トランプ氏の熱狂に誰も勝てない。“本命なき”民主党の深き悩み【米アイオワ・現地ルポ】

アイオワでの民主党党員集会

2月4日の段階で、集計結果2位のサンダース氏。

REUTERS / Jim Bourg

「ウェルカム、候補者&メディア」

中西部アイオワ州都デモインの空港に降りると、大きな垂れ幕。ホテルは、全米から駆けつけた民主党の大統領候補者ファンであふれかえっている。

2月3日、中西部アイオワ州で2020年秋に行われる米大統領選挙の党候補者指名争いの初戦となる党員集会が開かれた。

しかし私は、アイオワ州をあげての興奮に包まれた民主党の党員集会を前に、疑念を感じていた。「果たしてこれで民主党は、トランプ大統領に勝てるつもりなのか……」と。

集会に先立ち、ジョー・バイデン前副大統領、エリザベス・ウォーレン上院議員、バーニー・サンダース上院議員、ピート・ブティジェッジ・インディアナ州サウスベンド前市長、実業家のアンドリュー・ヤン氏の各民主党候補の集会、そして事実上の共和党指名候補であるトランプ大統領の集会に行った。集会を観察するのは重要だ。各候補者の強みと弱点が如実に表れる。

原稿棒読み、弱々しいバイデン氏

まず、世論調査の支持率でトップと最有力候補のバイデン氏(77)の集会には、かなり失望した。いや、アイオワ州党員集会の直後に、不出馬を表明すべきだと思った。

バイデン前副大統領

演台の原稿に目を落としたまま演説するバイデン氏。

撮影:津山恵子

会場は、白人の中年と高齢者が多いため、活気や熱気がない。参加者は目算で約200人で、報道関係者を除いたら、会場はスカスカだっただろう。

バイデン氏は演説の冒頭、ワシントンから駆けつけた下院議員や組合の重鎮などの名前を呼び感謝を述べたが、長くて間延びした。しかも同僚である下院議員の名前すら覚えておらず、原稿が置いてある演台に目を落とした。

演説の間はほとんど、原稿を読むため、下を向いたままつぶやいた。集会を盛り上げる前座を務めた女性下院議員や黒人市長に比べると、声に力強さがなく、よく聞こえない。

2008年から始めた大統領選挙の取材で、集会で原稿を読む候補者は一度も見たことがない。

「昨年の独立記念日に彼に会ったが、背が小さくなり、あんなに弱々しい彼は見たことがない。昔は、肩を叩いたり、ハグしたり、人好きだったが、そんなことももうできない。悪いが、彼の時代は終わった」(バイデン氏を長年知る元政治記者でコンサル会社コンセプト・ワークス創業者エリック・ウールソン氏)

トランプ氏というライバルがすでに決まっている今、有権者が民主党候補を選ぶ際、本選挙中に一騎打ちとなるテレビ討論会でトランプ氏と張り合えるかというのが、判断基準となる。トランプ氏が「うるさい」と思うほどのダミ声でまくしたてるのに対し、バイデン氏は、弱々しすぎて勝てない。そう確信した。

心臓発作という爆弾抱えたサンダース氏

バーニー・サンダース氏

演説は力強いが、昨年心臓発作で倒れたと言う健康面での不安がつきまとうサンダース氏。

Getty Images / Joe Raedle

これに対し、サンダース上院議員(78)は逮捕歴もあるほど長年の市民活動家だったため、原稿は全く必要としない。

同氏は、ワシントンの上院でトランプ氏の弾劾裁判が行われていたため集会に来なかったが、夕食休憩の際、電話で集会の参加者に話しかけた。理路整然、先生が生徒を諭しているような口調は、力強い。目視で1000人はいたかと思う集会は、まだ投票できないティーンズまでいて熱気にあふれ、ロックコンサートのような雰囲気だ。

しかし、サンダース氏は2019年秋、心臓発作で入院している。

「かなりの発作だったと聞いている。それでも診断書を公表しなかった。候補者として透明性に欠ける。また、(政策の柱である)社会主義は、アメリカ民主主義の解決策にはならない」(コンサル会社ヴェラ社長、元ホワイトハウス上級職モー・ヴェラ氏)

