上海での「モデル3」生産開始をアピールする、テスラのイーロン・マスクCEO。
REUTERS/Aly Song
- テスラ株がお祭り状態だ。GMとフォードを時価総額であっという間に抜き去った。
- 一方、GMとフォードの2019年第4四半期決算は、しっかり利益は出したもののパッとしなかった。
- 株式市場は「テスラは買い、レガシー自動車メーカーは売り」とみる人もいるかもしれないが、両者が戦っているのはじつは違う土俵だ。
- GMとフォードの最高財務責任者(CFO)が最近出したコメントがまさにその裏づけだ。
- テスラ祭りの派手さに目を奪われ、2つの大事な事実が見落とされている。
これ以上ないほど鮮明なコントラストだ。
テスラの株価は最近、垂直上昇と言っていいほど一気に値上がりし、時価総額1700億ドル(約18兆5000億円)で業界トップのトヨタ自動車に次ぐ第2位に浮上した。
一方、ゼネラル・モーターズ(GM)とフォードはそれぞれ2019年第4四半期と通期決算を発表。GMは50日間におよんだ長期ストライキの影響を吸収し、調整後ベースで黒字を確保。フォードは売上収益でかろうじてアナリスト予想を上回った。
そんな状況のなかでも、レガシー両社は合わせて68億ドル(約7400億円)の利益を出している。テスラは2019年第3、第4四半期と2期連続で黒字決算だったものの、通年では8億6200万ドル(約940億円)の赤字だった。
それにしても、テスラの株価上昇は悩ましい。超強気のスタンスで、コアビジネスのEVがいま爆発的な成長の段階に差しかかっていると考えたとしても、ほとんど非合理的な値上がりだ。
テスラはEV市場で圧倒的なシェアを誇る。ただ問題は、その市場がどこまで広がるかだ。
電気自動車市場が広がってほしいけれど……
テスラ好調を支える「モデル3」。日本では511万円〜。
Screenshot of Tesla website
テスラの株式総額は、いまやGM(約480億ドル)2社とフォードを1〜2社まるごと買えてしまう規模。それならテスラ車はもっともっと売れていてもいいはずだが、実際にはグローバル市場の2%にすぎない。
業績を底上げする役割を果たしてきた温暖化ガス排出枠(クレジット)の販売機会があるかぎり、テスラは理論上、売上収益で年300億ドル(約3兆2700億円)、純利益で1株あたり4ドルほどのパフォーマンスを出せるはずだ。
同社は10万ドルのEVから5万ドルのEVに重心を移す販売戦略をとっている。ただ、現実にはシフトではなく、5万ドル台の「モデル3」だけが爆発的に売れて、7万ドル台の「モデルS」や10万ドル台の「モデルX」はそれに彩りを添える程度、という状況になっている。
他のメーカーはさまざまなEV車種を発表しているものの、市場に殺到するほどの勢いはない。
そんなわけで、いま見えているのは、小さくて儲けの薄いテスラ車の市場があり、それとは別に、もっと確実に儲かる従来型のガソリン車やハイブリッド車の市場が広がっているという構図だ。
フォードが開発中のEV「マスタング・マックE」。
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2月4日に通期決算を発表したフォードのティム・ストーンCFOは、一時的な支出を第4四半期に計上するなど、結果的に2019年は残念な数字となったが、今後については楽観視しているとBusiness Insiderに語った。110億ドル規模の経営再建は引き続き計画通り実施していくという。
ストーンCFOによると同社は、稼ぎ頭である「F-150ピックアップトラック」のデザイン見直しを含め、ラインナップの4分の3を2020年中に刷新する。また、北米市場では収益を期待できる車種にリソースを集中させる。
フォードが提案するEVの看板とも言える「マスタング・マックE」については、すでに多くのファンから熱い視線が注がれているとのことだが、そこにテスラとの現実の競合関係はない。
