写真はクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」。2月3日から横浜沖に停泊、一部の乗客からウイルス陽性反応が認めらている。
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日本でも感染が広がりつつある新型コロナウイルスに関連した感染症。1月31日には、WHO(世界保健機関)が「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を発表した。厚生労働省の資料によると、2月21日15時の段階で日本での感染者数は93人(うち無症状感染者14名)。うち1人は2月13日に死亡が確認されている。一方で、すでに症状が回復して退院した人も20人いる。
なお、横浜港に停泊していのクルーズ船では、のべ3011人に新型コロナウイルスの検査を実施し、621人の感染を確認(うち無症状感染者322人)。また、2月20日にはクルーズ船の感染者2人の死亡が確認された。
一方、中国では2月21日の段階で累積感染者が約7万5千人、死亡者は約2200人。重症例は前日比で減少を続けており、すでに症状から回復した人も2万人を超えた。
日本国内でも感染の広がりが見られる中、あらためて新型コロナウイルスの感染状況や対策など、WHOや厚生労働省などの情報を元に整理したい。
1. 感染者は4万人超。致死率は2%程度で推移も、中国以外では1%以下(2/12更新)
武漢では新型肺炎の患者の対応に追われる医療関係者15人も感染が確認された。1月10日撮影。
REUTERS/Stringer
2月11日付でWHOが発表したSituation reportsによると、中国での感染者は4万人を超え、死者も1000人を上回った。中国報道では、感染者は4万5000人に迫っているものの、回復した患者も増え始めており、中国の調査チームによると流行のピークは2月中旬から下旬になるという見解も示された。
2月1日には、フィリピンで新型コロナウイルスに関連する感染症で死者が発生。中国以外で一連の感染症による死亡者が出た初めてのケースに。2月4日には、香港で1人が死亡。中国本土以外での初めての死亡例となった。それ以降、中国以外での死者は確認されていない(2月11日付けのSituation reports参照)。
全世界で見ると、致死率は約2%。一方、中国以外で計算すると致死率は0.2%程度と一気に低下する。一般的には感染症の流行初期には重症者から順番に診断されていくため、今後は軽症の感染者が増えていくことが予想される。それにともない、致死率はさらに下がるとみられる。
2. 致死率は「本当に危ないウイルス」と比べると高くはなさそう(2/12更新)
写真はSARSを診療する病院の外を防護服を着て歩く看護師(カナダ、トロント)。
Reuters
全世界で見たときの致死率が約2%、そして中国以外での致死率は約0.2%。これはウイルス感染症として高いのか、低いのか? 死亡するケースがある以上、一定の危険性はあるといえるだろうが、エボラ出血熱の致死率が50%前後、MERSの致死率が約34%、SARSの致死率が約9%、湖南省で発生した鳥インフルエンザH5N1型がヒトに感染した場合の致死率は約53%だ。
こういった非常に凶悪な性質を持つウイルスと比べると、新型コロナウイルスにともなう感染症による致死率は低いと言えそうだ。
これまでの報告では、死亡した人の多くは糖尿病や心臓病など、すでに別の病気を患っている(既往歴のある)高齢者が多かった。数は少ないながら比較的若い健康な人の死亡例も報告されているため、高齢者以外の人が感染しても大丈夫だとは言い切れないが、少なくとも健康な人が感染してもすぐに生命に危機が及ぶことはなさそうだ。
日本では、特に高齢者の多い老人ホームや病院などで、インフルエンザへの対策と同様の注意が必要だと言えるだろう。
3. 日本での感染者の中には、すでに退院している人も(2/12更新)
撮影:小林優多郎
厚労省からの発表によると、2月10日の段階で日本で感染が確認されたのは26人。うち3人は無症状でありながら病原体を保有している状態だ。23人の症状のある感染者のうち、9人はすでに退院。残り14人のうち、11名は軽〜中等症程度。残り3人については確認中とされている。
また、2月3日から横浜沖に停泊中のクルーズ船では、検査を行った乗船者492人中174人から、新型コロナウイルスが検出された(2月12日10時時点)。さらに、検査を行っていた検疫官1人が新型コロナウイルスに感染したことも報告されている。
4. 新型コロナウイルスは結局ヒトからヒトにうつるの?
中国国内ではヒトからヒトへの感染による拡大が起きている。厚生労働省は「ヒトからヒトへの感染による大きな流行は認められていない」と発表しているものの、日本でもヒトからヒトに感染した事例は確認されている。WHOもすでにヒトからヒトへの感染が起きていることを公式に認めている。
また、WHOによると、咳や熱などの症状が出ている人から感染するケースが大半であるものの、一部では極端な症状が出ていないウイルス保有者からの感染もみられるとしている。
5.感染するとどんな症状があらわれる?
