新型コロナウイルスの影響で乱高下をくり返す株式市場。そこではさまざまな人生のあり方が交差する(写真はイメージです)。
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- ジョシュ・エヴァンスは週1日のペースでデイトレードをしていたが、ガン宣告を受けたのを機に、全力で夢を追いかけようと決めた。フルタイムでトレードに打ち込んだのだ。
- 彼は1日に数回、小幅な値動きで利益を確定させる取り引きをくり返し、薄い利益を積み重ねる「スキャルピング」の手法を実践している。
- 本気で株取引に打ち込んでから数カ月目に大きな損を出したが、そこで戦略を見直したのが功を奏した。
ジョシュ・エヴァンスはオーストラリア出身の30代男性。20代のころは、ごく普通のX線技師だった。
しかし、技師として働いて11年が過ぎたころ、彼は仕事に飽きてきた。そこで興味を持ったのが株取引だった。
「遺産相続でちょっとしたカネが入ったおかげで、株を始める元手ができたんだ」
エヴァンスは(2020年1月に)出演したポッドキャスト番組「チャット・ウィズ・トレーダーズ」でそう語った。
友人の情報をもとに買った銘柄はうまくいかず、頭をかきむしったという。
「マーケットについて徹底的に勉強してやろうという情熱がわいてきた。そこからすべてが始まったんだ。ものごとがどう動いているのか、とことん理解しなくちゃ気が済まなかった」
エヴァンスは当時、週1日のペースで取り引きをしていた。まもなくリチウム関連株で好機をつかみ、38万豪ドル(約2500万円)の利益が転がり込んだ。駆け出しのトレーダーにとって衝撃的な金額だった。しかしその一方で、まもなく人生に大きな転機が訪れようとは、彼には知る由もなかった。
「ホジキンリンパ腫(=悪性リンパ腫の一種)と診断されたんだ。2週間足らずで化学療法が始まった」
エヴァンスは続ける。
「悲観的過ぎる物言いかもしれないけど、来週も自分が生きているかどうかなんて分かりやしない。そう思って、僕はちょっと早足になった……つまりこう考えたんだ。やるしかない、いまやらなくて、いつやるんだ」
幸い、エヴァンスは病気を克服できた。ガンと診断され、やりたいことは全力でやろうと決意して以来、彼はいまもフルタイムで株取引を続けている。
ガンを生きのびた男、エヴァンスが選んだ戦略
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「僕はシステムに頼らず、その都度自己判断で取り引きしている。ただし、少額から買える銘柄をある程度の規模でスキャルピングするやり方はいつも変わらない。カタリスト(=相場の変動を誘発する材料)も必要だから、選ぶのは1日を通じて動きのあるインプレー銘柄になる」
スキャルピングは、小さな値幅での取り引きを行い、利益を確定するデイトレードの手法。「ある程度の規模で」と言うのは、小さな値幅でなるべく大きな利益を上げるために、かなりの量の株を取り引きするという意味だ。
エヴァンスはこんな例を挙げた。
「ある銘柄の取り引きで、損益分岐点が1豪ドルだとして、そこを超えてすぐに1.03豪ドルまで株価が上昇したとする。それ以上に大幅な値上がりはないと思ったら、そこで潔く利益を確定するんだ。買いを入れてから1時間以内に売るときもある」
エヴァンスは1日に平均8回、取り引きを行うという。
株を始めた当初は、取引口座に5万豪ドル(約330万円)を置いていたが、すぐに2万豪ドル(約130万円)まで減らし、信用取引に切り替えた。
「取引口座に3万豪ドルを余計に置いておく必要はなかった。レバレッジを利かせればいいので、2万豪ドルでも十分すぎるくらいだった」
決定的な転換点
早い時期に、エヴァンスはかなりの損失を出した。自信過剰になって、自制心を失ったからだ。彼は戦略を変えなければならないと気がついた。
「マーケットは毎日変化する。うまくいっているような気がしても、次の瞬間には相場が変わって、何をやってもダメになったりするものだ。だから、僕はオーダーフローの読み方を真剣に勉強した。すると流れが好転して調子が上向いた」
オーダーフロー分析は、公表されている買い注文と売り注文をもとに、特定の銘柄の値動きを予想するためのものだ。
そうやって戦略を転換するまで、エヴァンスはテクニカル分析の定石でもあるサポートライン(=株価がそこまで下がると、下げ止まるか反発に転じる下値のライン)とレジスタンスライン(=サポートラインと逆の上値ライン)にこだわりすぎて、売買量の分析が抜けていた。
最後に、彼は株価の下降を予測するときの例を教えてくれた。
「大量の売り注文が出たら、オーダーブック(=取引状況データ)を見て少しだけ戻すのを待つ。いくつか買い注文が入ったら、そこですかさず戻り売り(=下げ相場で、一時的な株価上昇を見計らって売る動き)が来るはず」
このような値動きは、売りに出す株を大量に保有しているものの、一度にまとめて放出するのは避けたい機関投資家の動きによって起きると、エヴァンズはみている。
「僕はどうしても短いチャンスに目がいっちゃうんだ」
(翻訳:矢羽野薫、編集:川村力)