(2019年11月にテスラが発表した全電動ピックアップトラックの)サイバートラックは注目を集めているものの、市場投入はまだされていないし、フォードのF-150は40年以上売れ続けてきた人気車種で、その人気が急落するとも思えない。
GMとフォード、テスラとの違い
GM傘下「クルーズ」が開発を進める自動運転車。ホンダも約3000億円を出資。1月にカーシェア向けモデルをお披露目した。
Cruise
GMはまた別の販売戦略を採用している。同社の時価総額はおよそ500億ドル(約5兆5000億円)、傘下の自動運転開発会社「クルーズ」の評価額は200億ドル、合わせて700億ドルだ。
GMはクルーズに毎年10億ドルを投じ、他社に比べるとやや控えめだが、「自動運転+EV」に未来を託すべく開発を進めている。
同社のディビア・スリヤデバラCFOは、2019年第4四半期および通期の決算カンファレンスコールで、自動運転は「目を見張るほどの」ビジネスチャンスで「コアビジネスにも匹敵する」と表現している。
GMもフォードも、いまは健全な経営や新たな可能性の追求に重心を置いていて、ビジネスの規模感にはこだわっていない。例えば、GMはかつて1950年代にアメリカ市場で半分以上のシェアを占めたが、同社からその類の話はもう出てこない。
健全な競争環境が生まれ、すべては過去に押し流された。往年の地位を取り戻すのにリソースを浪費するほど、GMは愚かな会社ではない。
健全な事業運営を求めているのはテスラも同じだが、不幸なことに、同社は資金需要の多くを株式市場からの調達に依存しているので、GMやフォード以上に株価を吊り上げる話題づくりが必要となるわけだ。
テスラの時価総額は「理にかなわない」
テスラが上海で稼働させた「ギガファクトリー」の外観。近い将来、週3000台の生産を目指す。
REUTERS/Aly Song
しかし、話題づくりは投資家の注意をそらす小細工にすぎない。
フェラーリの時価総額が320億ドル(約3兆5000億円)というのは理にかなっている。年間1万台の車をそれぞれ数千万円というものすごい値段で売っているからだ。けれども、世界の自動車販売額の2%しか売っていないテスラの時価総額が独フォルクスワーゲンより高いというのは、やはり理にかなわない。
そもそも車を買う人の多くはオール電化車がほしいなんて思っていない。ほしいと思ったとしても、テスラほど高い車には手が出ない。値上がりを続けてきたアメリカ車の平均価格はいまや3万5000ドルにも達するのに、テスラはいくらか廉価なモデルでもそれより1万ドル以上高い。
だから何だと言われればそれまでだが、フォルクスワーゲンの世界新車販売台数シェアは12%、テスラはたったの0.5%だということを忘れてはいけない。
テスラが上海で稼働させた「ギガファクトリー」の内部。
REUTERS/Aly Song
テスラへの投資は、まだ見ぬ未来に対する大きくリスクの高い賭けのようなものだ。株価上昇はまったく馬鹿げたレベルで、どんなに最高の成長シナリオを描いてみても、実体とは釣り合わない。
仮にそうした成長シナリオがありうるとしても、その実現には相当な金が必要になる。テスラが世界販売額の5%シェアを獲得するには、0.5%拡大するごとに新たな生産拠点を稼働させる必要になる計算だ。そうした現実については誰も口にしようとしない。
GMが成長分野としてのライドシェアや配車サービスに注目するはっきりとした目標の1つは、製造・マーケティング・販売する車が少なくなるからだ。
ところが、レガシー自動車メーカーがかつてそうしたように、テスラはいまふたたび大きな資本が必要になる道を歩もうとしている。テスラの強気戦略が功を奏し、これから数年の間に数百万台のEV販売に成功するとしても、必要なコストが大きすぎて破綻するかもしれない。
目の前には2つの市場が選択肢としてある。1つは、広大で儲かるがもはや成長はしない市場。もう1つは、狭くて儲かることはまれだけれども、成長を望める市場。
かつて世界を制したGMとフォードが、あえて規模縮小の道を歩んでいることは何か間違っているのか、問い直してみる必要があるだろう。
(翻訳・編集:川村力)