熱や咳、鼻水に筋肉痛、倦怠感。新型コロナウイルスの初期症状は一般的な風邪の症状に近い。
REUTERS
医療系学術誌Lancetには、新型コロナウイルスに感染した患者の症状が報告されている。症状として多いのは、熱や咳、鼻水に筋肉痛、倦怠感。その他、数は少ないものの頭痛や下痢、喀血(咳とともに血が出ること)なども確認されている。重症になると、急性呼吸促迫症候群(ARDS)や肺炎を発症し、結果死亡してしまうこともある。初期症状は一般的な風邪の症状に近い。
6. そもそもコロナウイルスとは?(2/12更新)
写真は1月22日に分離された新型コロナウイルス。今、中国で流行しているウイルスは、SARSを引き起こすウイルスに似ているという。
出典:中国国立病原体ライブラリ
コロナウイルス自体は、発熱や上気道症状を引き起こす一般的な風邪の原因ウイルスとして知られている。人に感染するものは6種類あり、そのうち2種類のコロナウイルスは、中東呼吸器症候群(MERS)や重症急性呼吸器症候群(SARS)の原因とされている。日本で感染しているウイルスは、今回中国で流行している新型コロナウイルスと遺伝的にほとんど同じ(大きな変異はない)だとされている。
また、2月11日、WHOは今回中国を中心に流行している新型コロナウイルスにともなう感染症を「COVID-19」と名付けた。
7. 感染対策は何をすれば良いの?ワクチンはないの?
コロナウイルスの対策として存在する「マスク」。日本でも売り切れが目立つように。
撮影:三ツ村崇志
コロナウイルスの対策として第一に挙げられるのはまずは「手洗い」。次いで、「咳エチケット(マスク)」。これは、一般的な風邪やインフルエンザ対策と変わらない。マスクについては、予防というよりも他者への感染を防ぐ側面が強い。
コロナウイルスは、飛沫感染(つばや咳)や接触感染によってうつる。手すりやドアノブ、電車のつり革など、さまざまな場所に付着したウイルスが手にうつり、その手で目や口、鼻などの粘膜に触れることで体内に侵入する可能性がある。そのため、手に付着したウイルスを除去するために手洗いを徹底したり、咳やくしゃみなどによって飛び散る飛沫が口や鼻に入らないようにしたりすることが重要といえる。
現在、ワクチンの開発が進められているものの、米報道によると完成まで少なくとも1年はかかるとみられており、現時点での対策として考えることはできなさそうだ。
8. 中国からの郵便物にウイルスが付着している可能性は?(2/12更新)
中国やウイルスが見つかったその他の地域から運ばれた郵便物などに接触した人が新型コロナウイルスに感染した例は確認されていない。WHOも、一般的にコロナウイルスは手紙や荷物のような物で長期間生き残ることができないとしている。
では、さまざまな場所(手すりやドアノブなど)に付着したウイルスは、どの程度生きた状態でいられるのか。WHOの報告では、ウイルスが物体の表面に付着した状態で生き残れるのは、せいぜい数時間程度だとしている。そのため、アルコールや消毒液を使って日常的に人がよく触る手すりやドアノブなどを拭くことは、表面に付着したウイルスを殺し、ある程度感染の広がりを抑える効果があると期待される。一方、到着までに数日かかるような国際郵便なら、ウイルスを心配する必要はなさそうだ。
9. 妊婦に感染した場合、赤ちゃんは大丈夫?(2/21更新)
現時点では妊婦が重症化しやすかった例や、胎児に何らかの障害がみられるような事例は報告されていない。
写真:shutterstock
2009年のインフルエンザ流行時には、妊婦の重症者・死亡者が増加した。中国では、生後30時間の赤ちゃんが新型コロナウイルスに感染していたことから、母親から「垂直感染」が起きた可能性(胎内や出産時に感染した可能性)が指摘されていた。
今回の新型コロナウイルスの流行に伴い、2月1日、⽇本産婦⼈科感染症学会は妊娠中、妊娠を希望する⽅向けにメッセージを発信している。
少なくとも、現時点では新型コロナウイルスに感染することで妊婦が重症化しやすくなるような例や、胎児に何らかの障害がみられるような事例は報告されていないという。
2月12日には、新型コロナウイルスに感染していた9人の妊婦から生まれた新生児についての報告がなされた。この報告では、9人の新生児のうち感染者は確認されず、妊娠中に胎児にウイルスが感染する証拠はなかったとしている。ただし、新生児に対するデータ数が少ない上、そもそも妊婦が肺炎を発症した場合、通常の患者よりも重症化する可能性が高いことが知られているため、引き続き一定の注意は必要だろう。
10.「新型コロナウイルスに感染した」と思ったらどうすれば?
