キャリアのピークは60歳でいい。ポスト日本型雇用の時代に「プロ領域を積み増す」転職のススメ

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新卒就職後すぐに転職を考える人の数も増えている。

撮影:今村拓馬

2020年も「春闘」議論が始まった。

筆者が大学を卒業して就職した1980年代前半は、日本が急激に成長し、GDPで世界第2位に躍り出て、自動車、鉄鋼、半導体などの分野でアメリカの地位を脅かそうとしていた時代だった。

ハーバード大学エズラ・ヴォーゲル教授の著書『ジャパン・アズ・ナンバーワン』がアメリカでベストセラーとなり、経営学の分野でも「日本型経営」がもてはやされた。

日本型経営の大きな特徴は「終身雇用」だった。社員たちの企業への長期コミットメントが強さの源泉となり、社員にとっても、ひとつの企業で勤めあげることが安定した生活を支える絶対的基盤と言われた。

しかし、企業も個人ももはやそうした妄想は抱いていない。経団連の中西宏明会長も、(終身雇用を前提とする)日本型雇用は国際競争力を考えると限界にきているとはっきり述べている。

ほとんどの読者がいま実感されているように、転職はすでに当たり前の時代になってきている。世界中からやって来る人材との競争もますます進んでいくだろう。もちろん、そうでなければ日本企業は世界で生き残っていけない。

世界のエリートたちは、転職によって自分のキャリアを形成している。日本でもそんな流れが生まれつつある。ただし、そうした社会で生き残っていく術を身につけた人材は日本にはまだまだ少ない。

どうすればいいのか。筆者はまず、転職を「PLとBSで考える」ことをオススメしたい。

「バランスシート重視」の転職とは

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終身雇用はすでに過去のものとなり、転職はもはや当たり前の時代だ。

REUTERS/Yuya Shino

「PL」と「BS」はいずれも経理用語だ。PLはProfit and Lossの略で、一定期間における収益やそれを生み出すのにかかった費用を指す。BSはBalance Sheetの略。PLが積み重なった結果、資産と負債がどんな状態にあるのかを示す。

言い換えれば、PLはお金の「フロー(流れ)」を、BSは「ストックもしくはアセット(いずれも資産)」を表している。

転職という事象に当てはめて考えると、PLは「新たな会社での給料や満足度」に、BSは「新たな会社で働くことで自分にどんな資産が追加されるか」に相当する。

筆者は国際コンサルティング会社の社長として、中途採用の面接に訪れるたくさんの方々と日々お会いする。その多くが「PL重視」の考えをもっていると感じている。つまりは、給料や企業ブランドが少しでも高いところに転職したい、という人たちだ。

その考え方自体を否定するものではないが、長い人生を考えると「BS重視」のほうが有利ではないかと筆者は考える。

そしてBS重視でやっていく場合、自分が現在抱えるアセットがどんなものなのかを、つねに客観的に分析する必要がある。

プロフェッショナルと言える領域をもっているか

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撮影:今村拓馬

まず、客観的に見たとき、自分が「プロ」と言える領域は何かを考える。具体的に理解してもらえるよう、ここからは個人的体験に基づいて説明したい。

筆者は新卒でトヨタ自動車に就職し、その後30年間、同社で勤務した。転職を考えるにあたり、自分のアセット分析を行った。自分なりに自信のある領域を客観的に整理し、プロと言える領域は何かと考えた。

広報、マーケティング、経営企画などいくつかの分野を経験したものの、いずれも個別のプロと言えるほどではないとわかっていた。けれども、それらをすべて組み合わせた「企業経営コミュニケーション」という分野でなら、プロフェッショナルと言えると考えた。

企業経営コミュニケーションは、経営に関して戦略的に外部とのコミュニケーションを行い、企業のブランドを確立すること、あるいは経営危機時に対外コミュニケーションを通じて企業を救済することを指す。こうした「合わせ技」も、アセットの多様なあり方のひとつだ。

さらに、一種のライフワークとして「マクロ経済とものづくりの関係論」を30年間考え続けてきたことも、プロフェッショナルとしての活用法があると考えた。

結局、このふたつこそが自分のアセットだと整理できた。

次にするのは、整理した自分のアセットをベースに、世界のプロと戦って勝つために何が足りないかを考えることだ。

自分について言えば、それは「グローバル力」だと考えた。自分が定義したプロの領域で、国内でなら確実に戦えると思ったが、果たして世界で戦えるかというと、正直不安があった。そこで、足りないピースを埋めるためには外資系企業を転職先に選んで力をつけるべきと考えた。

ここまでの話をまとめると、自分のプロ領域を客観的に把握した上で、さらに世界との競争を考えたとき自分に何が足りないかを理解する必要があるということだ。

プロ領域が「3つ」ないと世界では戦えない

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撮影:今村拓馬

世界の優秀な人材との競争を考えたとき、3つのプロ領域があるとかなり強い(自分の転職時は2つしかなかったが)。屋根にあたる1つの看板分野を、2本の柱で支えるイメージだ。

筆者について言えば、屋根は「企業経営コミュニケーション」で、柱が「マクロ経済とものづくりの関係論」と(外資系企業でのちに培っていく)「グローバル力」。

こうした構造をしっかりと強固につくり上げていくことがいわゆる「アセット形成」であり、その視軸から新たな仕事を積極的に選び、成長していくのが「BS思考」の転職だ。

高い給与(フロー)より、アセット形成を選ぶほうが結局は長続きする。アセットの価値が高まれば、次の展開は自ずと見えてくる。そしてようやく世界のエリートと戦えるようになる。

とは言うものの、3つものプロ領域を確立するのは至難の業だ。筆者もそれなりに長いキャリアを積み上げてきたつもりだが、いまだに領域の確立は道半ばで、日々努力を続けるしかないと感じている。しかも世界は猛烈な勢いで変化し続けているから、少しでも気を抜くと「昨日の人」になってしまう。

寿命はまだこれからも長くなり、文字通り「人生100年時代」がやってくる。ピークを60歳にもってくるくらいがちょうどいい。Business Insider Japanの若い読者の皆さんにはじっくりと取り組んでいただきたい。

最後に、筆者が考える「BS思考」人材になるための5カ条を紹介しておこう。

  1. 居酒屋で会社や上司の悪口を言っているヒマがあるなら、家に帰って英語と世界史を勉強せよ(英語と世界史はキャリアの“インフラ”。自分でやるしかない)
  2. 人脈は自分で戦略的につくれ(待っていてもほしい人脈はできない)
  3. 自分のプロ領域において、ときどき対外試合に臨め(プロと呼ばれている専門家と議論をするなど自分の「プロ度」を測れ)
  4. 難しそうな仕事は自ら手をあげて引き受けろ(限界まで挑戦することで力がつく。プロはそうやって育つ)
  5. 週末も含め自分の時間をマネージせよ(自分・家族・会社の仕事を時間単位でこなす習慣が大事)

土井正己(どい・まさみ):国際コンサルティング会社クレアブ代表取締役社長。山形大学特任教授。大阪外国語大学(現・大阪大学外国語学部)卒業。2013年までトヨタ自動車で、主に広報、海外宣伝、海外事業体でのトップマネジメントなど経験。グローバル・コミュニケーション室長、広報部担当部長を歴任。2014年よりクレアブで、官公庁や企業のコンサルタント業務に従事。山形大学特任教授を兼務。

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