンのCVO小林弘人氏に話を聞いた。

エシカルがビジネスチャンスになる

ファッションショーでのキャットウォーク

Shutterstock / CatwalkPhotos

「日本の企業は『エシカルは儲からない』と言い続けてきました。けれど僕はそんなことはない、今はやり方次第でいくらでも収益につなげることができると考えているんです。むしろミレニアル世代やZ世代のような若い世代は、消費行動の際にエシカルであることを重視している。若い世代は50年後の地球を守ることを本気で考えています」

環境問題や社会問題に対し、これまで日本企業はCSR活動などを通して貢献してきた。この活動はメインの事業とは別枠で考えられており、収益を生むというよりメイン事業で稼いだ資金を充てて社会に還元するものとされてきたのである。

しかし小林氏は、これからは「エシカルであることこそがビジネスのチャンスになる時代」だと言う。

「例えばファッション。これまでもエシカルファッションというジャンルはありましたが、オートクチュールなものばかりで一般の消費者にはなかなか手が届くものではありませんでした。けれどテクノロジーが進歩した今では、資源を再利用したお洒落で機能的な衣服を誰もが手に入れられるようになった。こういったプロダクトは、エシカルであることがモノを選ぶ際の重要な基準になっている人々にとって、大量生産大量消費の思想の元で作られたモノよりもずっと、洗練されていて魅力的です」

多量の温室効果ガスを排出する飛行機での移動を忌避する「飛び恥」という言葉が広く使われるようになったヨーロッパでは、日本よりもさらに進んで若者の意識が変わりはじめており、エシカルファッションにも注目が集まっている。ESG投資(環境、社会、ガバナンスを重視する投資)を含めて、投資家や銀行が持続可能性を追求するライフテック企業に次々資金を投入している例もあり、エシカルはビジネスとして成長が見込める分野なのだ。

テクノロジーが変えるこれからの衣・食・住

水耕栽培の様子

Shutterstock / sippakorn

TOAワールドツアー東京 2020には、社会課題に向き合い、最先端のテクノロジーを用いて未来を変えようとしている起業家たちが多く集う。今回登場する衣・食・住それぞれのサービスやプロダクトの中から、一部を紹介しよう。

【食】究極の産地直送を可能にするInfarm

infarmのウェブサイト

Infarmのウェブサイトより

infarm

Infarmのウェブサイトより

世界人口は2019年から2050年までに21億人増加し、98億人に達する見込みだ。そうなるとまず問題になるのが食料の確保である。Infarm(インファーム)はスーパーやレストランのバックヤードなど省スペースで野菜を栽培できる垂直農業を確立しており、すでにベルリンを中心に複数の店舗でサービスをスタートさせている都市型農業のリーダー格だ。究極の産地直送を可能にしたInfarmは、従来の大規模農業と比較して水や輸送コストをおよそ90%削減することができ、生産や飲食店のあり方、そして流通を変えるだろう。日本にも拠点を準備する同社から、TOAワールドツアー東京2020ではなにかワクワクする発表を期待できる。

【住】住宅難から解放し、暮らしをもっと自由にするCabin Spacey

Cabiin Spaceyのウェブサイト

Cabiin Spaceyのウェブサイトより

人口が集中する都市部では家賃の高騰や住宅難に直面する人々がいる。Cabin Spacey(キャビン・スペイシー)は2人ぐらいが住むのにちょうど良いミニマルハウスを提供し、ビルの屋上などの空きスペースを有効活用することを提案している。物件を保有しローンのために生計を切り詰めて生活するのではなく、より自由に暮らし、住みたいところに住む軽やかなライフスタイルが今後は主流となっていくかもしれない。

小林氏はCabin Spaceyのサービスについて「好きな場所で生活も仕事もできるようにライフスタイルを変化させているヨーロッパの若者の支援を受けて誕生した」と指摘している。

【衣】スタイリッシュかつ環境負荷の低い衣服を作るECOALF

ECOALFのウェブサイト

ECOALFのウェブサイトより

ファストファッションが台頭する半面、ファッション界は大量のごみを排出してきた。しかしここにもエシカルな思想が取り入れられ、ファッションとテクノロジーとが掛け合わされた結果、タイヤやプラスチックを再利用したスタイリッシュな衣服や生分解が可能な素材が生まれている。 マドリード発のカジュアルブランドECOALF(エコアルフ)はリサイクル素材や環境負荷の低い素材・副資材のみで作られた衣服や雑貨を製造・販売している。2020年春からは三陽商会が日本での展開を担うことが決まっており、期待が寄せられる。

「ヴィジョンを描くために、未来のテクノロジーを体感して」

TOA参加者と話をする小林CVO

TOAワールドツアー東京2018より

TOAでは登壇者によるセッションのほか、各ブースで最新テクノロジーを見て触って体感し、すぐそこまで来ている未来の予兆を感じることができる。またネットワーキングの時間もたっぷり設けられており、会場に集った好奇心旺盛で前衛的な考えを持つ人々との自由な会話を楽しむことが可能だ。

「講演だけでなく、そこで出会った人たちとの交流を通してたくさんの刺激を受けてほしいですね。TOAでは、社会が変わる可能性を信じ、そして実際に変えてきた人たちに出会うことができる。いまだビジョンの示されない2025年ごろを見据えてどんな社会になるといいかを考えるきっかけができると思います」(小林氏)

TOAはアクションが生まれる場でもある。自分の意識改革を行うだけでなく、昨年はTOAで出会った人同士が社会課題を解決するための企業を立ち上げた。

欧州の共生型の思想がイノベーションを生む

ベルリンの町並み

Shutterstock / canadastock

小林氏は今後のイノベーションはヨーロッパにヒントを得て起きていくと予想する。

「これまでテクノロジーによるイノベーションは、アメリカ型のディスラプション(破壊的)イノベーションが主流でした。このスタイルは中間業者や不便さを壊すことで発展してきた。顧客至上主義が行き過ぎた企業の中には多数の従業員がウェアラブルやカメラで常時監視され、体調よりも効率化を優先されるケースもありました。対してヨーロッパ型のイノベーションは共生型で、既存の社会に寄り添うものです。僕は日本にマッチするのはこちらのイノベーションだと考えています。今、ヨーロッパではサーキュラエコノミー(資源を循環させることでゴミを出さない経済)に注目が集まっていますが、日本は江戸時代にはそういう文化がすでに出来上がっていた。近年は近視眼的な利益追求に傾いていたと思います。本来の相性はとてもいいと思いますよ」

さらに、あちこちに個性的な都市と歴史があり多様なステークホルダーが共生しているヨーロッパと、それらの小国と同じくらいの人口規模をもつ自治体が独特の文化を形成している日本の状況はよく似ていると言う。

「例えばTOA発祥の地であるベルリンは、東西ドイツが再統一したことで文化の異なる人々が一緒に暮らしていくことになりました。今はたくさんのトルコ系移民やシリア難民らと共生をし、直面する難問と向き合っています」

多様な文化的背景を持つ人々が交わることで共生型の発展を遂げているベルリンが、日本のオープン・イノベーションを進めるために最適なロールモデルとなりそうだと小林氏は話す。

「ベルリン発でヨーロッパや中東、アフリカなどの企業家たちが集うTOAでは、シリコンバレーとはまた異なる現在を知ったり、未来のビジョンにも触れられるでしょう。イノベーションは世界各地で起きています。ぜひ、たくさんの方に体験していただきたいですね」


TOAバナー

2020年2月26日に開催。これからの未来像を描く

TOAワールドツアー東京2020について詳しくはこちら。

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