新型コロナウイルスに限らず、今はインフルエンザや風邪などを引きやすい季節。厚労省は、咳や発熱などの症状がみられても、新型コロナウイルスへの感染の可能性が疑われる例に当てはまらないような人は、通常通り医療機関を受診しても良いとしている。
一方で、湖北省から帰国・入国した人や、そういった人と接触した人で咳や発熱などの症状がみられる場合は、事前に保健所へ連絡したうえで医療機関を受診するよう求めている。また、病院へ行く際には、他の人への感染を防ぐためにマスクの着用が推奨されている。
11. 新型コロナウイルスに感染したら、治療に抗生物質は有効?
抗生物質は、細菌感染症に対する治療効果はあるものの、ウイルス感染症に対して治療効果はない。新型コロナウイルスは、文字通りウイルスであるため、抗生物質による予防効果や治療効果はない。WHOも、「抗生物質を予防または治療の手段として使用しないでください」と強く指摘している。
12. 感染源は結局何? ペットからうつるの?
中国には野生動物を食べる食文化があり、市場では生きたまま管理されている。
REUTERS/Jason Lee
2003年に流行したSARSは、中国のジャコウネコからヒトにコロナウイルスがうつることで感染が広がった。
また、2012年に流行したMERSでは、サウジアラビアのヒトコブラクダが感染源とされている。今回の新型コロナウイルスも、何らかの動物からヒトに感染が広がり、これほど大規模な感染になったと考えられている。
しかし、現時点で原因となった動物は特定されていない。コウモリが候補として挙げられているが、いまだ確証は得られていない。
中国には野生動物を食べる食文化があり、市場では野生動物が生きたまま管理されている。こういった野生動物との接触によって、最初の感染が起きたのではないかと考えられている。基本的に野生動物を経由して感染するため、ペットから感染することはないといえる。
13. 潜伏期間は?(2/12更新)
撮影:伊藤有
WHOや厚生労働省によると、潜伏期間は1〜12.5日(多くは5〜6日)。そのため、感染者は14日間の健康状態の観察が推奨されている。
一方、2月9日に報告された中国の専門家らの調査結果によると、潜伏期間には0〜24日とかなり幅があることが分かったという(ただし、中央値は3日程度)。
14.濃厚接触ってどういうこと?(2月17日更新)
感染者と「濃厚接触」した人は、感染リスクが高いとされている。ここで言う「濃厚接触」とは、必要な感染予防(マスクなど)をせずにウイルスに感染している人と近距離(2メートル程度)で対面で会話したりすることなどを指す。
15.新型コロナウイルスは、どうやって診断するの?診断方法は?(2月17日更新)
新型コロナウイルスに感染した場合、初期症状は発熱や喉の痛み、咳など、風邪とあまり変わらない。そのため、症状だけからは新型コロナウイルスに感染しているかどうかを判断することはできない。
実際にウイルスへの感染の有無を調べるには、インフルエンザの検査と同じように、喉を綿棒でぬぐい、その成分を装置で分析する必要がある。このときに使用されるのが、PCR法を用いた検査だ。PCR法では、ウイルスに含まれている特徴的な遺伝子を増やすことで、体内にウイルスが侵入しているかどうかを確認できる。
16.子どもが感染したらどんな症状があらわれる?(2月17日更新)
子どもへの影響は、現時点では分からないことが多い。しかし、中国からの報告では、1月30日時点で確定診断のついた9692人の感染者中、生後1か月〜17歳までの子どもの感染者は28人だった。
症状としては、発熱、乾いた咳、倦怠感が多い。一方、鼻水が出たり鼻の内部が腫れて鼻詰まりになったりといった症状は比較的少ない。なお、今のところ、子どもが重症化したという報告はない。
もちろん一部では、嘔吐、腹痛や下痢などの消化器症状もみられているというが、ほとんどが1〜2週で回復したという。小児科学会は、「感染していても無症状である可能性も指摘されていますが、子どもは正確に症状を訴えられない事に注意しなければなりません」と注意を促している。
なお、SARSやMERSといった過去に流行したコロナウイルスを原因とした感染症では、子どもの感染者は比較的軽症であったことが分かっている。ただし、一部では重症化した例もあるため、十分な注意が必要であることに変わりはない。
17. 世界での感染の広がりは?(2月21日更新)
新型コロナウイルスへの感染は、海外でも少しずつ広がっている。WHOが発表した2月20日付けのSituation reportsによると、感染が確認されたのは、日本と中国を除くと20か国以上にのぼる。
特に、韓国で104人、シンガポールで84人とアジアでは感染者が多い。死亡者数も韓国で1人、フィリピンで1人、フランスで1人、イランで2人と、感染者の増加にともない少しずつ確認されている。
※参考資料
・THE LANCET 2019-nCoV Resource Centre
・日本小児科学会 新型コロナウイルス感染症に関するQ&A(2020年2月12日現在)についてhttp://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=326
ダイヤモンド・プリンセス号の写真の説明について、一部表現を修正しました。2020年2月6日 10:00
(文・三ツ村崇志)