同時にサンダースファンは、「中道」や「資本主義」を嫌うところがある。指名候補になった際、伝統的な民主党支持者をまとめることができるのだろうか。

予期せぬことに対応できる?ウォーレン氏

エリザベス・ウォーレン氏

元気いっぱいのウォーレン氏。夫ブルース氏と愛犬はすっかり人気者だ。

撮影:津山恵子

ウォーレン上院議員(70)の集会は、バイタリティにあふれるとともに、子連れの家族も多く、和やかな空気に包まれていた。サンダース氏同様、ワシントンでの弾劾裁判で平日にアイオワ州に来られない間、選挙活動をしていた夫と愛犬ベイリーも同席し、ベイリーとのセルフィーコーナーが設けられるなど、ほのぼのとしていた。

ウォーレン氏は手を振り上げ、文の区切りには、片足を前に高く振り上げる。原稿はもちろんなく、ステージの隅から隅まで歩いた。他の候補者と異なり、質疑の時間があり、1人ひとりの名前を呼びかけて、細やかに答えていた。参加者は、集会が小さな街で行われたので、目視で200人程度。

ただ、一つ気になったことがある。演説の途中、若者が指輪の箱を持ってステージに駆け上がり、ひざまずくというハプニングがあった。その際ウォーレン氏は、ジョークだということを知らせるため若者が立ち上がるまで、口を開けて立ちすくんでいた。

もしかしたら、予期せぬことに弱いかもしれない。トランプ氏との討論会で、思わぬ攻撃があった際、素早く対応できない可能性がある。

党派超え対話を呼びかけたブティジェッジ氏

ブディジェッジ氏

活気に溢れるブティジェッジ氏の集会。参加者の集中度も高かった。

撮影:津山恵子

ブティジェッジ氏(38)は、高齢候補者らが「打倒トランプ」で終わってしまっているのに対し、若いだけにポスト・トランプのアメリカの将来を見据えている印象を強く受けた。集会は、老若男女取り混ぜ、白人が圧倒的に多いアイオワ州でありながら、アジア系、アフリカ系とあらゆる人種が集まり、熱気で暑いほどだった。

ブティジェッジ氏の集会は、参加者約2000人(主催者発表)と、私が今回見た民主党候補の集会で最大だった。

「民主党の中道支持者だけでなく、進歩派でも、共和党支持者でも、僕の政策の一部に共感してくれたら、対話を始めて欲しい」(ブティジェッジ氏)

党派を超えたこうした訴えは、他の候補者からは聞いたことがない。

圧巻の熱狂だったトランプ氏の集会

トランプ大統領

再選を狙うトランプ大統領。彼の放つ言葉一つ一つが、支持者の熱気を加速させていた。

REUTERS / Leah Millis

最後に、最も圧巻だったのは、トランプ氏の集会だ。会場が大きかったため約7600人が集まり、外にも人があふれた。取材の際、声を張り上げて質問しなければならないほど大音響だった音楽も、トランプ氏がステージに登場した際、歓声と女性の悲鳴で完全にかき消された。トランプ氏の演説は、ダミ声の絶叫調で各民主党候補の2倍以上の長さである1時間超に及んだ。

「10、20年後には、CNNなんかなくなっている」(トランプ氏)といった攻撃的な口調に、ジョークでもないのに人々が笑い、「イエーイ!」と掛け声を上げる。

集会の規模、熱気、演説の長さとそこで見せたスタミナにおいて、民主党候補者の誰をも圧倒的にしのいでいた。

「彼が規制を取っ払ってくれて農家はすごく楽になったの。経済は好調、賃金は上がり、株価は過去最高。アメリカは今、トランプのおかげでベストの時代を迎えている」(教師兼農家シャロン・マッキー)

民主党の指名候補となる人物が、果たしてこれほどの熱狂を生むことができるのか。どの候補者も、帯に短し襷に長しで、不安がつきまとう。

アイオワ州党員集会の得票結果は2月4日午後7時(米中部時間)現在、集計率62%で、以下の結果となっている。

  • ブティジェッジ(26.9%)
  • サンダース(25.1%)
  • ウォーレン(18.3%)
  • バイデン(15.6%)

(文・津山恵子)

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